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小鬼の市 [海外の作家 ヘレン・マクロイ]

小鬼の市 (創元推理文庫)

小鬼の市 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/01/30
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
カリブ海の島国サンタ・テレサで、オクシデンタル通信社の記者として働くこととなったフィリップ・スターク。前任者の死をめぐる不審な状況を調べ始めた彼は、死者が残した手がかり――謎の言葉“小鬼の市(コブリン・マーケット)”――を追いかけるうち、さらなる死体と遭遇する……。第二次大戦下の中米を舞台に、『ひとりで歩く女』のウリサール警部とウィリング博士、二大探偵が共演する異色の快作。


前回マクロイの感想を書いたのは「あなたは誰?」(ちくま文庫) (ブログの感想ページへのリンクはこちら)で2018年11月ですから、間が空きましたね。
今回の「小鬼の市」 (創元推理文庫)は、その「あなたは誰?」のあと、「家蝿とカナリア」 (創元推理文庫)を挟んでマクロイの第6作、ウィリング博士シリーズとしても第6作です。<下の追記ご参照>

なんですけど、ウィリング博士、なかなか登場しないんですよ。
登場人物の会話で名前が出ては来るのですが、本人が出てこない。
最後に謎解きだけ、わーっとやりに出てくるのかな、なんて思いながら読んでいたら、意外な登場(笑)。これ、いいですね。

あらすじには、「ひとりで歩く女」(創元推理文庫)のウリサール警部との共演と書かれていますが、ウリサール警部、記憶にないです......
ちなみに「ひとりで歩く女」は長編第10作で、この「小鬼の市」 より後で書かれたものです。
マクロイ、ウリサール警部のこと気に入ったのかな?
確かに、ミステリの登場人物として魅力ある人物のように見受けられました。

ウィリング博士がなかなか登場しないのもそのはず、舞台がカリブの島国サンタ・テレサ。
コスタリカがモデルでしょうか?

主人公スタークは、通信社の支局長の死を知って後釜に首尾よく座り、前任者の死が殺人だということで、ライバル社の支局長とともに調査を始める、というストーリーです。
警察は事故死として処理をしていて、それをこじ開けるということになるのですが、スターク、客観的にみたら、怪しい.....ウリサール警部が理性ある人でよかったねぇ。ミステリによく登場する頭の固い警察なら、スタークをさっと逮捕しちゃいそうですが(笑)。

事件は、南国らしい怪しげな登場人物たちがあふれかえってきて、どんどん大きい話になっていきます。
第二次世界大戦下という状況も色濃く反映されます。
本格ミステリの枠から見るとかなりの異色作となりますが、おもしろく読めました!


<蛇足1>
内側ではベネシャン・ブラインドが半分閉まっている(118ページ)
ベネシャン・ブラインド? ベネチアン・ブラインドじゃないんだ? と思ってしまいましたが、ベネシャンの方がよくつかわれているみたいですね。
英語のスペルは Venetian なので、英語読みだと、ベネシャンの方が近いですね。
イタリア語の発音はどちらが近いのでしょうね?

<蛇足2>
”プエルタ・ビエハ警察はオクシデンタル通信社の記者セニョール・ドン・フィリップ・スタークの車に赤信号での進行と火災現場への立ち入りを許可する”と印刷されている。(140ページ)
主人公スタークがウリサール警部にもらう許可証の文言なんですが、立ち入り許可があるのは、火災現場、なんですね。火災かぁ......

<蛇足3>
ラテン系の国々ではヒステリーという言葉は自動的に男性にとって不都合な女性の言動にはてはめられることを思い出した。男性のヒステリーに関する新しい研究はまだあまり世に知られておらず、病名がギリシャ語で子宮の意を持つことから女性特有の病気だと思われている。(142ページ)
ヒステリーの語源は子宮だったんですね......

<蛇足4>
原始的な魔術は、どの土地のものであろうと時代を問わず、ある共通した主題にのっとっています。それは権力欲です。あらゆる迷信、あらゆる儀式、あらゆる共感呪術の崇拝物において、目的はただひとつ、権力です。環境を支配するものもあれば、人を支配するものもありますが、いずれも権力にほかなりません。ただし高度な文明を持つ人々の宗教では、原始的な権力欲は磨かれて洗練され、きわめて繊細な形の力に変化しています。なにかというと、一般に”善”と呼ばれるものをつかさどる力です。宗教はもともと欲求を意のままに抑制しようという理念に基づいています。魔術のほうは欲求を意のままに満たそうという考えが基盤です。よって、善という概念は肌の色に関係なく真に原始的な精神にとっては理解しがたいものでしょう。(253~254ページ)
印象に残りました......舞台が中南米で、雰囲気に合っているからかもしれませんが。

<2020.9追記>
本書「小鬼の市」を、ヘレン・マクロイの第6作と書いていますが、間に「Do Not Disturb」というノンシリーズ物が入るようですので「マクロイの第7作、ウィリング博士シリーズとしては第6作です。」と訂正します。
失礼しました。


原題:The Goblin Market
作者:Helen McCloy
刊行:1943年
翻訳:駒月雅子



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