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アルバトロスは羽ばたかない [日本の作家 な行]

アルバトロスは羽ばたかない (創元推理文庫)

アルバトロスは羽ばたかない (創元推理文庫)

  • 作者: 七河 迦南
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/11/30
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
さまざまな理由で家庭では暮らせない子どもたちのための養護施設・七海学園。勤めて三年目の保育士・北沢春菜は慌ただしくも生き生きと職務に励んでいた。そんな日々の中、初冬のある日に学園の少年少女が通う高校の文化祭で起きた校舎屋上からの転落事件が暗い影を落とす。事故か、自殺か、それとも──? 鮎川哲也賞受賞作『七つの海を照らす星』に続く、清新な本格ミステリ。



鮎川哲也賞を受賞した「七つの海を照らす星」 (創元推理文庫)に続いて七海学園を舞台にした作品です。
「2011本格ミステリ・ベスト10」第5位で、
「このミステリーがすごい! 2011年版」第9位です。

正直、「七つの海を照らす星」、読んでいますが、あまり覚えていないんですよね。ということは、可もなく不可もなく、という読後感だったのでは、と推察できます(自分のことなのに推察というのは変ですが)。
短編がつながって、最後に長編になる、という形の作品に飽きていた、ということもあったのでしょう。
このタイプの作品は、一時期、澤木喬「いざ言問はむ都鳥」 (創元推理文庫)や若竹七海「ぼくのミステリな日常」 (創元推理文庫)あたりをスタートに、東京創元社からかなり出ており、鮎川哲也賞でも加納朋子「ななつのこ」 (創元推理文庫)がこのパターンでしたね。長編を対象とした賞にこのタイプは今一つ感があるなぁ、と思ったことを思い出しました。
最初のころは新鮮だったのですが、作例が積み重なってくると、またか、と思っちゃうんですよね。
そして「七つの海を照らす星」は鮎川哲也賞受賞作で東京創元社から出版されている......

ということで普通だったら、「アルバトロスは羽ばたかない」 (創元推理文庫)は手に取らないんですが、評判がよいので、つい。

屋上から墜落するシーンがプロローグです。
その後、冬の章となり、高校の屋上からの墜落事件を追求しようとするわたしの視点に切り替わります。
冬の章は、断章というのでしょうか、少しずつ細切れになっていまして、その間に、春の章、夏の章、初秋の章、晩秋の章、という4つの章が挟まれます。
それぞれ過去を遡って、いわゆる日常の謎系の謎解きが繰り広げられます。
これらの物語の中に、冬の章で描かれる墜落事件の真相を突き止める手がかりが潜んでいる、という構図ですね。

墜落事件とは穏やかではない(=日常の謎からはみ出た謎)ですが、春の章を読んだときには、なんだ、またこの手の日常の謎なのか、と思ってしまいました。
伏線はとてもきれいにひかれているものの、またこういうパターンのやつか、と思ったわけです。

夏の章の謎は、衆人環視のスタジアムからサッカーチームがまるごと消え失せる、というなかなか大きな謎で、おやっと思ったものの、トリックに難あり、で惜しい。
ネタバレなので色を変えておきますが、「勿論前もって人数分の城青学園のユニフォームは別に用意されていた。」(150ページ)とあっさり書かれていますが、中学生たちがサッカーチーム人数分のユニフォームを用意するのはそんなに簡単ではないと思いますし、小学生ならともかく、中学生だと男女の差はかなり歴然としてくるので11人も揃うとすぐに見抜かれてしまうはずです。

初秋の章が扱う、夏休みの終わりに入所してきた中一の少女が、前の学校のお別れのときにもらった寄せ書きをめぐる謎は、いかにも日常の謎っぽい謎であることに加えて、あまりにもありきたりな解決すぎて拍子抜けしてしまいますが、意外とこういうの個人的に好きだったりして。

晩秋の章では、自分の子供に会わせろと押しかけてきた困った父親の話で、ドタバタ騒ぎはそれなりに読ませてもらえましたが、作者が仕掛けたサプライズは残念ながら不発。かなりの読者は見抜いてしまったのではないでしょうか?

