SSブログ

謎解きはディナーのあとで2 [日本の作家 東川篤哉]


謎解きはディナーのあとで (2) (小学館文庫)

謎解きはディナーのあとで (2) (小学館文庫)

  • 作者: 東川 篤哉
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2013/11/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
 立川駅近くの雑居ビルで殺された三十代の女性。七年間交際していた男は最近、重役の娘と付き合い始め、被害者に別れを切り出したようだ。しかし、唯一最大の容疑者であるその元恋人には完璧なアリバイが。困った麗子は影山に〈アリバイ崩し〉を要求する。
 その後も、湯船に浸かって全裸で死んでいた女性の部屋から帽子のコレクションが消える、雪のクリスマス・イブに密室殺人が起きる、黒髪をバッサリ切られた死体が発見されるなど、怪事件が続発!
 令嬢刑事と毒舌執事コンビのユーモアミステリ第二弾。書き下ろしショートショート『忠犬バトラーの推理?』収録。


読了本落穂ひろいで、シリーズで感想が抜けていた「謎解きはディナーのあとで (2) 」(小学館文庫)。東川篤哉の大人気シリーズです。
第1巻と第3巻の感想は既に書いています。
「謎解きはディナーのあとで」 (小学館文庫)(感想ページはこちら
「謎解きはディナーのあとで 3」 (小学館文庫)(感想ページはこちら

この「謎解きはディナーのあとで (2) 」は、
「アリバイをご所望でございますか」
「殺しの際は帽子をお忘れなく」
「殺意のパーティにようこそ」
「聖なる夜に密室はいかが」
「髪は殺人犯の命でございます」
「完全な密室などございません」
の6話と、ボーナストラックとして
「忠犬バトラーの推理?」
が収録されています。

さて、このシリーズは探偵役である執事の影山のキャラクターがポイントで、主人であるはずのお嬢様、麗子に対する影山の暴言(?) が売りです。
今回も決め台詞を各短編から抜き出してみます。

「失礼ながら、お嬢様は相変わらずアホでいらっしゃいますね。──いい意味で」(「アリバイをご所望でございますか」)
「お言葉を返すようで恐縮ですが、お嬢様のほうこそ、どこに目ン玉お付けになっていらっしゃるのでございますか」(「殺意のパーティにようこそ」 )
「大変失礼ながら、お嬢様の単純さは、まさに幼稚園児レベルかと思われます」(「聖なる夜に密室はいかが」)
「これだけの情報を得ておきながらまるで真相にたどり着けないとは、お嬢様は頭がお悪いのではございませんか?」(「髪は殺人犯の命でございます」)
「確かに、お嬢様の凡庸な閃きなど、誰かに話すほどのものではございません。聞くだけ時間の無駄でございました」(「完全な密室などございません」)
「失礼ながら、お嬢様、そのような馬鹿げた謎解きは、犬の晩御飯のあとにでもお聞かせくださいませ」(「忠犬バトラーの推理?」)
なお「殺しの際は帽子をお忘れなく」は、麗子以外も謎解きに参加する関係で、麗子に対していうわけではないということで影山のセリフに変化があり、そこも見どころです(笑)。

敬語がいい加減なことも(決め台詞以外でも「お嬢様、三百円、お持ちでございますか──」(44ページ)などでたらめな日本語を話す執事です)、決め台詞にしては切れ味が鈍っていることも、このシリーズの定番。もともと泥臭いミステリを志向されているので、これらはわざとなのでしょう。

ミステリとしての側面に目を向けると....

「アリバイをご所望でございますか」は、謎解きシーンで影山が「今回の事件は、典型的な《返り討ち殺人》でございます」というように、あまりにも典型的な仕掛けなのが残念。

「殺しの際は帽子をお忘れなく」の帽子をめぐるやり取りは読んでいて楽しいのですが、推論が乱暴だなと感じました。あの状況で帽子が出てくるかな?

「殺意のパーティにようこそ」 は、推理クイズで出てくるようなアイデアと、パーティでのあるある敵事象とを結びつけて展開しているところがおもしろい。どちらもミステリに仕立てるのは難しそうなアイデアであるのに、きちんとミステリが成立しているのがすごいです。

「聖なる夜に密室はいかが」の雪の密室トリックは想像するだけでも楽しいものなのですが、作中で言われるような効果は得られない気がしてならないのですが。

「髪は殺人犯の命でございます」は、被害者の頭髪が無残に切り取られていたという事実から導き出される推理に飛躍があるのを飛躍と感じさせない作者の手腕に感心しました。

「完全な密室などございません」のトリックは、さすがにアウトだと思います。怒り出す人もいておかしくはない。だけれども、このシリーズの中に置くと、収まりがいいような気がしてくるから不思議です。
また、風祭警部と麗子のエピソードを物語に搦めている点はベテラン作家の腕だな、と。

「忠犬バトラーの推理?」のメインのネタをトリックと呼んではいけないのかもしれませんが、このアイデアはいいですね。好きです。応用も効きそう。
全然違うものなのですが、東野圭吾のある作品を連想してしまいました。


<蛇足1>
「風祭警部は腑に落ちたとばかりに深々と頷いた。」(16ページ)
「腑に落ちない」と否定形でよく見る表現ですが、こういう風に肯定形で使われるのは珍しいように思います。

<蛇足2>
「『ん、三階と四階!? 両方とも空き部屋だよ。不況のせいでかれこれ二ヶ月も空いたままさ』
 権藤ビルは極めて稼働率が悪いビルらしい。
(16ページ)
会話の仕方にもよりますが、テナントが出た後2ヶ月空いていたくらいでは、不況のせいとはいいがたいように思います。
5階建てのビルで、2フロアが空いているというのは確かに稼働率は悪いですが、全体のテナント数が少ないので悪いと言い切るのはかわいそうな気がします。

<蛇足3>
「宝生清太郎は鉄鋼、造船、航空機産業から情報通信、電気ガス、果ては映画演劇、本格ミステリまで一手に牛耳る巨大財閥『宝生グループ』の創設者にして会長である。」(45ページ)
本格ミステリを牛耳るとは、宝生グループ見どころがありますね!




nice!(14)  コメント(0)