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ムジカ・マキーナ [日本の作家 た行]


ムジカ・マキーナ (ハヤカワ文庫JA)

ムジカ・マキーナ (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 史緒, 高野
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2002/05/10
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
1870年、理想の音楽を希求するベルンシュタイン公爵は、訪問先のウィーンで、音楽を絶対的な快楽に変える麻薬〈魔笛〉の流行を知る。その背後には、ある画期的な技術を売りにする舞踏場の存在があった。調査を開始した公爵は、やがて新進音楽家フランツらとともに、〈魔笛〉と〈音楽機械 = ムジカ・マキーナ〉をめぐる謀略の渦中へ堕ちていく……虚実混淆の西欧史を舞台に究極の音楽を幻視したデビュー長編。


すっかり更新が滞っていました。

さて、2021年11月に読んだ6冊目の本です。
高野史緒の「ムジカ・マキーナ (ハヤカワ文庫JA)」。
1994年第六回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作です。
基本的に読者としてはミステリ専攻で、他のジャンルはそれほど......という感じなのですが、日本ファンタジーノベル大賞という賞はなかなか気になる作品が並んでいまして、ちょくちょく買っていました。
そんな中この作品は受賞には至らなかったということで、文庫本になるのを待っていたのですが、なかなか文庫にならず、2002年になってようやく単行本の出た新潮社ではなく、ハヤカワ文庫に。出てすぐに紀伊国屋さんでサイン本を購入したはずです。
その後著者の高野史緒は2012年に「カラマーゾフの妹」 (講談社文庫)(感想ページはこちら)で第58回江戸川乱歩賞を受賞。

「ムジカ・マキーナ」も読まなきゃと思いつつ、月日は流れ、ようやく2021年も終盤に読んだという次第です。

十九世紀後半(一八七〇年)のヨーロッパを舞台にした音楽SFです。
「音楽は一つの宗教だ。演奏はその礼拝。俺やお前は司教であり、教皇であり、信託(オラクル)なんだ……」
「俺たちは……あるいはシャーマンだ。音楽はそれ自体が真に宗教だ。音楽という宗教は、普通に宗教と呼ばれるものの全てに内包される。違う、逆だ。他の全ての宗教と呼ばれるものを内包するんだ。どの宗教も、実はこの一つの宗教の前に跪いているわけだ」(209ページ)
というセリフがあります。
作中では音楽に、謎の麻薬〈魔笛〉が加わり、退廃的な音楽の美の世界が展開されます。
まさに音楽教(?) に入信し、華麗な舞台を背景に繰り広げられるきらびやかなイメージの奔流に身をゆだねる快感を味わうのが、本書を読む楽しみなのだと思います。

304ページから306ページにかけて、タイポグラフィというのでしょうか、麻薬の効果を視覚的にも味わえるような(!)技法が使われていますが、もっとあちこちのページに紛れ込ませてもよかったのかもしれませんね。

歴史改変SFとしての分析はわかりませんので巽孝之の解説をご覧いただくとして、
「あらゆる犠牲者のために。そこには敵も味方もコミューンも政府も党も派閥も国も体制も政治的綱領も王党派も社会主義もジャコバン独裁も絶対主義的先生も一党独裁も共産党宣言も永久革命論(トロツキズム)も一国社会主義もスターリン憲法もプラハの春もKGBもない。ヒトラーもスターリンもついでにプロコフィエフも馬鹿野郎だ!」(298ページ)
なんて記述が出てきます。出てくる用語や事件が、物語の時間軸と合いません。
物語の表には出てこないのですが、音楽を操るだけではなく、時間を操るものの存在が示唆されているということなのでしょう。
SFに慣れない身としては、この部分にももっと筆を割いてもらいたかったところです。

またタイトルにもなっているムジカ・マキーナ(音楽機械)が奏でる至上の音楽という物語のフレームに強い既視感を覚えたのが不思議です。






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