SSブログ

球体の蛇 [日本の作家 道尾秀介]


球体の蛇 (角川文庫)

球体の蛇 (角川文庫)

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/12/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
幼なじみ・サヨの死の秘密を抱えた17歳の私は、ある女性に夢中だった。白い服に身を包み自転車に乗った彼女は、どこかサヨに似ていた。想いを抑えきれなくなった私は、彼女が過ごす家の床下に夜な夜な潜り込むという悪癖を繰り返すようになったが、ある夜、運命を決定的に変える事件が起こってしまう――。幼い嘘と過ちの連鎖が、それぞれの人生を思いもよらない方向へ駆り立ててゆく。最後の一行が深い余韻を残す、傑作長編。


読み始めてすぐ思ったのが「暗い」ということ。
主人公私の一人称でつづられるのですが、暗いですね。
「何かをわざと忘れるほど難しいことはない。思い出したくないと、いくら願っても、記憶の回路はふとしたきっかけで接続され、青いダイオードのように頭の中を冷たく照らす。思い出の陰影が頭蓋骨の壁に浮き出して、私はその陰影を眼球の裏側で凝視する。
 瞼を閉じても、目をそらすことなどできない。」(6ページ)
こう書かれていて、思い出したくない過去の物語であることが示されます。
しかも、この主人公がまた暗いのですよ......
あらすじにもありますが、思いを寄せる女性がいる家の床下に夜な夜な潜り込む、というのですから、常識的な単語で表現すると、変質者、ですね。(もともと、アルバイトでシロアリ・害虫対策の仕事をしているので、地下に潜る行為は慣れたもの、という設定ではあるのですが)

自分の父親から見放された少年が、隣の家族に拾われ、家族を手に入れたのに、自らの手で失っていく、という物語になっており、どうやっても明るくはならない物語なのかもしれませんが、主人公の性格がまた拍車をかけているようです。

印象に残っている部分ではあるのですが、
「同情が一種の快感なのは、責任が伴わないからだ。」(132ページ)
「無根拠といえばそれまでだが、信頼なんて、きっとすべて無根拠なのだ。それだからこそ、裏切られてしまったとき、相手への恨みと同じくらい、自分が厭になるのだろう。」(271ページ)
などという述懐もまた、暗い、ですよね。

タイトルの「球体の蛇」。
蛇は、巻頭の「星の王子さま」 (岩波文庫)の引用からです。
ゾウをこなしているウワバミ、ですね。
球体は、スノードーム。この物語にスノードームは何個も登場します。
スノードームの中の雪だるまを見て「ずっと、硝子の中にいなきゃいけないんだもんね。」と言ったサヨ(41ページ)。
スノードームの中に入れたら「いつも綺麗な景色だけを見ていられる」から幸せかも、と言った智子(151ページ)。
主人公を彩る女性・女の子とスノードームは密接に関連づけられています。
この、蛇とスノードームがラストで結びつき、同時にサヨと智子の観方の違いが昇華していくのは、さすが道尾秀介、見事だなぁと思いました。

でも、やっぱり、ナオが可哀想な気がしてなりません。


<蛇足>
おろし金と半ペタの大根を取り出して(23ページ)
半ペタ? わからず辞書で調べました。2分割した一つのことを指すのですね。
調べているときにわかったのですが、作者ご本人が Twitter でコメントされているのですね。




タグ:道尾秀介
nice!(21)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 21

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。