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三姉妹、恋と罪の峡谷 [日本の作家 赤川次郎]

三姉妹、恋と罪の峡谷 三姉妹探偵団(25) (講談社ノベルス)

三姉妹、恋と罪の峡谷 三姉妹探偵団(25) (講談社ノベルス)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/06/07
  • メディア: 新書

<カバー裏あらすじ>
綾子、夕里子、珠美が訪れたレストランを、国友刑事がまさかの張り込み中! 捕らえられた男女の容疑は大企業の社長殺害。捜査一課は若い妻とその不倫相手が共謀し、高齢の夫を殺したと睨んでいた。それでも二人の無実を信じる娘・真美は、三姉妹に事件の真相解明を依頼。ところが、社長急死による会社の勢力争いに巻き込まれるわ、夕里子に恋のライバルが登場するわ、次から次へとピンチが襲う!読むと元気が出る大人気シリーズ、必読の最新作!


副題に「三姉妹探偵団25」とあります。早くも25弾ですね、三姉妹シリーズも。
「三人姉妹殺人事件」 (講談社文庫)をカウントすると第26弾になります)

訪れたレストランでたまたま、という発端なので、巻き込まれ型の展開ではありますが、いつものように、巻き込まれ型というよりは、飛び込み型と言いたくなるような三姉妹の活躍ぶりです。
三姉妹は、大学生(綾子)、高校生(夕里子)、中学生(珠美)、という構成だったかと思いますが、こういう構成では相手にしづらいはずの会社の勢力争いなどにも、積極果敢に(?)。
逆にいうと、こういう人員構成の探偵にも解決しやすいように、さまざまな舞台やイベントを配置している作者の腕がしっかりしている、ということかもしれません。

最近の赤川次郎の作品について、ミステリとしてどうこういっても仕方がない気もするのですが、気づいた点を2点。
家に帰った時にしたことの順番を推理するシーンがあるのですが(199ページ)、この推理はちょっと無理があるというか、決めつけすぎな気がします。
買ったものを冷蔵庫にしまうのが一番先というのも極めて普通のことではないかと思うんですけどね......

また、日本への出入国のチェックについて、国友刑事が「航空会社の記録を調べました」と言うのですが(220ページ)、普通は航空会社ではなく、出入国管理の記録を調べるのではないかと思うんですが......



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ジョージ・サンダース殺人事件 [海外の作家 ら行]

ジョージ・サンダース殺人事件 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

ジョージ・サンダース殺人事件 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2015/07/23
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
幌馬車隊の襲撃シーンが終わっても起き上がらないエキストラは、額に銃弾を受けて死んでいた。殺人なのか、事故なのか。名優ジョージ・サンダースは「殺人だ」と断定、スクリーン同様に殺人捜しにのめり込んでいく。だが件の銃弾は、ほかならぬサンダースの銃から発射されたものだった。こうして無実の証明もしなくてはならなくなったサンダースに第二の殺人が知らされる…


単行本です。
映画俳優であるジョージ・サンダースを作者として出版されたもので、クレイグ・ライスは代作、ゴーストライターですね。
でも、森英俊さんの解説をみるとSF作家のクリーヴ・カートミルとの共作みたいですね。ミステリということで、日本ではライスのみを推したということでしょうか? なんとなく不公平な感じがしますね。

ジョージ・サンダースが書いた「ジョージ・サンダース殺人事件」というのはおもしろいなー、と思っていたのですが、原題は「Crime on My Hands」なんですね。
「本書は、物語の作者兼語り手であり、映画で探偵を演じたこともある実在の俳優ジョージ・サンダースが主人公兼探偵という、前代未聞の構成の、極めてユニークなミステリである。」と解説で書かれている通りです。

映画撮影中に発生した殺人事件というキャッチ―で、興味深い事件を取り扱っています。
事件そのものは単純(なはず)なのに、愉快な(?) 登場人物たちのおかげでどんどん複雑に混乱していく、といういかにもクレイグ・ライス風展開で楽しめます。
凶器を隠しちゃって右往左往する、とか、ジョージ・サンダースが犯人を罠にかけようとしたら、次から次へと容疑者がやってきてハチャメチャ、とか、楽しいですよね。
それでいて、ちゃんと意外な犯人を演出しているのも立派ですよね。
SF作家のクリーヴ・カートミルとの共作とのことながら、クレイグ・ライスが主導していたのでしょうね。
ジョージ・サンダースという名前に寄りかかっているのではなく、クレイグ・ライス印としても、十分おもしろい作品だったな、と思います!


