SSブログ

ペガサスの解は虚栄か? [日本の作家 森博嗣]

ペガサスの解は虚栄か? Did Pegasus Answer the Vanity? (講談社タイガ)

ペガサスの解は虚栄か? Did Pegasus Answer the Vanity? (講談社タイガ)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/10/19
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
クローン。国際法により禁じられている無性生殖による複製人間。
研究者のハギリは、ペガサスというスーパー・コンピュータからパリの博覧会から逃亡したウォーカロンには、クローンを産む擬似受胎機能が搭載されていたのではないかという情報を得た。
彼らを捜してインドへ赴いたハギリは、自分の三人めの子供について不審を抱く資産家と出会う。知性が喝破する虚構の物語。


Wシリーズの第7作です。
前作「青白く輝く月を見たか? Did the Moon Shed a Pale Light?」 (講談社タイガ)(感想ページへのリンクはこちら)を読んでからちょっと時間が空いてしまいました。

今回の舞台はインドです。
ウォーカロンが子供を産んだ、ということの調査に行くわけですが、ウォーカロンが子供を産む(ことができる)となると、ウォーカロンの進化(?) も相当進んできている、ということになるのでしょうか。だからこそ、ハギリたちが調査にいかないといけないわけですが。

文庫の帯に
「逃走中のウォーカロンには、疑似受胎機能が搭載されていた?」
と書いてあって、少々ネタバレ感ありますが、「ウォーカロンが子供を産む」という事象について、いろいろと説が出てきて、そのあたりの手つきがミステリっぽいのが面白かったですね。
(このほかにも、かなり秀逸なミスディレクションも仕掛けられています。ミステリだったら、逆転の発想とか、捻りとかいって、大見得を切ってどんでん返し! みたいになるところを、至極あっさりと、さも当たり前のようにひっくり返していくので、あー、もったいない、なんて馬鹿馬鹿しい感想を抱いたりして……)

ウォーカロンだけではなく、人間にずいぶん近づいてきていたコンピュータであるデボラやオーロラやアミラやペガサスも(コンピュータというよりは、AIというべきなのかもしれませんが)、ますます人間みたいになってきています。
ペガサスの仮説、あるいは研究をめぐるラストのオチ(と呼んでしまってよいと思うのですが)は、腹を立てたり、がっかりしたりする読者もいるんじゃないかな、と思えるのですが、シリーズ的には「ついにここまで来たのか」と感慨を覚えるほどで、個人的には満足しました。

シリーズ的には、前作ラストでハギリ博士の護衛役を外れてしまったウグイが登場してくれて少しうれしかったです。
相変わらずのところも、変わったところも、両方楽しめる、なんだかぜいたくな読後感(?)。

英語タイトルと章題も記録しておきます。
Did Pegasus Answer the Vanity?
第1章 実験値 Experimental value
第2章 理論値 Theoretical value
第3章 現実値 Practical value
第4章 仮言値 Hypothetical value
今回引用されているのは、マイクル・コーニイの「ハローサマー、グッドバイ」 (河出文庫)です。


<蛇足1>
「トウキョーにあることも知りませんでした」(11ページ)
トウキョーという表記が出てくるのはこのシリーズでこれが最初ではないと思うんですが、あれっと思いました。
確か、語尾の長音記号”ー”を使わないというのが森博嗣の流儀だと思っていたからです。この見開きの2ページの中にも、グレィとか、エレベータとか出てきます。
あれは英語の語尾の長音に限ったことなのかも。固有名詞は違う?

<蛇足2>
「子供って、そうなんですよ。考えているわけじゃないの。感情に支配されてもいない。感情的なのは、むしろ成長した大人の方です」
「感情というのは、初歩の知性が作り出した幻想ですよ」(114ページ)
するどいというか、恐ろしい指摘ですね。

<蛇足3>
『「こんな太陽の下で食事をするなんて、幸せだね」僕は呟いた。本当にそう思っているかどうかは自問しなかった。幸せというのは、言葉にすることでしかリアルにならないものかもしれない。』
これまた、含蓄深いというか、考えさせられるコメントです。

<蛇足4>
「そうまでして、子孫が欲しいでしょうか? それよりも、そんな金があったら、自分の寿命を延ばすのでは?」
「うん、私もそういった発想は持ったことがない。ただ、かつては子孫繁栄が人間の欲望の一つだったと知っているだけです」
「自分がいつ死ぬかわからない時代だったからですよ」
このWシリーズのような状況になったら、こういう発想が普通になるんですかね? なんとなく恐ろしいことのような気がします。


<2018.1.28付記>
裏表紙あらすじを、前作「青白く輝く月を見たか? Did the Moon Shed a Pale Light?」のものから変更し忘れていたので、修正しました。失礼しました。


nice!(23)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 23

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。