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漆黒の王子 [日本の作家 初野晴]

漆黒の王子
水野晴
角川文庫

漆黒の王子 (角川文庫)

漆黒の王子 (角川文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2009/09/25
  • メディア: 文庫


<背表紙あらすじ>
ある地方都市のマンションで、男女の死体が発見された。遺体は暴力団藍原組組員とその情婦。だが、藍原組では以前から組員が連続不審死を遂げていた。しかも、「ガネーシャ」と名乗る人物から「睡眠を差し出せ」という奇妙な脅迫メールが……。一方、街の下に眠る暗渠には、“王子”他6名のホームレスが社会と隔絶して暮らしていた。奇妙な連続殺人は彼らの仕業なのか?ふたつの世界で謎が交錯する超本格ミステリ。

「水の時計」 (角川文庫)で第22回横溝正史ミステリ大賞を受賞した水野晴の第2作です。
「水の時計」 は、「幸福の王子」を下敷きに、きわめてファンタジックな世界でありながら、臓器移植を扱っていて、不思議な手触りの作品でした。横溝正史という名のつく賞を獲ったことに違和感を覚えるほど、透明、な感覚。
この作品でも、ファンタジックな「地下」世界と、やくざを舞台とする「地上」世界と交互に話が進んでいって、前作のイメージが(方向は違いますが)漂ってきます。
ミステリである以上、この2つの世界がどう交差するのか、が読みどころの一つ、となるはずなわけですが、うーん、ここには意外性はありませんでした。想定通りの着地を見せます。つまり読みどころはここにはない、ということですね。
とはいえ、ミステリとしての仕掛けも十分張り巡らされています。たとえば、「地上」世界のやくざの連続殺人のトリックはおもしろくて、凡庸な作家だとこれを中心に据えて作品を仕立ててしまうような感じがします。また、やくざの「しのぎ」の内容も、実現性はともかくよくできていて、これを主軸にした作品も成立しそうです。
これらを贅沢にも構成要素の一つに押しとどめて、さきほど想定通りと言った着地へ向けて仕上げていく、その手腕こそがミステリとしての読みどころなのだと思います。
そして、ミステリとしての結構が整った後での対決シーンで終盤となります。ファンタジックな部分が、現実と交錯することで消失するのではなく、残っていくところに作者の意志を感じました。
非常に珍しい作風なので、今後も活躍していってほしいです。



タグ:初野晴
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