SSブログ

ナイト&シャドウ [日本の作家 柳広司]

ナイト&シャドウ (講談社文庫)

ナイト&シャドウ (講談社文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/06/12
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
世界最強の警護官集団「シークレットサービス」での研修のため渡米したSP首藤は初日、フォトジャーナリストの美和子と出会う。国際テロ組織が大統領暗殺を予告し緊張が走るなか、美和子が誘拐される。首藤は相棒バーンと共に警護を完遂し、彼女を助け出すことができるのか。圧巻のボディガードミステリ。


柳広司は今年1月に「キング&クイーン」 (講談社文庫)を読んでいるのですが、感想は書けず。感想を書くのは「ダブル・ジョーカー」 (角川文庫)(感想ページへのリンクはこちら)以来ですから、ずいぶん久しぶりですね。

警視庁警備部警護課、通称”SP”から、アメリカ合衆国秘密検察局警護調査部、通称”シークレットサービス”に研修で遣わされた首藤が主人公です。

「シークレットサービスは、一八六五年、合衆国財務省の法執行機関として創設された。
 正式名称は”合衆国財務省秘密検察局”、アメリカで最も古い犯罪捜査機関の一つだ。
 一九〇一年まで、シークレットサービスの主たる任務は『通貨および政府発行の小切手・債券類の偽造を防止し、国家の経済構造を保持すること』であった。」(259ページ)
「シークレットサービスに《要人警護部門》が設けられたのは一八九四年、偶然の成り行きだ」
「シークレットサービスに大統領警護の法的権限が与えられたのは、一九〇一年にマッキンリー大統領が暗殺され、セオドア・ルーズベルトがその後を引き継いだ翌年からだ」(260ページ)
知りませんでした。皆さんご存じなのでしょうか?
映画や小説でシークレットサービスはそれなりに登場してくるのですが、財務省所属であるとか、昔は偽札バスターだったとか、聞いたことがないように思います。
揚げ足取りですが、11ページに最初にシークレットサービスの名称を掲げる際”財務省”を落としているのはどうしてかなぁ、と思いました。こう書くのが普通?

首藤が研修中に頭角を現し、日本の首相が訪米する際の大統領警護に実際に当たる、という展開なのですが、首藤がスーパーマンなんです。
この設定を受け付けない人もいると思います。
銃規制を求めるデモ中に起こった騒ぎにあたり、首藤が暴漢を取り押さえるくらいはいいのですが、この後も訓練で抜群の成績を収める続けて、他を圧倒するのですから。訓練だけではなく実戦でもいかんなくその手腕を発揮します。
でも、これは
「日本の剣の達人(マスター・オブ・ソードマン)、”ジェダイの騎士”というわけか……」(23ページ)
と首藤の指導役(?)、バディであるサム・バーンが感想を漏らしていることから想像したのですが、わざとそう狙って設定したものだと思います。
また、首藤は主人公なんですが、視点人物になることはほとんどありません。首藤の心情や考えが読者にさらされることもほとんどありません。
このため、物語がゲーム的というのか、非常に乾燥した感じで進んでいきます。

フォトジャーナリスト美和子という人物が出てきて、首藤と絡んでいくのですが、こちらは逆にうるさいくらいに心情描写がされます。
そのため一層首藤の謎めいたところが強調されてはいるのですが、このギャップも読者の好みのわかれるところではないでしょうか。

事件の方は、柳広司らしく、幾層にも入り組んだ構造を作り上げていて堪能しました。
裏の裏は表? 裏? みたいな感じ。こういうの好きなんですよね。
銃規制デモ、国際テロ組織《狼の谷》、《クリスタルタワー》と呼ばれる再開発ビル、大統領暗殺予告、日本の首相訪米、オペラ「魔弾の射手」...
それぞれのパーツも、うまく機能していたと思います。

ところで本書、2014年に単行本が刊行されたもので、本文中に年号は明示されていませんが(読み逃しでなければ)、かなり時代的には遡った設定になっています。
「新たな千年紀を迎えるにあたって合衆国の首都ではあちらこちらで再開発の計画が進行していた。」(266ページ)という記載もありますが、どうしてもっとはっきり何年と書かなかったのでしょう?
ラストを見ると、首藤を主人公にしたシリーズかも可能なようになっているように思われたので、そう思いました。


<蛇足1>
「事前情報になかった現場の状況を鑑みて最善の警護のために行われたものだ」(14ページ)
うーん。「鑑みて」か...柳広司よ、お前もか!

<蛇足2>
「CIAが掲げるというあの皮肉な格言”右手の行いを左手に告げるなかれ”」(402ページ)
ここを読んで、聖書マタイ伝ではなく、渡辺容子の乱歩賞受賞作「左手に告げるなかれ」 (講談社文庫)を連想してしまいました...




タグ:柳広司
nice!(18)  コメント(0) 

nice! 18

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。