ところで最後に、この本、翻訳がひどいです。
訳者の森村たまきさんって、ジーヴスシリーズを訳されている方ですよね。そちらは読んだことないのですが、こんなひどい翻訳で出版されているのでしょうか?
この「ジョージ・サンダース殺人事件」は、下訳の人の原稿をそのまま見直さずに使われたんでしょうか? 不思議です。
いくつかひどいな、と思ったものを挙げてみます。
「俺自身の福祉についてひとこと言わせてもらいたい」(93ページ)
サンダースを警察に連行するしないという話をしているときに、サンダース自身が言うセリフです。
福祉!? なんのことでしょうか?
原文の想像もつきませんね......

「あの人、前は偉大なエンジニアになりたかったの。その次は偉大なパイロットになりたがった。そのあとは偉大な金融家で、花形セールスマンで、それで最後に、偉大な俳優ね。」(125ページ)
間違いではないのでしょうけれど、ここの「偉大な」というのは違和感ありませんでしょうか?
せいぜい「立派な」程度にしておくべきではなかろうかと。まあ、この程度の変な日本語なら可愛いものですが。

「元々持っていたものは、持ち続けた--スリムなヒップ、豊かな胸、そしてきれいな顔。」(126ページ)
わけのわからない表現にびっくりです。こう日本語がでたらめだと、「一生懸命」と同じ長セリフの中に出てきてもなんとも思いませんね。

「髪をつかんで引き戻してやるぞ」俺は脅迫したし、またそうするつもりだった。(133ページ)
これまたひどい日本語ですね。
「わからん、サミー。だがわかるつもりだ」(146ページ)
またもや変な日本語です。「わかるつもり」なんて「気づくつもり」と言わないのと同様日本人は言わないですね。

「俺がセヴランス・フリン殺害で告発され有罪判決を下されるのは、信じられない話ではない。」(153ページ)
おそらく原文は believe を使っているのでしょうが、日本語に直す際には「信じられない」ではなく「考えられない」を使うべきではないかと。

「俺は一瞬のバカげた愚かさゆえに、彼の言うとおり俺が知っていることを全部話して『クリーン』になろうと決意した。」(181ページ)
「一瞬のバカげた愚かさゆえに」という言い回しの愚かさにびっくりします。

「シェフは、彼の料理人としての感受性のどん底の底まで傷つき、」(200ページ)
感受性、ですか......

「俺はにっこり笑わなきゃならなかったが、俺の意志力がそのにっこり笑いを一瞬で拭い去った。」(288ページ)
意志力が拭い去る、ですか......
まったくできの悪い中学生の英文和訳みたいですね。


<蛇足>
134ページに、声を出せば、電話のレシーバーを持ち上げ、マイクから送話機につながる仕組みをサンダースが作った、というところがあるのですが、この作品の当時、そんなこと可能だったのでしょうか? 副業が発明というハリウッドスターというのは、すごいんですね。


原題:Crime on My Hands
作者:George Sanders / Craig Rice
刊行:1944年
訳者:森村たまき





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運河の追跡 [海外の作家 か行]

運河の追跡 (論創海外ミステリ)

運河の追跡 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2020/07/03
  • メディア: 単行本



単行本です。
論創海外ミステリ125。
アンドリュウ・ガーヴの作品は、「殺人者の湿地」 (論創海外ミステリ)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)以来ですね。

