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軍艦探偵 [日本の作家 や行]


軍艦探偵 (ハルキ文庫)

軍艦探偵 (ハルキ文庫)

  • 作者: 山本巧次
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2018/04/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
短期現役士官制度に応募して海軍主計士官となった池崎幸一郎は、戦艦榛名に配属された。山本五十六連合艦隊司令長官の視察を控え、運び込まれたはずの野菜の箱が一つ紛失したことが彼に報告される。銀蠅(海軍での食糧盗難)かと思われたが、食材箱の総数は合い、破壊工作の疑いが生じる(第一話)。一方、駆逐艦岩風が救助した陸軍兵士の行方不明事件(第五話)はやがて他の事件と結びつき――。鋭い推理力で軍艦内事件を解決し、図らずも「軍艦探偵」と呼ばれた海軍士官の活躍を描く軍艦ミステリーの登場!!


映画の感想を長く続けましたが、本の感想に戻ります。
2021年8月に読んだ12冊目の本です。
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」シリーズの山本巧次の単発作品で、軍艦探偵と呼ばれることになった海軍士官を探偵役に据えた連作短編集です。
戦艦榛名、重巡最上、航空母艦瑞鶴、給糧艦間宮/航空機運搬艦三洋丸、駆逐艦岩風、駆逐艦蓬を舞台とする6つの話に、昭和二十九年のプロローグ、昭和三十年のエピローグがついています。

目次に続いて、海軍階級表がついていて助かります。
いわゆる常識の部類に入る知識なのだと思うのですが、いつもこんがらがるんですよね。

戦艦榛名での事件は、野菜を詰めた箱の紛失事件。
おっ、戦時中の軍艦の中で日常の謎!? と一瞬虚を突かれた感じがしましたが、
「軍艦の中だろうと戦時だろうと、そこに人が居るからには、生活があるのだ。軍隊としての課業だけで、人は生きているわけではない。だから娑婆の町と同じように、ここでもいろんなことが起こるのだ。」(116ページ)
と主人公である池崎が考えるように、当たり前のこと、なのでしょう。

後半の話で人が死ぬ事件が起こり、日常の謎から離れていきます。
軽やかに進められる中で、なめらかに話の比重が重くなっているところがポイントなのだと思いますが、ひょっとしたらチグハグという印象を持たれる方もいるのでは、と懸念します。
作者の手によるものではありませんが、この本のカバーの絵や題字も、戦時中ならではの重々しい感じがするのに対し、中身の筆致と主人公の性格付けが軽やかであることも、こうした感想を生みやしないかと心配になります。

また、これは個人的な意見にすぎませんが、現在の視点から戦争を取り扱ってしまう以上仕方のないことなのでしょうが、”反戦” 思想が登場人物の根底に流れているのが気になります。
今から見れば当然「戦争反対」なのですが、当時の人たちの間では「戦争反対」という思想がいきわたっていたとは思えないからです。むしろ、積極的にせよ消極的にせよ、戦争を支持していた人が多かったのではないでしょうか。
敗戦を迎えた戦後に転換した、というのならともかく、戦時中に反戦に転換するとなると、かなり大きなきっかけを用意してもらわないといけないような気がします。
これはこの作品に限ったことではありませんが。

話がそれました。
単独の物語としてこの「軍艦探偵」 (ハルキ文庫)は完結してしまっていますが、池崎の活躍をもっと読んでみないなと思いました。
楽しく読めた作品です。


<蛇足>
「上陸のときは水兵服(ジョンベラ)」(42ページ)
「ふと先を見ると、商店街からの道を歩いてくる水兵服(ジョンベラ)姿の三人連れの姿が見えた。」(254ページ)
ジョンベラという語には馴染みがなかったのですが、いわゆるセーラー服のことらしいですね。
Wikipedia のセーラー服の項 によると『イギリス人を意味する「John Bull」から「ジョンベラ」とも呼んでいた。』とのことで、意外な語源でした。しかし、「John Bull」がジョンベラに聞こえますかね?





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