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緯度殺人事件 [海外の作家 か行]


緯度殺人事件 (論創海外ミステリ)

緯度殺人事件 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2021/04/02
  • メディア: 単行本

<帯から>
十一人の船客を乗せて出航した貨客船……陸上との連絡手段を絶たれた海上の密室で、連続殺人事件の幕が開く。
ルーファス・キングが描くサスペンシブルな船上ミステリ。
〈ヴァルクール警部補〉シリーズ第3作、満を持しての完訳刊行!


論創ミステリ、単行本です。
この「緯度殺人事件」 (論創海外ミステリ)、タイトルはよく見かけていたので、待望の、という感じです。

ルーファス・キングは、
「不変の神の事件」 (創元推理文庫)
「不思議の国の悪意」 (創元推理文庫)
を読んでいるはずなのですが、例によって、覚えていません......

名高き作品の初の完訳ということで、期待して読み始めたのですが、いきなり第一文が
「無線係のミスター・ガンズが死んだ。」(7ページ)
となっていて、読むのをやめようかと一瞬思いました。
同じページに、ミス・シダビー、ミセス・プールなども出てきます。
ミスター、ミス、ミセスという語がこういうふうに頻発する翻訳はごめんだな、と思ったからです。
登場人物の呼び方や人称に無神経な翻訳は読書の大きな妨げになります。

ミスター・サンフォードはへつらうような笑みを浮かべた。ーー略ーー
「ミセス・サンフォードも、同じように感じておりましたよ」と彼は言った。(71ページ)

なんて訳もあります。原文でもミセス・サンフォードを使っているのでしょうが、夫が妻のことを、ミセス・サンフォードと呼ぶというのは翻訳としていかがなものかと思わずにはいられません。

読みのをやめようかなと思わせる文章もあちらこちらに。

「汽船〈イースタン・ベイ号〉の蓋然的な推定位置を概算するよう乞う。」(104ページ)
「はっきりしない経緯のどこかに、支持できるかもしれない仮説に至る、現時点で最も近い道筋が示されていた。」(104ページ)

あまりにもぎこちなくて、意味の取りにくい文章で、苦笑するしかありまん。

「この船のどこかに、あんな卑劣な罪を犯すほど堕落しきった人物がいるなんて、誰も知っていたくはないのですから。」(169ページ)

これまた苦笑なのですが、日本語にするときには「知る」ではなく「思う」とか「考える」とかせめて使えなかったのでしょうか?

論創社って、貴重なミステリを翻訳してくれるのはいいのですが、もうちょっと訳者を選んでほしいな。
これらの訳者による妨害に負けず、最後まで読みました(笑)。

船に殺人犯が正体を隠して?乗り込んでいて、船上で殺人が起こる、という設定になっていて、意外とサスペンスフルです。
殺人犯を追いかけてきたニューヨーク市警のヴァルクール警部補が探偵役です。

各章のタイトル?が、北緯〇度、西経〇度、と船の座標を表す形になっていますし、途中から折々、ヴァルクール警部補になんとか連絡しようとするニューヨーク市警の電報などの通信文が挟まれます。
これがちょっとしゃれているなと思わせてくれ、これまた意外とサスペンスを盛り上げます。
確認はしていないのですが、おそらくある意味手がかりにもなっているのかも、です。

かなり奇矯な登場人物たちが楽しく、対するヴァルクール警部補が常識人という感じで、警部補の活躍は安心して読めます。
謎解きものとしては軽めですが、退屈はしません。

ミステリ的にはどうということはないのですが、物語としてはラストは意外な展開になりまして、おやおや、と思いました。
そこへ至る小道具がちょっと効果的に使われているのも好印象です。

翻訳がひどいのが残念ですが、まずまず楽しめました。



<蛇足1>
「それから船室へ行き、冷たい海水のシャワーを浴びて、船室に戻り、服を着て甲板に出た。」(71ページ)
舞台となる<イースタン・ベイ号>は、貨物船を貨客船に改造したようですが、海水のシャワーって、嫌ですね.....浴びても、ベタベタする。


<蛇足1>
「彼は夫人の無慈悲さに激しい怒りを感じた。人間の行動における予想外の無慈悲さに出くわすたびに、いつもそんなふうに感じるのだ。」(211ページ)
ここだけ切り取ってもわからないとは思うのですが、ここでいう「無慈悲」の意味がわかりませんでした。前後を何度読んでもわかりません。

<蛇足2>
「紐がほどけて、襟(カラー)の半数が飛び出しているカラー入れ」(217ページ)
カラーは確かに襟で、襟という意味で使うことが多いですが、ここでいうカラーは、日本語でいうところではなく、襟につけるカラーでしょうね(日本で知られているのは学生服に使われているものですね)。

<蛇足3>
「利己的で、わがままで、恥知らずの年寄り女。本当に年寄りですよ、ミスター・ヴァルクール。わたしとまったく同じくらい年寄りだと思うし、わたしは来月半ばには四十七になるんですからね」(239ページ)
47歳でもう年寄りと呼ばれちゃったんですね、この作品の発表当時は。




原題:Murder by Latitude
作者:Rufus King
刊行:1930年
訳者:熊井ひろ美







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