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連続自殺事件 [海外の作家 ジョン・ディクスン・カー]


連続自殺事件【新訳版】 (創元推理文庫 M カ 1-13 フェル博士シリーズ)

連続自殺事件【新訳版】 (創元推理文庫 M カ 1-13 フェル博士シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/02/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
空襲が迫る1940年の英国。若き歴史学者のキャンベルは、遠縁の老人が亡くなったスコットランドの古城ヘ旅立った。その老人は、塔の最上階の窓から転落死していた。部屋は内側から鍵とかんぬきで閉ざされ、窓から侵入することも不可能。だが老人には自殺しない理由もあった。それでは、彼になにが起きたのか? 名探偵フェル博士が、不気味な事件に挑む! 『連続殺人事件』改題・新訳版。


4月に読んだ7作目の本です。
ジョン・ディクスン・カーの「連続自殺事件」【新訳版】 (創元推理文庫)
旧訳で読んでいます。
薄めの長編で、トリックも正直たいしたことなく、カーにしては....という感想を抱いたことを記憶しています。
新訳で読んで、その印象は一掃されました。

旧訳時のタイトルは「連続殺人事件」。
原題は "The Case of the Constant Suicides” ですから、新訳の方が原題に忠実です。
連続殺人と連続自殺ではずいぶん違いますね(笑)。

実際に読んでみると、どちらも含蓄深いタイトルと思える事件が創出されていて、カーの物語作者としての腕前を堪能しました。
軽めの作品なのですが、ここまで凝っているとは。

塔の密室トリックには傷があることは以前より指摘されていますが、「犬を旅行に連れていくときに入れるためのケースのようなもの」(70ページ)をめぐるやりとりはおもしろいですし、「自殺」「他殺」で揺れ動くプロットにうまくはめ込まれているなという印象で、とりたてて傷と言い募ることもないかな、という感想です。

ばかばかしいような恋愛(失礼な言い回しですが、ここでは褒め言葉として使っています)、ドタバタ劇、密室と、薄い中にも存分にカーらしさが発揮されている佳品だと思いました。
きちんと読み直すことができて、新訳に感謝です。


<蛇足1>
「ジョンソン博士のこの国についての見解を再読し、道中の暇を紛らわした。あんたたちもおなじみだろうが、結局のところ神がスコットランドを作ったんだから、スコットランドにそれほど厳しくしちゃいかんと言われたとき、ジョンソン博士がきっぱりと返事をしたな。“失礼ですが、そのたとえは不愉快ですね。神は地獄も作ったのですから” と」(126ページ)
ボズウェルの「サミュエル・ジョンソン伝」を読んだフェル博士のセリフです。
笑い話ではありますが、イギリス内部の国同士のありように思いをはせるとかなり興味深いです。

<蛇足2>
「いいかね、何の因果か、わしはドアや窓の細工についていささか詳しいんだ。そうした事件に──コッホン──取り憑かれたように出くわしてきたからな」(204ページ)
こういう楽屋落ち、いいですね。カーを読むの楽しみの一つです。

<蛇足3>
「『おや、悪魔があたしの墓の上を歩いたかね』と、彼女はぶるりと震えた。」(246ページ)
Someone is walking over my grave (だれかが私の墓の上を歩いている=身震いしたときにいう慣用表現)という言い回しがありますが、悪魔を使う言い方もあるんですね。



原題:The Case of the Constant Suicides
著者:John Dickson Carr
刊行:1941年
訳者:三角和代






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