綺羅の柩 [日本の作家 篠田真由美]
<裏表紙あらすじ>
かつて、マレーシアの密林からかき消えたシルク王、ジェフリー・トーマス。それから三十余年、軽井沢の別荘、泉洞荘で、絢爛豪華な絹の布に埋まってひとりの老人が不審死を遂げた。奇妙な縁に導かれて京介、蒼、深春たちはマレーシアはカメロン・ハイランドにある月光荘を目指す。そこで見出した真相とは。
建築探偵シリーズの1冊。
このシリーズは、キャラクターで読ませていてミステリ的な興趣はさほどでもない、といわれますが、狭義のトリックを主眼にみるとそういう指摘はありうるものの、人間関係というか人のつながりを軸にしたプロット構築はミステリならではで、ミステリとして薄味とは言えないと思っています。
たとえば、実際に起こったタイのシルク王ジム・トンプソン失踪事件がモチーフの本作品、30数年前の事件が尾を引いて現在の事件を引き起こす、という、ミステリではよくある設定ですが、どうしてつながりのある事件がそんなに時間をあけて発生したのか、というポイントがきちんとおさえられています。また、舞台をマレーシアに移してから続く事件の動機も無理なくストーリーに溶け込んでいます。小道具となるシルクの使い方も、ミステリ的に手堅いものです。解説で若竹七海が指摘しているように、「ミステリ的虚構を徹底的に否定しようとしているかのようにみえ」るけれども、大げさなトリック、わざとらしいミステリ的虚構はなくとも、きちんとミステリが構築できるということを示しているシリーズなのではないかと思うのですが...
哀しい物語の背景となったカメロン・ハイランドですが、なんだかよさそうなところですね。観光で行ってみたい気分になりました。
このあとすでにシリーズは、「angels 天使たちの長い夜」 (講談社文庫) 「Ave Maria アヴェ マリア」 (講談社文庫)という「蒼の物語」2冊と、「失楽の街 建築探偵桜井京介の事件簿」 (講談社文庫) が文庫化されています。がんばって読まなければ。
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