と、4つのストーリーは、楽しめたものの、まあまあ、という感じで、これで年間ベスト10に入るなんて、なんだかなぁ、と思いつつ、さてさて、冬の章の謎解きはどんな感じなのかな? と残りの章を読む進めました。

ところが、ところが。
372ページから373ページまで読み進んだところで、ん? となりました。
確かに、なんとなく違和感を感じつつ読んでいたことは読んでいたのですが、その違和感もすっきり解消します。
うわぁ。
ベスト10に入れる気持ちがわかります。

となると、傑作だ! と普通だったらなるところなんですが......
違和感はすっきり消えてなくなったのですが、読後感はすっきりとは到底いきませんでした。
正直申し上げて、この真相、仕掛け、嫌いです。
作者が勝ち誇っている様子が浮かんで嫌だ、というのもあるのですが(←これは負け惜しみですね)、物語世界としてこの形は受け入れたくない、ということです。
それだけ、話の中に入り込んでしまったということで、作者の腕が確かということではあるのですが、よくもまあ、こんなに嫌な真相を用意したものです。
ああ、嫌だ、嫌だ。
解説で千街晶之が「残酷ではあるけれども、後味は悪くない」と書いていますが、いえいえ、無茶苦茶後味悪いですよ、これ。
ラストも、一見希望があるように見えるけれども、「わたし」のひとりよがりな希望にすぎず、読者は置いてけぼりですよ。

負け惜しみついでに......
読み返してみると、作者はかなり気を配って書かれていることがわかります。
真相に至って、あれっ、と思ったところ(物語早々の12ページ2行目とか、161ページ5行目とか)をチェックしても、もう震えたくなるくらい素晴らしい書き方。
真相を示唆する(といって言い過ぎなら、暗示する)ポイントもちゃんとあります。
なんですが、この作品、アンフェアだと思います。

以下、ネタバレの懸念が強いので、気になる方は飛ばしてください
まず、いきなりプロローグがアンフェアです。肝心なセリフが--ダッシュにしてしまって書かないのは、地の文ではアウトでしょう。
そのあとの行あきもフェア感を損ねています。
プロローグ末尾の「そのやわらかな身体」にある「その」も危なっかしいですね。
前段だけでやめてしまったほうがよかったのでは?

そして、春から晩秋の章は、四つの小さな事件の顛末を書き綴ったノート(344ページ)ということになっていて、そのノートは他人に読ませようとしたものではないはずのものであるにもかかわらず、書き方がまるで小説を書いているかのよう。
「仕事の合間にそんなことをふと考えるわたし、北沢春菜は二十五歳。七海~長いので略します~の保育士だ。」(19ページ)
なんて、自分のためのノートに書く人がいるとは思えません。
この部分がノートであることを極力読者に気づかれないようにする必要があったのだろうと思いますが、フェアにいくには、正々堂々とノートであることを晒し、かつノートの文体が第三者を意識したものになっている理由も(作中には出てこないので、なにか考え出して)早い段階で明かすべきだったと思います。

ちなみに、タイトルのいわれは、アルバトロスは滑空するので羽ばたかない、飛ぶために崖から身を投げて、そして羽ばたくことなく遠くまで行く、ということから来ています。
が、最後に、重い身体を宙に浮かせて飛び立つためには凄い助走と浮く力が必要だから、地上や、水面では、バタバタやって走ってる。つまり、羽ばたいている、というオチ(?)がつけてあります。

ネタバレの懸念はここまで

ということで、作者の技巧、腕前には感心したものの、好きになれない作品でした。残念です。


<蛇足>
一所懸命面倒みたって恩を仇で返されるのが関の山。(194ページ)
高校生のセリフですが、ちゃんと一懸命になっていて、好印象です。
小説だったら、このように、ちゃんとした日本語で書いてもらいたいです。




タグ:七河迦南
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