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涙香迷宮 [日本の作家 た行]


涙香迷宮 (講談社文庫)

涙香迷宮 (講談社文庫)

  • 作者: 竹本 健治
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/03/15
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
囲碁界では有名な老舗旅館で発生した怪死事件。IQ208の天才囲碁棋士・牧場智久は謎を追いかけるうちに明治の傑物・黒岩涙香が愛し、朽ち果て廃墟になった茨城県の山荘に辿りつく。そこに残された最高難度の暗号=日本語の技巧と遊戯性をとことん極めた「いろは歌」48首は天才から天才への挑戦状だった。


前回の「三世代探偵団 次の扉に棲む死神」(KADOKAWA)までが5月に読んだ本で(わずか3冊...)、この「涙香迷宮」 (講談社文庫)から今月(6月)に読んだ本になります。
日本から運んできた本3冊目、です。
これを読んでいる最中に、本を濡らしてしまって(*)、航空便で後から届いた「三世代探偵団 次の扉に棲む死神」を先に読みました。

「このミステリーがすごい! 2017年版」第1位、「2017本格ミステリ・ベスト10」第4位、2016年「週刊文春ミステリーベスト10」第3位で、第17回「本格ミステリ大賞」小説部門受賞作です。
いやあ、なんというか、すごいですね。執念?
いろは48文字を一度ずつすべて使って作る「いろは歌」を48個も作る...(いや、もっとたくさん出てきます) しかも、旧仮名遣いで。すべて竹本健治の自作...
しかもそれが暗号になっている...
一体、何がどうなっているのか。作者の頭をのぞき込んでみたい。
作者はあとがきで、
「作りはじめて分かったことだが、ただ漫然となりゆきに任せるよりも、あらかじめテーマや縛りを決めておいたほうがはるかに作りやすい。そこでいろんな趣向を盛りこんだりして、なるべくバラエティに富ませるように心がけた。」(453ページ)
と記していますが、圧倒されます。
もうこのすごい熱量を前にしては、普通のミステリ部分などの雑さ(失礼)なんか吹っ飛ぶんでしょうねぇ...

個人的には、暗号ミステリは嫌いではないんですが、暗号を解読しようなんってちっとも思わない不良読者で、さーっと読み飛ばすことが多いので、一つ一つのいろは歌の詳細は、さらっと読み飛ばしてしまいました。
この種の暗号は、作者と同等の知識や蘊蓄がないと解けないので、考えても無駄...

これに涙香と連珠の蘊蓄がわんさか盛り込まれるわけです。
あとそれとパズルとシチュエーションパズル。
この作品の場合、暗号や蘊蓄がストーリーに溶け込んでいる、というよりは、暗号や蘊蓄そのものが作品の狙いだと思われるので、正々堂々、蘊蓄のための蘊蓄です。
したがって、暗号や蘊蓄を読み飛ばしてしまうと... はい、普通のミステリ部分などの雑さがぐっときます。
せっかくなので、蘊蓄を犯人の動機の補強材料にでもしてしまえばよかったのに...うまく使えば説得力が増したような気がするんですけど。ただ、やりすぎると犯人がすぐにわかっちゃいますかね?

おもしろいな、と思ったのは探偵役である牧場智久が暗号解読にのめりこむ理由を用意しているところ。
「犯人を炙り出すには、そんな犯人の過度の怯えをさらに強く煽るしかない。そのために僕は暗号いろはの解読に全力を傾けることにしたんです。」(414ページ)(ネタバレにはならないと思いますが、念のため一部色を変え伏字にしました)

ということですので、すごいなぁ、と感心はしましたが、おもしろいっ! おすすめっ! となるかというとためらってしまいますね。
超絶技巧の労作、だと思いますが、傑作や名作という感じではなさそうな...
「本格ミステリ大賞」受賞や、「このミス」第1位はちょっと意外です。

<蛇足>
ミステリ同好会の会員に対し
「そうした浮き世離れした趣味に生きていることが若さを保持させているのだろうか。」(149ページ)
という記載があります。ミステリ好きって「浮き世離れ」なんですね...ぎくっ。

<蛇足2>
と↑と思っていたら、毒物を持っていないかどうか、という持ち物検査をすることになったところで
「今から隠す暇を与えないよう、今このままの状態でだ。各人下着も脱いで素裸になり、衣類を隅から隅まで調べる」(346ページ)
「ほかの人たちはお互いに怪しい素振りがないか見張っていてくださいね」(347ページ)
うわぁ、みんなの見ている前で全裸になるのかぁ...すごい。最終的には広間で男6人が全裸...
まあ、命がかかっているから、ということかもしれませんが、こういうことをやってのけるのも「浮き世離れ」かもしれませんねぇ...

<蛇足3>
あとがきで、
「涙香といえば連珠だから、そちら方面をふくらませればゲーム・シリーズの延長上の『連珠殺人事件』にあたる作品もできる。」(453ページ)
とさらっと書いてありますが、タイトルをどうして「連珠殺人事件」にしなかったんでしょうね?
そうすれば「囲碁殺人事件」(講談社文庫)「将棋殺人事件」(講談社文庫)「トランプ殺人事件」 (講談社文庫)と並んで、それはそれでかっこよかったのに、と思いました。

<蛇足4>
ところで、作中に出てくるシチュエーションパズルの回答が書かれず仕舞いなんですが、447ページで牧場智久が、よく知られた問題のアレンジだ、と指摘していることからすると、しゃっくりを止めるため、ですか?


(*)余談ですが、本(紙)って濡らすとごわごわになってしまって、いただけない感じがしますよね。以前どこかで(TV だったか、You Tube だったか忘れました)海外の図書館で本が濡れた場合の対処法というのをやっていてそれを見たのを思い出してやってみました。
1)まず、タオルなどで各ページの水分を押し当てるようにして拭く(こすらない)
2)次に濡れているページとページの間それぞれにティッシュペーパーを挟む(折りたたんだものを2~3枚ずつ挟んだので結構分厚くなりました)
3)本を閉じて、硬い板状のもので挟み(木製のランチョンマットを使いました)、重しを載せる(今回は重しどころか、ベッドの脚の下に置いてみました! ランチョンマットは裏を外側にして使いました)
4)乾くのを待ち、ティッシュを外しておしまい
素人が適当にやっているので完璧には程遠いですが、濡らしたまま放置しているいつもと比べると格段の仕上がりに満足しました。幸い、今回は水(厳密にはお湯)で、コーヒーとかお茶とか色がついていないものだったのもよかったですね。
今後もやってみようと思いました。(いや、それより先に、濡らさないようにしろ!)


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