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眠たい奴ら [日本の作家 あ行]


眠たい奴ら (角川文庫)

眠たい奴ら (角川文庫)

  • 作者: 大沢 在昌
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2022/02/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
組織に莫大な借金を負わせ、東京から地方の温泉街に逃げ込んだ経済ヤクザ・高見。一方、大阪から単独捜査のため、その街を訪れたはみ出し刑事・月岡。街で二人を待っていたのは、地元の政治家や観光業者をまきこんだ巨大新興宗教団体の跡目争いと、闇にうごめく寄生虫たち――。惚れた女のために、そして巨大な悪に立ち向かうため、奇妙な友情で結ばれた一匹狼たちの闘いが始まる! 
圧倒的なスケールで描く大沢ハードボイルドの巨編。


2021年8月に読んだ10冊目の本です。
長年積読にしていたのが、ふと読みたくなって手に取りました。
奥付を見ると2000年12月の再版。手元の記録では購入したのは2001年4月。20年以上も積読です。
その間に、2016年に新装版が出ています。

眠たい奴ら 新装版 (角川文庫)

眠たい奴ら 新装版 (角川文庫)

  • 作者: 大沢 在昌
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/11/25
  • メディア: 文庫


あらすじを読んでもらうとわかりますが、極めて王道というか、ハードボイルドというと軽率にパッと浮かびそうなもののてんこ盛りです。
主人公は男前らしい、経済ヤクザ高見。
敵か味方か判然としませんが、どうも気になる大阪の刑事月岡がポイントですね。いや、ポイントというか、陰の主役といってもいいかも。
ヤクザからみた刑事だから仕方ないのかもしれませんが、かなりひどい書かれ方です。
『特に顔がひどい。ま四角の、雪駄の裏で「福笑い」をやったような面つきをしている。
 顎が張り出し、下唇もつきでている。まるで何にでも食いつくダボハゼといった造作だ。』(27ページ)
まあ、自覚もしているようで
「わいは『シラノ・ド・ベルジュラック』ちゅうとこか」(198ページ)
などというセリフも飛び出します。

もうひとり重要な人物は、亜由子。あらすじでいう「惚れた女」です。
「女とは、ある種、性欲を満たすための道具であって、行為に溺れることによって得られる安らぎ以上のものをこれまで求めたことはない。」
「高見は女といて、自分の要求以外のことを優先させた記憶がない。常に自分の今したいことを、最優先させてきた。結果、女には金をつかったが、それは ”代価” のようなものだった。」(285ページ)
こう述懐する高見が、変わっていくのが見どころ。
そして、高見はあまり気づいていなそうですが、月岡も亜由子に惚れている模様。ここがいいですね。

敵側の人間も癖のある人物が揃っていて、王道中の王道が展開されていきます。
たっぷり楽しめますよ。

タイトルの「眠たい」。本来「眠い」という意味ですが、「眠たい 俗語」で調べてみると、”とぼけている。状況判断が甘い” と出てきましたね。
本書では165ページに、高見とのやりとりで月岡のセリフの中に出てきます。
「東京の極道がこないとこで何しとるのや」
「実は今、休職中でしてね。ひょっとしたらこのまま、足を洗っちまうかもしれない」
「阿呆くさ。何眠たいこというとんねん」
カバーには、おそらく「眠たい奴ら」の英訳なのでしょう、Amazing Fellows と書いてあります。
Amazing(驚くような、すごい、すばらしい) と 眠たいではずいぶん違いますが(笑)。
これがラストのセリフに効いてきていますね。


<蛇足1>
「総刺青は、内臓をとことん痛めつける。刺青をしょった人間が、夏でも長袖を着るのは、人目につかないようにするためもあるが、実はひどく寒がりになるせいもある。刺青をしょうと寒さがこたえるようになるのだ」(282ページ)
知りませんでした。

<蛇足2>
「大阪弁を喋るっていってたね」
「大阪かどうかは知らないけれど関西弁。」(404ページ)
するどい!
テレビの影響もあり、かなり入り混じってきていますが、関西の言葉も地域によって違うようなので、大阪弁とひとくくりにしないのはただしいですね。


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