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赤い博物館 [日本の作家 あ行]


赤い博物館 (文春文庫)

赤い博物館 (文春文庫)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/09/04
  • メディア: Kindle版


<カバー裏あらすじ>
警視庁付属犯罪資料館、通称「赤い博物館」の館長・緋色冴子はコミュニケーション能力は皆無だが、ずば抜けた推理力を持つ美女。そんな冴子の手足となって捜査を行うのは、部下の寺田聡。過去の事件の遺留品や資料を元に、難事件に挑む二人が立ち向かった先は―。予測不能なトリック駆使、著者渾身の最高傑作!


「2016 本格ミステリ・ベスト10」第6位です。

「パンの身代金」
「復讐日記」
「死が共犯者を別つまで」
「炎」
「死に至る問い」
の5話収録の連作短編集です。
 
あらすじにもある通り、架空の(ですよね!?)警視庁付属犯罪資料館〈赤い博物館〉の館長・緋色冴子が安楽椅子探偵をつとめます。
手足になるのは、どえらいミスからその資料館に異動になった元捜査一課の寺田聡。
このパターン、大山誠一郎はレックス・スタウトのネロ・ウルフ、アーチー・グッドウィンを意識したのかな? していないのかな?

「パンの身代金」は、〈赤い博物館〉と寺田のポジショニングを定める重要な作品で、それにぴったりの事件となっていますが、ちょっとプロットに無理があるような気がします。
きっかけとなる事態が発生したとき、犯人はこの作品にあるような行動をとるでしょうか?
物語としてはあり得るし、現実にもあり得るのでしょうが、こちらが甘ちゃんなのかもしれませんが、信じられません。
それでもとても面白かったですが。

「復讐日記」は、証拠として、彼女を死に至らしめた原因を作った男に復讐を誓い実行する男の手記(日記)が使われています。
復讐に備えた日記ということで、ミステリファンだと、ニコラス・ブレイクの「野獣死すべし」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)を連想してしまいますね。
それとどう変えてみせるか、あるいは変えないかというのが腕の見せどころ、になってくると思いますが、十分おもしろかったですね。
日記の使い方としては、こちらのほうが自然かもしれません。

「死が共犯者を別つまで」は、交通事故に遭った男が、25年前に交換殺人をした、と言い残して死んだという発端です。
これはおもしろいですねー。
若干ネタバレ気味ではありますが......(気になる方は次の作品まで飛ばしてください) 交換殺人というのはミステリではちょくちょく見るモチーフですが、それを別のモチーフと組み合わせるというのは新しいと思いました。こんな世界が広がるのですね。

「炎」は、女性誌に載った写真家のエッセイから、過去に起こった迷宮入り殺人事件の再捜査が始まります。写真家は、その事件の生き残り。
この事件、警察の捜査で解決していたような気がしますが、この作品で描かれているような事態は想定しないので明るみに出ないものなのかもしれませんねぇ。

「死に至る問い」は、26年前の事件の模倣犯と思しき事件を扱っています。
かなり無理のある真相だなぁ、と思いましたが、論理のアクロバットというのか、大胆な発想で、ミステリファンの心をくすぐるところが大という感じがしました。


いずれも、かなりたくらみに満ちた作品で楽しめました。
少々無理があっても、なんだか許せちゃいます。むしろ、よくぞここまで、と大山誠一郎に感謝したくなる感じです。
最後に、館長による思わせぶりなセリフが出てくるので、続編を期待してもいいのでは? と思えました。
ぜひ、続編をお願いします。




<蛇足1>
「復讐日記」に、社会人を4年経験した後、学費を貯めて大学に入った男に対し、「あなたの大人びたところが好き」と同級生の女性がいうというくだりがあります。(107ページ)
4つほど年上の男性で、大学生になっているとはいえ実際に社会人も経験している人に「大人びている」というかなぁ、と不思議に思いました。

<蛇足2>
「君の報告によれば、交通事故で死んだ友部義男はズボンの臀部側の左ポケットに財布を入れていたという。ここからわかるのは、彼が左利きだということだ。左利きの人間は、左ポケットのほうが出し入れしやすいからだ。」(206ページ)
あっ、そうなんですか。普通はそうなんですね。
財布を出し入れするくらい、右手でも左手でもできるので、そのときそのときでぼくは右ポケットにも、左ポケットにも入れるので一定していませんね。




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