SSブログ

イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館 [日本の作家 篠田真由美]

イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館 (角川ホラー文庫)

イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 篠田 真由美
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/05/25
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
奇妙な外観の埃及(エジプト)屋敷に、心霊科学実験のため集まった4人の男女。戦時中、密かに持ち込まれたエジプト遺物がひしめく地下で、館の主は首無し死体で発見されたという。本人たち曰く“腐れ縁”で結ばれたトリノのエジプト博物館学芸員のルカと、比較宗教学者の御子柴は、館に渦巻く不穏な空気と、不可思議な現象に立ち向かう。だがそれは忌まわしい悲劇の始まりにすぎなかった……謎と恐怖が織りなす美麗な館ミステリ・ホラー。


篠田真由美の2016年に始まった新シリーズの第1作。
といいながら、この「イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館」 (角川ホラー文庫)の次の「イヴルズ・ゲート 黒き堕天使の城」 (角川ホラー文庫)しか出ていませんが...
うーん、シリーズ第1作ということで、小出しにされているのだろうと思いますが、ちょっと中途半端なイメージを抱きましたね。新しさ、というのもあまり感じません。

まず舞台設定です。
冒頭に、「災厄の年、ノストラダムス・イヤーと俗称される西暦一九九九年から頻発する地震と火山噴火、各地で相継いだ原子力発電所の事故によって、本州の大半が居住不適地域と化した現在の日本」(23ページ)と書かれています。
でも、こういう異世界を舞台にする意味が、少なくともこの「イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館」 (角川ホラー文庫)を読んだだけではわからないんですよね。

トリノのエジプト博物館学芸員のルカと、比較宗教学者の御子柴の関係性も、はっきりしていません。あらすじには「心霊科学実験のため集まった4人」と書かれていますが、御子柴は招待されてもいないのに、ルカについてきた(!) だけ、という特殊ぶり。ついでに言っておくと、あらすじではいかにもこの2人が主役という書き方で、確かにそれはそうなのだと思いますが、視点人物の中心はこの2人ではなく、衿という、子供の頃超能力少女としてTVをにぎわせていた女性なんですよね。
この衿のキャラクターは母に支配される娘、という典型をフォローするものではあるものの、おもしろいと思いましたね。当時TVに一緒に出ていた鏡子との関係もなんだかリアルです。
登場するルカとともにいる犬が、常ならぬものという設定のようですが、いい感じです。

物語は、北軽井沢の洋館(?) 埃及屋敷が舞台。戦前・戦中のエジプト学者呉日向(くれひゅうが)が、「エジプト政府の許可を得ないまま、大量の発掘品を日本に持ち帰って」(9ページ)、コレクションを収蔵するために作った住居兼私設博物館。アル・アシュムーナインの祭祀遺跡(このアル・アシュムーナインというのも、由緒ある怪しげな地名のようですね)から、崖に彫られた岩窟神殿の岩をすべて切り取って持ち帰った、というのですから豪儀です。

ここまででお分かりいただけると思いますが、すべてが思わせぶり、なのです。
そしてこうした思わせぶりな登場人物、舞台設定で、まさにいかにもなホラーが展開します。
様式美、ということでしょうか。
館で起こる怪異(とひとくくりに言ってしまいますが)も、お馴染み(?) のものばかりですね。ホラー、あるいはゴシック・ロマンという観点からいうと新しいものが盛り込まれているのかもしれませんが、そちらのジャンルには明るくないのでよく見分けがつきません...
ちょっと初心者には地味な作品に仕上がってしまっているのかもしれません。

シリーズ続編である「イヴルズ・ゲート 黒き堕天使の城」 (角川ホラー文庫)でどう展開するのか、確かめてみたいです。



<蛇足>
「まあ。そんな、いきなり悪魔なんてものを、ここでいきなり持ち出さなくても」(231ページ)
校正してないんでしょうか?
会話なので、そんなにうるさく言う必要はないのかもしれませんが、いきなりが重なって少々...見苦しいです。



<蛇足2>
PCの動作がおかしくなるシーンがあるのですが、電源ボタンを押しても変わらないので、
「デスク下の電源コードの束を荒っぽく掴んで引き抜く。ブチッと鈍い音とともにディスプレイがブラックアウトした。」(325ページ)
というシーンがありますが、電源と切り離してもすぐにはブラックアウトしないんじゃないかな、と思ったり...



nice!(18)  コメント(0) 
共通テーマ: