閉じられた棺 [海外の作家 は行]
<カバー裏あらすじ>
招待先のアイルランドの荘厳な子爵邸で、ポアロと盟友キャッチプール刑事は再会を果たす。その夜、ディナーの席で、招待主である著名作家が全財産を余命わずかな秘書に遺すという不可解な発表をした。動揺した人々がようやく眠りについたころ、おぞましい事件が……。〈名探偵ポアロ〉シリーズ公認続篇、第2弾!
ポアロ(個人的にはポワロと書きたい...)の公認続編シリーズ、「モノグラム殺人事件」 (クリスティー文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続く第2弾です。
感想を結論から申し上げると、とてもおもしろく読みました!
すごく充実した本格ミステリだと思いました。
この「閉じられた棺」 (クリスティー文庫)は、紛れもなく現代本格ミステリの秀作だと思います。
問題があるとすれば、ポアロものらしくないこと、でしょうか......
お屋敷に集められた登場人物、奇妙な遺言状、そして発生する殺人事件。
うん、道具立てばっちり。
ただ、哀しいかな、クリスティの作品のようにすっきりしていないんですよ。
現代風に、いろいろな要素が絡み合って、複雑に仕上がっている。
被害者が殴られているところを見たという目撃証人がいるにもかかわらず、目撃された当人には犯行が不可能だった、という謎。これも興味深い謎ですよね。
この解決(444ページからポアロが説明します)がある意味肩透かしである点も含めて、きわめて現代本格らしい。
タイトルの「閉じられた棺」というのもそうですね。
誰が話していたのかわからない、立ち聞きされた謎めいた会話に出てくる言葉「棺は開かれているべきだ」。
「彼は死ななければならない。仕方がないのだ。」「絶対に棺は開かれているべきだ。」
おやっと思うじゃないですか。
これに対応して「閉じられた棺」となっているのですね。
でも、これ、謎解きシーンに来ると、がっかりしちゃうと思います。
非常に理に落ちる謎解きになっていまして、これまた現代っぽい。
なによりいいなと思ったのは、犯人が
「人が罰せられずに逃れられる罪は、解決できないと証明された犯罪に限られます。ですから、その罪は絶対に、そして完全に、うまく逃げられるものでなければなりません。真犯人を誰にも--負けを知らないエルキュール・ポアロにさえも--疑われない人物でなければならない。殺人者が有罪の可能性のある容疑者のリストからすぐに除外され、それ以降は疑われたり、罪を咎められたりすることはないような。」(460ページ)
と回想するのですが、その心意気やよし、というところですね。
ミステリの犯人はすべからくかくあるべし、です。
もっともポアロに見抜かれちゃっただけでなく、この犯人の計画では、ちっとも容疑者から除外されたようには思えないところはご愛嬌ですけれども。
かように、隅々までよく考えられているなぁ、と思いました。
「モノグラム殺人事件」 (クリスティー文庫)もそうだったのですが、ポアロものの続編とは考えずに読むのが吉、かと。
ソフィー・ハナの、ポアロものではない作品も翻訳してくれないかな......興味あります。
<蛇足1>
この「閉じられた棺」では120ページに出てくるのを筆頭に繰り返し取り上げられているので、蛇足として扱うと失礼にあたる気もしますが、シェイクスピアの「ジョン王」が使われています。
この作品、知りませんでした......教養のなさが露呈しました。
<蛇足2>
ハットンにとって、どの寝室をだれが使っているかということを私に告げなければならないという試練ほど、彼を苦しめるものはなかったようだった。(133ページ)
なんだかおさまりの悪い文章ですね......
日本語として、「ハットン」と「彼」が同じ人物であるからおさまりが悪いんですよね、きっと。
<蛇足3>
デブの人たちって、食べ物にがつがつするのと同じぐらいお金に対する欲が深いんです。(206ページ)
ソフィー・ハナ、デブになにか恨みでもあるんでしょうか? 笑ってしまいましたが.....
原題:Closed Casket
作者:Sophie Hannah
刊行:2016年
翻訳:山本博・遠藤靖子
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