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償いの椅子 [日本の作家 さ行]


償いの椅子 (角川文庫)

償いの椅子 (角川文庫)

  • 作者: 沢木 冬吾
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2006/10/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
五年前、脊髄に銃弾を受けて能見は足の自由を失い、そして同時に、親代わりと慕っていた秋葉をも失った。車椅子に頼る身になった能見は、復讐のため、かつての仲間達の前に姿を現した。刑事、公安、協力者たち。複雑に絡み合う組織の中で、能見たちを陥れたのは誰なのか? そしてその能見の五年間を調べる桜田もまた、公安不適格者として、いつしか陰の組織に組み込まれていた。彼らの壮絶な戦いの結末は…?


2023年10月に読んだ4冊目の本。
沢木冬吾の「償いの椅子」 (角川文庫)

沢木冬吾といえば、第三回新潮ミステリー倶楽部賞高見浩特別賞を、「愛こそすべて、と愚か者は言った」 (角川文庫)という、タイトルを見ただけで読む気をなくしそうな作品で受賞しデビューした作家です──といいつつ、読んでいます。
「愛こそすべて、と愚か者は言った」は、至極まっとうなハードボイルド、活劇シーン付きの普通のハードボイルドでした。
この「償いの椅子」も同じ路線。銃撃戦付き。
主人公格の能見が車椅子を使うことも含めて、一つの定型どおりの作品になっており、そこが長所でもあり短所でもあり、という形。

能見は5年間の潜伏生活(?) のあと、車椅子で登場するのですが、本当に車椅子を必要としているのか(偽装なのか?)、慕っていた秋葉は死んでいたとされているが本当は生きているのか?、突然現れた能見の狙いは何なのか?、種々明かされないまま物語は進んでいくのが大きなポイントとなっており、その点で引用したカバー裏のあらすじは、この趣向を無視したかたちでよくないですね。
視点が能見でも、肝心の部分は明かされないまま進んでいきます。
能見のパートは、もう一つ、能見の妹家族の様子が語られます。ろくでもない義弟。義弟に虐待される姪と甥。

同時並行的に財団法人薬物乱用防止啓蒙センターに派遣されている刑事たちの物語が語られます。
秋葉、能見は、このセンターにいた有働警視と協力もしていた。
捜査対象組織が仕掛け、有働、秋葉は命を落とし、能見も車椅子生活を余儀なくされる状態になった、と。
こちらのセンターでも、不正を働くものと、5年間の能見の動きを探れと指示されるものと、さまざまな登場人物の思惑が入り乱れるかたちとなっています。

いろいろな要素を詰め込んだ欲張りな構成になっていて、それらがクライマックスの銃撃戦へ向け収斂していく、という風になっていると素晴らしかったのですが、残念ながらそうはなっておらず、絞り切れなかった要素があちこちに。

あまりにも多くのことをぼかしたまま話を進めようとしたことで、なにより肝心かなめの能見の人物像をいまひとつ把握しきれなかったのが残念。
物語構成上の必要からかと思われるのだけれど、視点が変わってしまうことが主因で、隠すこと明かしておくことをもっと整理しておいてほしかったところ。作風的にサプライズを狙ったわけではなさそうなので、なおさら。
登場人物たちを疑心暗鬼に陥らせるために、読者を五里霧中にしておく必要はないのですから。

と大きな指摘をしたものの、話自体は面白く読めました(なんだかんだでこういう話、嫌いじゃないんです)。
日本で銃撃戦というのもなかなか難しいのですが、きちんとイメージできました。それだけでも立派だと思います。
こういう作風は日本では最近少なくなっているように思いますので、続けてもらいたいです。





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