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注文の多い美術館 美術探偵・神永美有 [日本の作家 門井慶喜]

注文の多い美術館 美術探偵・神永美有 (文春文庫)

注文の多い美術館 美術探偵・神永美有 (文春文庫)

  • 作者: 門井 慶喜
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/08/04
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
榎本武揚が隕石から作ったという流星刀だが、刀身の成分を調べた結果、偽物と断定。しかし神永の舌は甘みを感じていた(「流星刀、五稜郭にあり」)。佐々木の教え子・琴乃が結婚。婚家の家宝、支倉常長が持ち帰ったローマ法王の肖像画は本物なのか?(「B級偉人」)。味覚で美術品の真贋を見分ける美術探偵が大活躍!


「天才たちの値段」 (文春文庫) (このブログの感想ページへのリンクはこちら)
「天才までの距離 美術探偵・神永美有」 (文春文庫) (このブログの感想ページへのリンクはこちら)
に続く美術探偵・神永美有シリーズ第3弾。
「流星刀、五稜郭にあり」
「銀印も出土した」
「モザイクで、やーらしい」
「汽車とアスパラガス」
「B級偉人」
「春のもみじ秋の桜 --神永美有、舌にめざめる」
の6話収録。

シリーズが続いてきたので、レギュラー陣に焦点を当てた作品が増えてきましたね。
特に、佐々木准教授が思いを寄せる教え子(元教え子ですね)里中琴乃をめぐるエピソードが注目でしょうか。
第一話「流星刀、五稜郭にあり」、第三話「モザイクで、やーらしい」では、わざわざ札幌まで馳せ参じます(笑)。
なのに、第五話「B級偉人」ではあっさり結婚されてしまいます。(シリーズ的には琴乃の結婚は大きな局面だと思うんですが、それをあらすじであっさり明かしてしまうというのはどうでしょう?? まあ、その分このブログにも書けちゃうんですが......) しかも、しかも、ラストではイヴォンヌにひどい仕打ちを受けてしまいます。読者としては笑ってしまうところですが、佐々木准教授本人にとっては、さぞがしつらいことでしょう...(笑)。
ちなみに、佐々木准教授は、続く最終話の「春のもみじ秋の桜 --神永美有、舌にめざめる」でもひどい扱いを受けていますが、もうこういうキャラクターなんですね。

今回読んでいて思ったのですが、この「注文の多い美術館 美術探偵・神永美有」 (文春文庫)中、琴乃関連の3作品は、単に真贋を見極めれば終わりとならず、どううまく着地させるかという課題になっています。
「流星刀、五稜郭にあり」は琴乃の家の家宝、榎本武揚にもらった、隕石でできているとされるサーベル。偽物、となってしまうと先祖からの思いが空しくなってしまう。
「モザイクで、やーらしい」はカエサルの時代のものと思われるモザイク画。しかし当時なかった北極星が描かれており......偽物、となってしまうと農家から引き取った琴乃が困ってしまう。
「B級偉人」は、琴乃の嫁ぎ先に伝わる家宝、慶長遣欧使節・支倉常長が持ち帰ったローマ法王の絵。琴乃が偽物、と指摘してしまっているので、あちらを立てればこちらが立たず状態。
こういう趣向おもしろいですよね。
ただ、こうしてしまうと、結局言われている謂れではないものの別の価値があることがわかる、というパターンになり勝ちという問題を抱えますが、どういう別の価値を持ってくるか、が腕の見せどころなのでしょうね。究極のダブルミーニング??
どれも説得力あるな、と堪能しました。

ほかの作品は
「銀印も出土した」は、京都の発掘現場から出てきた銀印、
「汽車とアスパラガス」は、ペリーが徳川将軍に献上した蒸気機関車(の模型)、
「春のもみじ秋の桜 --神永美有、舌にめざめる」は、大正時代の画家・太田聴雨の筆になる、七五三なのに桜が描かれている絵、
を扱っています。
これらも、角度は異なれ、別の価値を体現するものとなっています。おもしろいですよ。
こちらがボケていただけで、「天才たちの値段」「天才までの距離 」 もこういう趣向の作品だったのでしょうか......

「春のもみじ秋の桜 --神永美有、舌にめざめる」は、タイトルにもありますが、神永美有が美術がおもしろいとはじめて思う物語で、シリーズ的には注目ですね。御年、二十歳。
しかも、佐々木准教授(当時のことで院生ですが)とも出会っています! ニヤニヤできます。

第4弾も待っています!!
「銀河鉄道の父」(講談社)で直木賞を受賞し、時代物の作品が多くなってきている門井慶喜ですが、ミステリも忘れないでくださいね、とお願いしておきたいです。



<蛇足>
レギュラー陣であるイヴォンヌの視点で語られる「モザイクで、やーらしい」に、イヴォンヌによる佐々木先生評があるのですが、これがまた激烈で笑えます。
「この知ったかぶりで優柔不断で昇進でなまけ者で文系のZ大学造形学部准教授、佐々木昭友の前にすがたをあらわせ!」(136ページ)
これからすると、文系という属性も罵倒される対象なんですね......




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