論創ミステリの常としてあらすじがないのですが、帯に
「連れ去られた娘を助けるべく東奔西走する母親
 残された手掛かりから監禁場所を探し出せるのか」
と書かれています。

娘を連れ去るのが夫だ、というのがおもしろいポイントですね。ちょっと現代的な感じがします。
(ちなみに娘は一歳なので、「監禁」というのはあまり適切な語とは思えないのですが)

娘を捜索するやり方が、極めて行き当たりばったりなのが気になりましたが、素人だとこんな感じになってしまうのかもしれませんね。
途中で運河をボート(長さが30~40フィート、幅が6フィートで船室も二部屋あるというのですから、日本語の感覚では船といった方がいいかもしれませんね)を借りて探しに行くことになって、娘を探すにしては少々牧歌的な展開です。ボートを航行させる様子が割と詳しく書かれていて興味深かったですね。

薄い本なので少々あっけない感じもしてしまいますが、さらっと読めてよかったです。


<蛇足1>
「レナはナイツブリッジのフラット式アパートメントに住んでいる」(27ページ)
イギリスでは日本でいうところのアパートメントやマンションを、フラットと呼びますが、それをフラット式アパートメントとは、なかなか思い切った新語を作られましたね。

<蛇足2>
「王立裁判所の向かいのビルに着くと、鈍いエレベーターに乗り」(50ページ)
鈍いエレベーター? どういう意味だろう、と悩みました。
動きの遅い、ということ? 操作をしても反応が鈍い、ということ?

<蛇足3>
「もっと良い案があればいいのだが、今だに思いつかない、」(140ページ)
正しくは「未だに」ですね。ちなみにぼくのPCの変換では「今だに」というのは出てきませんね。
同じページに「クリスティーンさえいてくれれば!」という誤植(?) もあります。

<蛇足4>
「もう、夫に抱いていた感情は完全に消えた。」(199ページ)
あまりの直訳に苦笑してしまいます。
ここは日本語の感覚では、感情よりは愛情でしょうねぇ。
中学生の英文和訳を読まされているような文章がいっぱいあって、困りものの翻訳でした。


原題:The Narrow Search
作者:Andrew Garve
刊行:1957年
訳者:菱山美穂




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海馬が耳から駆けてゆく 5 [その他 菅野彰]

海馬が耳から駆けてゆく (5) (ウィングス文庫)

海馬が耳から駆けてゆく (5) (ウィングス文庫)

  • 出版社/メーカー: 新書館
  • 発売日: 2008/10/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「四十になったら、振り袖を着ましょうとも!」
友人・月夜野亮のその一言を、著者は忘れはしなかった……。
周囲も総ざらいに巻き込んで、阿鼻叫喚の宴の準備。
果たしてどうなりますか――!?

ニャン太との、切ない最後の日々を綴った「文庫版後書き」も収録。
日本を抱腹させた爆笑エッセイ、とりあえずの最終巻。


5月に読んだ2冊目の本は、「海馬が耳から駆けてゆく 〈5〉」 (ウィングス文庫)でした。
「海馬が耳から駆けてゆく〈4〉」 (新書館ウィングス文庫)を日本に置いてきてしまったので、「海馬が耳から駆けてゆく〈3〉」 (ウィングス文庫)(感想ページへのリンクはこちら)の次は、〈4〉を飛ばして、 〈5〉になりました。


今回も盛大に笑わせてもらいましたが、やはり引用したあらすじにも書かれている月夜野亮さんの誕生パーティ(?)が最高ですね。
ゲストコメントまで含めると121ページから204ページまで、80ページ以上を費やす超大作。
このパーティ行ってみたい気がする......でも、参加するには仮装が必要なのか......無理だな(笑)。
ところで、タイミング的には、次の十周年の誕生パーティも開催されていておかしくないのですが、開催されたのでしょうか? 主役は、ウェディングドレスを着るんですよね...... 俄然気になります。

