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屍人荘の殺人 [日本の作家 あ行]


屍人荘の殺人

屍人荘の殺人

  • 作者: 今村 昌弘
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/10/12
  • メディア: 単行本


<表紙袖あらすじ>
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。
合宿一日目の夜、映研のメンバーたちは肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。
緊張と混乱の一夜が明け――。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった……!!
究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?!
奇想と本格ミステリが見事に融合する第27回鮎川哲也賞受賞作!


単行本です。
第27回鮎川哲也賞受賞作で、「このミステリーがすごい! 2018年版」「2018本格ミステリ・ベスト10」、2017年週刊文春ミステリー・ベスト10、すべて1位。三冠王ですね。

ぱっと書名を見て、「屍人荘」ってなんと読むのだろう、と思ったんですよねぇ。
死人ではないので「しにん」とは読まないでしょうし、ネットで調べると「しびと」としてプレイステーション2用のホラーゲーム「SIREN」シリーズに登場する不死の存在と出てきます。
さて、本で確かめてみると、「しじん」とフリガナがふってありました。
作者の造語、ということになるのでしょうか?
でも、こんな名前建物につけないよなぁ、と思っていたら、
「くそったれ。これじゃ紫湛荘というより屍人荘じゃないか。」(116ページ)
という述懐が出てきまして、語り手が勝手につけた名前なんですね。なるほど。

この紫湛荘を舞台に連続殺人の幕が開くわけですが、目次、受賞の言葉の次に見取り図がついていて、お、館ものだな、と期待が募ります。
でも、冒頭は、班目機関とかいう怪しげな組織(?) をしらべた報告書の最初の部分が掲げられ、ん? と思ったところ。
すると第一章で、神紅大学ミステリ愛好会だ、映画研究会だのが出てきて、ああ、また大学サークル内ので事件なのか、と個人的にはすぐに期待度が下がってしまいました。
第二章の冒頭では、それとは違う研究室が舞台となって変な(?) 断章で始まります。この断章、この後の章でも折々出てきます。
ただ、おおむね舞台は紫湛荘であり、登場するのは大学生とその関係者です。

登場人物の造形にはちょっと馴染めないものを感じながらも(なのでシリーズ化はしないでほしいですね...シリーズ化されそうですけど)、まあ、普通の館ものだなぁ、と思って読んでいたら、第三章でまさに「世界は一変」(帯から引用)します。
ここまでで100ページ。全体の1/3が済んで、ようやく館を舞台にした連続殺人劇の幕開きです。

あちこちの書評でばらされちゃっていますが、この作品のポイントはやはりこのゾンビの登場ですよねぇ。(伏字にしています)
いやあ、ゾンビが出てくる本格ミステリって...
ゾンビのおかげで、吹雪の山荘が成立するってのがすごい。
ゾンビが不可能興味をかきたて、ゾンビが謎解きに生きてくる。
この発想だけで、鮎川哲也賞あげてもいいんじゃないでしょうか(受賞してますって...)。

これ以外にもおもしろい発想があちこちに。
特に終盤で語り手の俺の歯切れが悪くなってくるあたりは、ミステリの仕掛けとしておもしろく感心しました。

問題点は、上記で触れたキャラクター設定以外では、動機、でしょうか。この動機はちょっとないなぁ。
あとは感心しておいてなんだい、と言われそうですが、語り手の俺の歯切れが悪くなってくることに関連する事項(原因?)はかなり違和感があります。
また折々挿入される断章も、付け足し感満載でしたね。ポイントとなるゾンビを登場させるための支えとして挿入されたんだな、と推察しますが、結局きちんとしたケリはつけずにほったらかし気味で、どうやって収束したのか今一つわからない。紫湛荘のパートといかにもバランスが悪いんですよね。こんなことなら断章のような背景説明は一切なく、いきなりゾンビを登場させてしまってもよかったのではないでしょうか?

なので、問題点もそれなりに大きく、三冠王になるほどの作品か? と聞かれると素直にはYESと言えませんが、なによりゾンビの活用をはじめとした発想のきらめきはとても魅力的なので、この「やりやがったな感」「してやられた感」(褒め言葉です)はかけがえないように思いました。
次作への期待は非常に大きいです!


<蛇足>
「俺はホワイダニットに加え、フーダニット、ハウダニットの意味も合わせて説明した。
 それぞれなぜ、誰が、どうやってそれをやったかということだ。フーダニットが犯人、ハウダニットがその手法を示すのに対し、ホワイダニットはそうせざるを得なかった理由を指す」(140ページ)
とありますが、通常、ミステリでいうホワイダニットというのは犯行の動機を探るタイプのものを指すので、この作品でのように
「犯人がなぜこの方法を選んだのか、なぜ今でなければならないのか」(140ページ)
ということを指す語ではないように思います。
もっとも、why には違いないですが...
このあたり、「実は本格ミステリに傾倒していたわけではなく、良き本格ファンなどとは口が裂けても名乗れない身なのです。」と受賞の言葉でいう作者らしい、ということでしょうか...


<2024.4追記>
2019年9月に文庫化されています。書影はこちら。

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 今村 昌弘
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/09/11
  • メディア: 文庫



タグ:今村昌弘
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