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クロフツ短編集 1 [海外の作家 F・W・クロフツ]


クロフツ短編集 1 (創元推理文庫)

クロフツ短編集 1 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/09/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
英国本格派の雄クロフツが満を持して発表した、アリバイ破りの名手フレンチ警部のめざましい業績を綴る21の短編を収めた作品集。「いずれも殺人事件であって、しかも、犯人は必ずまちがいをして、そのためにつかまっている。そのまちがいに、読者が事前に気がつけば読者の勝ち、気がつかなかったら、筆者の勝ちというわけである」(まえがきより)と、読者に挑戦状を叩きつける。


2023年9月に読んだ3作目の本です。
「クロフツ短編集 1」 (創元推理文庫)
創元推理文庫2019年の復刊フェアの1冊で、「クロフツ短編集 2」 (創元推理文庫)と同時に復刊されました。

床板上の殺人
上げ潮
自署
シャンピニオン・パイ
スーツケース
薬壜
写真
ウォータールー、八時十二分発
冷たい急流
人道橋
四時のお茶
新式セメント
最上階
フロントガラスこわし
山上の岩棚
かくれた目撃者
ブーメラン
アスピリン
ビング兄弟
かもめ岩
無人塔

ざっと300ページほどの本に上記21編が収録されています。21編! 1編の長さは20ページに満たないものばかり。
巻頭辞によればすべて「イブニング・スタンダード」に掲載されたものということで、読者との勝負を意識していたよう。

いずれも倒叙形式で語られていて、前半が犯人の視点で犯行を、後半はその事件の犯人をクロフツ警部(あるいは作品によっては警視)が突き止める、追いつめる、という話になっています。
読んでみるとなんだかクイズみたい。味気ないなぁ、これは、これは好みに合わないな、と思っていました。

たしか鮎川哲也だったかと思うのですが、倒叙ミステリの犯行露見、犯人発覚についての手がかり、ポイントは、偶然や不可抗力によるものではなく、完璧にやってのけたと思われるところが思わぬ犯人のミス、というのがよい(望ましい、だったかもしれません)と言っていて、なるほど、と思ったことがあります。
この「クロフツ短編集 1」に収められた21編の手がかりについては、この要件を満たすものもあり、満たさないものもあり、さまざまなバリエーションが提示されます。
その意味では、このバリエーションを素直に楽しめばよいのですが、どうしても単調ですし、各編が短いのでそっけなく、パズルみたい、という感想になってしまったわけです。

ところが、です。
21編もあるからか、読み進んでいくうちに、この短編集のリズムにこちらが合ってきたのでしょうか、読むのが楽しくなっていったのです。
たしかに、一つ一つは大したことない(と言っては失礼ながら)ですし、犯人発覚の決め手となっているポイントもそれは決定打にはなっていないのでは?と思えるものもありますが、それでもこの短編集を読むのが楽しいと感じました。
ダメな点も含めて、読むのが楽しい、と思えたのです。
不思議。

ポイントとなる点以外でも、割とアラはあるんですよ。
(たとえば「かくれた目撃者」で、死体は見つかったのでしょうか?? 気になっています(笑))
でも、楽しい。
理由はよくわからないのですが、楽しい。本当に不思議です。
「クロフツ短編集 2」を読むのが以前より楽しみになってきました。




<蛇足1>
「彼はきわめてドライな性格な男で、彼にとっては殺人行為でさえ、十分な準備と冷静な態度で実行する、ひとつの企業にすぎなかったのだ。」(82ページ)
企業? ”事業” でも違和感がありますが、あえていうなら "事業" でしょうね、ここは。
あるいは本書刊行当時(奥付をみると初版は1965年12月)は、企業という語についてこういう使い方をしたんでしょうか?

<蛇足2>
「殺人を行おうとするほどの者は、その選ぶ手段についてはできるだけの知識をえておくことが必要であって、これは常識なのである。」(126ページ)
常識......こういうケースではあまり使わない用法ですね.....殺人者にとっての常識......
そもそも殺人という行為自体が、”常識”. という語が使われるほど一般的ではないはず(笑)。

<蛇足3>
「ロンドンにいったときに、彼の車につけるために、ちがった番号のついた新しいナンバー・プレートを買ってきた。」(158ページ)
イギリスの制度はわからないのですが(車を購入した際も中古の状態で買いましたので、ナンバー取得の部分にはまったく関与しませんでした)、ナンバー・プレートって簡単に買えるものなのでしょうか?
また変えたとしても、簡単に足がつくような気がします。
ちなみにイギリスでは車のナンバー・プレートは、車の前後で色が異なります。前側が白で、後は黄色のプレートがついています。

<蛇足4>
「資格のある看護婦を求む。アンギーナを病む老人の看護と、そのコッツウォルズの小さな家の管理をしていただきたし。」(256ページ)
アンギーナがわからなくて調べたのですが、狭心症と急性扁桃炎の二通りが出てきて迷ってしまいました。
作品での使われ方からすると狭心症のようでしたが......


原題:Many A Slip
作者:Freeman Wills Crofts
刊行:1955年
訳者:向後英一







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