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ラリーレースの惨劇 [海外の作家 ら行]


ラリーレースの惨劇 (論創海外ミステリ 157)

ラリーレースの惨劇 (論創海外ミステリ 157)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2015/10/01
  • メディア: 単行本




2024年1月に読んだ9冊目の本です。
ジョン・ロードの「ラリーレースの惨劇」 (論創海外ミステリ)
単行本で、論創海外ミステリ157です。

自動車ラリーでの殺人事件というと、どうしてもスピードを競うレースを想像してしまうのですが、ここで描かれているレースはスピードを競うものではないのがポイントですね。
王立自動車クラブが主宰するこのレース、コースは緩やかに決められていて、決められたポイントを一定の時間内に通過していくことで、最終目的地まで走り抜けるというもののようです。出発地点もバラバラ。
「平均時速を保つのが大事なんですよ。スピードを出しすぎても意味はありません。予定時刻よりも五分以上前にゴールしたら、ペナルティを課せられます」(32ページ)
という説明もあります。
これ、どうやって勝敗を決めるのでしょうね?
廣澤吉泰の解説に「公道上を走行して区間タイムの正確さや運転の技術を競う者である」とされていますが、それでもよくわかりませんね。

このレースに、ロバート・ウェルドン、リチャード・ゲイツマンがハロルド・メリフィールドとともに参加。霧のせいでビリになりよたよた(失礼)走っていたところで、レースに参加している車が事故を起こし炎上しているのを見つけて......という展開。
(ちなみに幹線道路を外れ集落からも離れると本当に真っ暗です。街灯などはありませんし、路肩も日本とは比べ物にならないくらい貧弱です。車はヘッドライトを搭載しているとはいえ、運転には注意が必要ですね)
ハロルドがプリーストリー博士の秘書だったことから事件をプリーストリー博士に相談。

今回(今回も?)プリーストリー博士は、安楽椅子探偵とまではいきませんが、現地にはなかなか行かず、あれこれ指示するだけという時間が長く、そのせいかかなり嫌味な人物のように思えました──というか、もともと嫌味な人物なのですよね、きっと。
一方で、このようなスタイルで謎解きが進んでいくので、議論を通じ段階的に真相に迫っていく手つきを楽しむことができました。
プリーストリー博士に操られるかのように、右往左往するハロルドたち(と警察)が楽しい。

背景となるレースシーンがあっさりしているのも、時代を感じさせて逆にいい感じという気がしました。
現代のミステリであれば、謎解きに直接的な関係が薄くても、登場する事物や人物を細かに書き込んでいく、というスタイルが取られることが多く、この作品も今書かれるとしたら相当みっちりレースシーンが描かれるように思います。その点昔のミステリは謎解きと関係が薄ければさっと飛ばされることが多い印象で、この点で時代を感じさせるように思いました──そしてそれがとても好ましい。

ジュリアン・シモンズのせいで ”退屈派” などと呼ばれるジョン・ロードですが、ぜんぜん退屈などしませんでした。むしろ面白かったですよ。


<蛇足1>
「遺体は安置所に運んで、車は詳しく調べるためにガレージへ牽引しました。」(41ページ)
このブログでなんども言っていることですが、「ガレージ」だと日本では一般的には駐車場の意味だと思うので、修理場とか整備場とかいう風に訳すべきではないかと思います。

<蛇足2>
「そうそう、死因審問は一一時からの予定です。」(54ページ)
日本では一般的に検死審問と訳されていますね。
パーシヴァル・ワイルドに「検死審問―インクエスト」 (創元推理文庫)という傑作ミステリもあります。
なにか訳者にこだわりがあったのでしょう。

<蛇足3>
「田舎の人間というのは鈍感で、足元に雷が落ちても気づきませんからね」(160ページ)
「ニワトリが嫌いなんですよ──平均的な役人程度の頭脳しかないくせに、口数だけは多い。」(161ページ)
どちらもえらい言われようですね。

<蛇足4>
「博士は一種の美食家であり、ウエストボーン・テラスで供する料理は常に素晴らしかった。」(169ページ)
「一種の美食家」というのは日本語として意味がわかりません。
ここの「一種の」の原語はおそらく「a kind of」だと思います。であれば意味合いとしては「美食家のようなもの」あるは「いわば美食家」になるのではないかと思います。

<蛇足5>
「アール・コートの近くにある安宿ですから。」(203ページ)
これはアールズ・コート (Earls Court) でしょうね。
いまでもB&Bが数多く存在する地域です。




原題:The Motor Rally Mystery
著者:John Rhode
刊行:1933年
訳者:熊木信太郎







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