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サヴァイヴ [日本の作家 近藤史恵]

サヴァイヴ (新潮文庫)

サヴァイヴ (新潮文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/05/28
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
団体戦略が勝敗を決する自転車ロードレースにおいて、協調性ゼロの天才ルーキー石尾。ベテラン赤城は彼の才能に嫉妬しながらも、一度は諦めたヨーロッパ進出の夢を彼に託した。その時、石尾が漕ぎ出した前代未聞の戦略とは―(「プロトンの中の孤独」)。エースの孤独、アシストの犠牲、ドーピングと故障への恐怖。『サクリファイス』シリーズに秘められた感涙必至の全六編。


「サクリファイス」 (新潮文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「エデン」 (新潮文庫)(感想のページへのリンクはこちら
に続くシリーズで、今回は短編集です。
「老ビプネンの腹の中」
「スピードの果て」
「プロトンの中の孤独」
「レミング」
「ゴールよりももっと遠く」
「トウラーダ」
の6編収録。
ミステリとは言い難いですが、楽しみました!

「老ビプネンの腹の中」の主人公は、白石誓(しらいしちかう)。「エデン」 の主人公でもあります。
ロードレースがチーム競技である認識もない記者から取材を受け、いらいらするところからスタート。
「北の地獄」と呼ばれる過酷なレース、パリ・ルーベが舞台です。
タイトルの老ビプネンというのは、このシリーズに出てくるミッコが披露するフィンランドの神話に出てくる神様。その腹の中に飲み込まれて、そのあと脱出するという話らしいです。
「もちろん、目的はレースで勝つことだ。でもそれは本当の目標じゃない。いちばん大事なのは生き延びることだ。このビプネンの腹の中で。生き延びてそしていつか時がきたらここから脱出する。勝つのはそのための手段だ。」(31ページ)

「スピードの果て」の主人公は伊庭。
チームでのロッカーを探られることが続いたあと、いくつかの出来事が重なりスピードに恐怖感を抱いたエース伊庭。そして迎える世界選手権。
スピードへの恐れをどう克服するか、あるいは克服できないのか、という話ですが、たぶん理解できてはいないものの素人にも雰囲気が伝わってくる臨場感がすごいと思いました。

「プロトンの中の孤独」の主人公は赤城。
スペイン・バスク地方のサン・セバスチャンでアマチュアロード・レースチームで3年過ごし、芽がでないまま、日本へ戻ってきている。
「自分は逃げたことに変わりはなく、そして逃げはじめた人間は逃げ続けなければならないのだ」(105ページ)
と厳しい感慨を抱いています。
そのチームに加わった石尾豪という新人と、チームのエース久米の確執(?) を描いています。この石尾って、「サクリファイス」の石尾ですよね。
チーム内の駆け引き、レースの駆け引きがとても面白い作品です。
「なあ、石尾。俺をツール・ド・フランスへ連れてけ」(135ページ)
という印象的なセリフが登場します。これ、このシリーズでキーとなるセリフですよね。

「レミング」も赤城が主人公で、「プロトンの中の孤独」の後のストーリーです。
石尾がエースになっており、そこへ怪我からエースとしてのレース復帰を目指す安西が絡む。
この作品も、チーム内の駆け引き、レースの駆け引きが結びついています。

「ゴールよりももっと遠く」でも主人公は赤城。
引退した後、指導者(監督補佐)としてチームに戻ってきたという設定。
伊庭と白石が新人としてチームに加わっています。
自転車レース全体をめぐる構図の中でチームが翻弄されます。
「プロトンの中の孤独」で赤城が石尾に言った、「俺をツール・ド・フランスへ連れてけ」というセリフが思い出されるシーンがあります。
「サクリファイス」を読み返さなくちゃ、と思いました。

「トウラーダ」の主人公は白石。
白石はリスボンに移住。同じチーム所属のクレスカスの両親が住む家に居候。
白石は体調を崩し(ポルトガルの闘牛を見たのがきっかけ。タイトルのトウラーダは、ポルトガルの闘牛)、クレスカスがドーピング検査にひっかかる...
白石は復活しますが、苦い後味の作品です。

ミステリではありませんでしたが、シリーズの奥行が広がった作品だなと感じました。
シリーズ次作「キアズマ」 (新潮文庫)にも当然期待します!

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