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失踪者 [日本の作家 下村敦史]


失踪者 (講談社文庫)

失踪者 (講談社文庫)

  • 作者: 下村 敦史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/09/14
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
十年前の転落事故でクレバスに置き去りにしてしまった親友・樋口を迎えに、シウラ・グランデ峰を登る真山道弘。しかし、氷河の底の遺体を見て絶句する。氷漬けになっているはずの樋口は年老いていたのだ! 親友に何があったのか。真山は樋口の過去を追う。秘められた友の思いが胸を打つ傑作山岳ミステリー。


下村敦史の長編第六作です。

「失踪者」というタイトルの作品、折原一にもあったなあ(既読です)、と思ったりもしましたが、まったく作風は違います。

下村敦史としては「生還者」 (講談社文庫)(感想ページはこちら)につづく山岳ミステリです。「生還者」がとても面白かったので、期待大でした。
「この結末、仰天からの“号泣” 傑作下村ミステリー感涙度No.1」
という帯の惹句には少々うんざりしますが、こういう品のない煽り文句は無視して読むのが吉です。

プロローグは主人公真山のペルーでの登山シーン。十年前に遭難した樋口の遺体を迎えに登っている。見つけた樋口の遺体は、十年前の姿よりも年を取った姿だった......
とても魅力的な謎でスタートします。
これが2016年という設定で、樋口の遭難が2006年。
第一章では2003年で、大学を出て山岳カメラマンとして働いている真山が、気鋭の登山家榊知輝の随行カメラマンを努める樋口の姿をTV越しに見ます。それは、最後の登頂の手前で高山病にかかり、足手まといになっている樋口の姿。
第四章で2016年に戻って、十年前のことを探り始める真山。樋口は一旦は生還していた。
これで、死体が年を取っていたという謎は解消してしまいます。このうえない魅力的な謎にワクワクした身にはちょっと拍子抜けですが、今度はなぜ樋口が姿を消したのか、という謎が立ち上がってきます。

第五章では、真山と樋口の出会い、大学時代の回想。
その後、過去の回想と2016年の調査が交互に描かれます。
この回想シーンが個人的には良かったですね。特に大学時代に始まった真山と樋口の邂逅と友情が深まっていく様子、そして意に反し決裂してしまう仲。
特に、独特のスタイルを持っているという樋口の山登りのやり方と樋口の性格が強烈な印象を残します。
卓越した技量を備え超一流のクライマーでありながら、なぜ樋口はサポート役にすぎない(といっても大変な仕事ですが)カメラマンを努めているのか。
真山は、別れてからの樋口の過去を探っていきます。探っていくにつれ、新たな登場人物が出てきて、新たな謎もいくつか。
真山が真相に気づくポイントも、自らクライマーである真山だからこそ気づく点になっていて好感度大です。
ここで明かされる真相は、特に意外なものではないと言っておかないといけないと思いますが、この作品は真山と樋口の物語であり、それに最もふさわしい真相が用意されているという点で、これでよいのだと思います。
あまりにも手垢のついた言葉なので、使うのをためらってしまいますが、真山と樋口の”絆”が、謎解きを通してしっかりと浮かび上がってくるのがポイントだと思います。
描かれる山岳界の様子があまり美しくないのも、真山と樋口の物語との対比という位置づけなのでは、とも思えます。
この作品は、真山と樋口の物語であり、真山の目から見た樋口の物語であり、そして、樋口の目から見た真山の物語なのです、きっと。


<蛇足>
「積雪の雪を削り取った烈風が吹きつけ、アウター、中間着、アンダーウェアを三重に着込んだ隙間から突き刺さる。」(8ページ)
冒頭に出てくる南米アンデスの雪山のシーンなのですが、三重なのはなんでしょう?
アウター、中間着、アンダーウェアで三重ということだと、素人目からは超薄着に思えます。普段の冬の生活でももっと着込んでいるような。
とすると、アンダーウェアが三重なのかな? それともアウター、中間着、アンダーウェアそれぞれが三重? 







タグ:下村敦史
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