真実の檻 [日本の作家 下村敦史]
<カバー裏あらすじ>
1994年、現職の検察官が殺人犯として逮捕され、死刑判決を受けた――2015年、大学生の石黒洋平は、母が遺した写真から実の父がその死刑囚・赤嶺信勝であることを知ってしまう。苦悩する洋平は冤罪の可能性に賭け、雑誌記者の夏木涼子と私的な調査を開始する。人はいかにして罪に墜とされてゆくのか、司法とは本当に公正なものなのか、そして事件の真相は!?『闇に香る嘘』の新鋭がおくる、迫真のリーガルミステリ!!
下村敦史の長編第4作です。
自分には実の父がいて、死刑囚で獄につながれているということを母親の死を契機に知った主人公が冤罪であってほしいと調べ始める。
切実ですよね、これ。
ところが、父親の事件である赤嶺事件そのものよりも、他の冤罪事件を調べる、という風に話が流れていくのがとても興味深かったですね。
なので、章立ても、
プロローグ
発覚
第一章 痴漢冤罪疑惑事件
告白
第二章 覚せい剤使用疑惑事件
追究
第三章 ヒ素混入無差別殺人事件
面会
第四章 赤嶺事件
エピローグ
となっています。
いくつかの冤罪事件の真相を探っていくのもおもしろかったですし、その途上で明かされる司法や警察の姿もとても興味深かったです。
なので、下村敦史、おもしろいよねー、というのは間違いないのですが、この作品の場合、根本のところがちょっと理解できませんでした。
この真相はないなー、という感じです。
赤嶺事件の犯人は誰だったのか、という部分は、想定通りでしたが、ここが問題です。
主人公の母は、育ての父は、どういう気持ちだったのでしょうか?
また、獄中の実父の感情も謎です。
このあたりが一番理解できません。
ここが理解できるようにならないと、この作品は成功とはいえない気がします。
<蛇足1>
「ペンは剣よりも強しって、聞いたことあります?」
「はい。ジャーナリストが独裁的な政治家とか暴力的な悪党を記事で批判するときの決まり文句、ですよね。正義を訴える言葉はどんな暴力にも勝る、みたいな意味の」
「言論の強さを訴える名言として使われていますけど、実際は違うんです。原点は十九世紀の戯曲『リシュリュー』に登場するフランスの枢機卿リシュリューの台詞です。権力者にとっては、ペン一本あれば逮捕状にも死刑執行令状にもサインできるから、自分がわざわざ剣で戦うよりも強い、という民衆への脅迫なんです」(142~143ページ)
このエピソード、以前にもどこかで読んだことがあるように思いますが、忘れていて、おやっと思いました......
<蛇足2>
人一倍真面目で、何事にも一生懸命な奴だった(165ページ)
毎度のことで恐縮ですが、一生懸命は目障りですね。
<蛇足3>
『~結果の重大性を鑑みて死刑判決が妥当』という馬鹿げた判決理由で(187ページ)
これ、裁判の判決からの引用なのですが、判事さん、を鑑みて、なんて誤用をしますかね?
父親の思想と由美の苦しみを鑑みれば(317ページ)
という箇所もありますね......
どうも鑑みる=考える、という感じで使われているようです。
とても面白いので、売れっ子作家になってほしい作家さんではありますが、書き飛ばしたりされないよう祈念しています。
<2020.4.22追記>
冒頭の書影が違う本のものを使っていましたので、修正しました。
失礼しました。
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