病院の話が多い気がしましたが、それでもちゃんと大笑いできますね。
例外は、文庫版後書き。ニャン太の話は、せつないというか、泣ける話になっています。

「とりあえずの最終巻」と引用したあらすじに書いてあって、後書きでも「一応このタイトルでは最終巻かも?」と著者自身が書かれていますが、結局のところ、
「帰ってきた海馬が耳から駆けてゆく」
「帰ってきた海馬が耳から駆けてゆく (2)」
「帰ってきた海馬が耳から駆けてゆく (3)」
「帰ってきた海馬が耳から駆けてゆく (4)」
「帰ってきた海馬が耳から駆けてゆく (5)」
がいずれも新書館から出ているみたいです。
文庫化してほしいですね。必ず買いますから。






タグ:菅野彰
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夕暮れ密室 [日本の作家 ま行]

夕暮れ密室 (角川文庫)

夕暮れ密室 (角川文庫)

  • 作者: 村崎 友
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/09/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
遅刻厳禁! 明日、晴れるといいね――文化祭前夜、そう言い残した少女は、翌朝、密室状態のシャワールームで死んでいた。少女は、栢山(かやのやま)高校バレー部マネージャーにして男子生徒憧れの的、森下栞。遺書が発見され自殺として処理されそうになる中、疑念を持ったバレー部員やクラスメイトの、真実を追う推理が始まる。立ちはだかる二重密室と若者ならではの痛みと殺意。横溝正史ミステリ大賞選考委員が奮い立った、傑作青春ミステリ。


この作品、単行本が出たときから気になっていたんです。
作者の村崎友は、第24回横溝正史ミステリ大賞を「風の歌、星の口笛」 (角川文庫)で受賞しデビューした作家ですが、この「夕暮れ密室」 (角川文庫)は第23回の候補作。北村薫と綾辻行人の強い推挽があった、と知ったからです。
この文庫本の帯にも、

第23回横溝正史ミステリ大賞<落選作>
「しかし、どうしても本にして欲しかった」
選考委員|北村薫、綾辻行人

と書かれています。
落選作、とはなかなかの書きっぷりですが(笑)。
ちなみに、第23回は受賞作なし、という結果で、だったら受賞作にしとけばよかったのに、と思いました。
そうです。
もともとこういう作風が好きだ、というのもありますが、「夕暮れ密室」、とても面白かったからです。
(もっとも応募作品からかなり修正がされているのでしょうけれども)

巻頭に紀田順一郎の言葉が掲げられています。
「密室に夕暮れが訪れた。
 閂のかかった分厚い扉を
 こじあけようとする者は既にない。」

タイトルにも密室とありますし、この引用なので、密室に焦点が当たっています。
この密室が面白いのですよ、とても。
まず、「奇蹟」と作中で言われる(偽りの)トリックがすばらしい。爆笑もの。もう、なんか、小栗虫太郎を思い出しましたよ(笑)。
そしてそのあと明かされる本物のトリック。これが本当にすばらしい。こっちは違うトリックなのですが、柄刀一を思い出しました。
いや、本当に、なぜ受賞作にしてしまわなかったのだろう?

小道具や舞台設定の使い方も巧みですよね。
ぼやかして書くしかないのですが、プールとか、バレー部とか、文化祭(作中では、黎明祭と呼ばれています)とか、携帯とか。
そうそう遺書のくだりもおもしろいですよね。こっちは、日下圭介を思い出しました。あっ、これ、ネタバレ? 同じものではないし、日下圭介も作品数が多いからわからないですよね。

もうこれだけでも十分な気がしますが、それに加えて、学園ミステリ、青春ミステリなんですよね。
冒頭の森下栞視点の第一章がとても素晴らしくて、ワクワクして続きを読んだら、なんと第二章でその森下が被害者になる、というサプライズ。
犯人の動機(?) に至るまで、ぼくは楽しく読めましたね。
あらすじに「若者ならではの痛みと殺意」とありますが、少々エキセントリックな部分も含めて、愛すべき作品だな、と感じました。



タグ:密室 村崎友
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