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暗夜 [日本の作家 さ行]


暗夜 (新潮文庫)

暗夜 (新潮文庫)

  • 作者: 志水 辰夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/06/26
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
弟は三年前、本牧埠頭に沈んだ愛車の中で発見された。腹をえぐられて死んでいた。榊原俊孝はその死の謎を追う。知らぬ間に、中国古美術の商いに深入りしていた弟。彼から母が預かった唐三彩の水差しは、混迷を解く鍵となるのか――。様々な思惑を胸に秘め、大胆に動き始める兄。日中両国、幾人もの欲望が渦を巻く危険なゲームが、そして、始まる。志水辰夫の新境地たる漆黒の小説。


2021年11月に読んだ5冊目の本です。
またもやいつの本を引っ張り出してきたのだ、と言われそうですが、奥付を見ると平成十五年二月ですから2003年。20年近く前の文庫本ですね。
そういえば志水辰夫の本を読むのも久しぶりです。
いまでは時代小説作家のような感じもしますが、「飢えて狼」 (新潮文庫)でデビューした冒険小説の旗手でした。
第二作の「裂けて海峡」 (新潮文庫)などは感動して人に薦めまくったものです。

多彩な作風を誇る作家ですが、この「暗夜」 (新潮文庫)はハードボイルド調ですね。
主人公榊原は刑務所帰りという設定で、四年前の入所の際経営していた新華通商という貿易会社を弟に譲っていた。その弟が殺された謎を追う。

どことなく乾いた感じがする文章で、物語は唐三彩という陶磁を扱い、中国との貿易ですから、いかにもうさん臭い(失礼)。典型的なハードボイルドのように進んでいきます。

一読、なにより驚くのは中国の変わりようでしょうか。
「この作品は二〇〇〇年三月マガジンハウスより刊行された」
と書いてあるのですが、本書「暗夜」 (新潮文庫)が書かれた当時の中国はこんな感じだったのですね。
完全に発展途上国。未開の地、辺境です。
あれから20年ほど、(中国には行ったことはないのですが)変貌ぶりに驚きます。

典型的という語を使いましたが、そういう物語を退屈させずにしっかり読ませる。
絶対の安心印である志水辰夫のような作家の作品をどうしてこんなに長い間積読にしていたのかと呆れてしまうほどですが、現代ものから離れてしまって「暗夜」 は貴重な未読の現代ものだったんですよね。
あーあ、読んでしまった。
また現代ものも書いてくれないものでしょうか......


<蛇足1>
「関西の人間が考えている以上に、東京の人間にとって関西はローカルな存在なのである。」(49ページ)
これはまったくその通りだと思いますね。
関西の人、殊に大阪の人は東京に対抗心を持っているケースが多いように見受けられますが、東京の人からすると大阪など眼中にない。そもそも比較の対象として存在しえない。
実はこの点は、関西以外の地方の方も含めて一般的な認識なのではないかと思っています。
関西の人は、とかく東京(あるいは東京圏)の次は関西(あるいは大阪)と思いたがるのですが、他の地方の人から見れば、東京の次は自分たちの地方の主要都市が頭に浮かぶのではないでしょうか?

<蛇足2>
「どちらかというとええかっこしいの男だったから、よっぽど切羽詰まってのことだろう。」(135ページ)
ええかっこしい、という語が小説で使われているというのに驚きますが、すんなり意味がわかるのでしょうか? まあ、わかりやすい語ではありますが。




タグ:志水辰夫
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