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東京結合人間 [日本の作家 さ行]


東京結合人間 (角川文庫)

東京結合人間 (角川文庫)

  • 作者: 白井 智之
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/07/24
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
生殖のために男女が身体を結合させ「結合人間」となる世界。結合の過程で一切嘘が吐けない「オネストマン」となった圷は、高額な報酬に惹かれ、オネストマン7人が孤島で共同生活を送るドキュメンタリー映画に参加する。しかし、道中で撮影クルーは姿を消し、孤島の住人父娘は翌朝死体で発見された。容疑者となった7人は正直者(オネストマン)のはずだが、なぜか全員が犯行を否定し……!? 特殊設定ミステリの鬼才が放つ、狂気の推理合戦開幕!


2023年も5月になりました。
2022年9月の感想をよたよたとアップしてきていますが、しばらく感想を書き溜めていたので、ここからしばらくは書き溜めた分を使って毎日更新していきたいと思います。
よろしくお願いします。

2022年9月に読んだ3冊目の本です。
「人間の顔は食べづらい」 (角川文庫)(感想ページはこちら)が第34回(2014年)横溝正史ミステリ大賞候補作となり同作でデビューした白井智之の第2作。

「人間の顔は食べづらい」もとんでもない設定の作品でしたが、今度の「東京結合人間」 (角川文庫)もすごいですよ。よくこんなこと考えつくなぁ。

プロローグで結合人間のメカニズムが読者に提示されます。
「ぼくたち人間は、哺乳類のなかでも極めて特殊な生殖を行っている。人間が子孫を残すには、オスとメスが生殖器を使って交尾するのではなく、互いの身体を結合させなければならない。」(17ページ)
「二人分の体細胞が合わさった巨大な骨格を手に入れることで、赤ん坊の脳が肥大化しても出産に困らなくなったわけだ。おまけに二人の男女が結合すれば、一個体の脳の容量は倍になるし、身体能力も大幅に向上する。」(17~18ページ)
「一般的な結合であれば、前頭葉や記憶海馬を含む大脳は女の神経細胞が基礎になって、脳幹や小脳は男の神経細胞が基礎となる。ざっくる言うと、感情や記憶をつかさどる部分は女の細胞がもとになって、身体機能や動作をつかさどる部位は男の細胞がもとになるってわけ。
 ところが数千組に一度という割合で、この結合に異常が起こる。男の神経細胞をもとにした大脳と、女の神経細胞をもとにした脳幹や小脳を持つ、脳機能が逆転した結合人間が生まれてしまうんだ」
「脳機能が逆転してしまった人々は、例外なく、あるコミュニケーション障害を背負わされることになる。詳細なメカニズムは解明されていないんだけど、どういうわけか、一切嘘が吐けないんだ。これがオネストマン──つまり正直者という言葉の由来でもある」(19~20ページ)

こんなこと思いつきます? すごい。
最後のところだけ読むを、いわゆる正直村、嘘つき村の設定のようにも思えますが、そこに ”結合” という概念を持ち込んだところがこの「東京結合人間」 (角川文庫)のミソ。
結合シーンはエロよりはグロでして、想像するだけで嫌な気分になれます。かなり読者を選ぶ設定。

ところが、プロローグに続く「少女を売る」と題されたパートはもっとグロい。
章題からわかると思いますが、この世界における売春組織の顛末が描かれます。
ミステリファンにはここで投げ出さずに読み進めてほしいです。

そして最後の「正直者の島」にいたって、オネストマンたちが集まった島での連続殺人劇の幕が切って落とされます。
ここからがミステリとしての本領発揮です。
いままでの恐ろしくグロい部分は、このための伏線。
足跡、潮の満ち引きといった定番の手がかりも、包丁や人影といった小道具も、しっかり立体的に謎解きに関わってきます。
なにより、嘘のつけない結合人間(オネストマン)という設定を、うさんくさいというか懐疑的に見えていたのですが、見事な使い方に参りました。素晴らしい。
341ページで図(と呼んでよいと思いますが)で示されるロジックなんかも、冴えていて楽しいと思いました。

独特な世界で、非常に読者を選ぶ恐ろしい作家ですが、惹きつける魅力があります。


<蛇足1>
「実験的な作風ゆえに資金集めに苦労しており、映画の製作費を捻出するために、名を伏せて猥雑なオカルト雑誌に記事を書いていた。」(234ページ)が撮った映画が「彼が貯金をはたいて撮った」(235ページ)と形容されているのですが、この状態はあまり「貯金をはたく」という形容がふさわしいとは思えませんね......

<蛇足2>
「きみも睡眠薬を飲んでるんだって?」
「ええ、飲んでます。ときどき猛烈な不安に襲われて眠れなくなるんです」
「仲間だね。ぼくも飲んでるよ。酒と一緒に飲んで寝ると、願ってもない効果があるんだ」
「願ってもない効果?」
「悪夢だよ。そりゃもうとんでもない悪夢を見るんだ」(234~235ページ)
睡眠薬とアルコールでこんな効果があるのですか......

<蛇足3>
「羊歯病の症状ゆえに全身を虫に噛まれ血だるまになった少年が『軟膏を貸してくれませんか』と言って門を叩くシーンは、圷の脳裏にもくっきりと染みついている」(235ページ)
これ蛇足1で触れた映画監督が撮った映画の説明です。
このシーン、なんだか既視感があるような気がするのですが、具体的なタイトルが思い浮かびません。作者の幻術にとらわれてしまったでしょうか?


<2023.8.3追記>
「2016本格ミステリ・ベスト10」第8位です。


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