一応の推定 [日本の作家 は行]
<裏表紙あらすじ>
膳所駅で轢死した老人は事故死だったのか、それとも愛しい孫娘のための覚悟の自殺だったのか。ベテラン保険調査員・村越の執念の調査行が、二転三転の末にたどり着いた真実とは? 保険業界の裏側、臓器移植など、現代社会の問題点を見事に描き切った滋味溢れる長篇ミステリー。第13回松本清張賞受賞作。
松本清張賞って、横山秀夫「陰の季節」 (文春文庫) という受賞作もありましたが、全般的には時代小説の賞というイメージ。この作品は2006年にミステリーで受賞しています。
渋い、というか、地味、ですねぇ。
あらすじにもあるとおり、電車に轢かれた老人は、事故死だったのか、自殺だったのかを保険調査員が探る、というそれだけの話です。それだけの話なのですが、これがじっくりと読ませます。
保険金を払ってあげてほしいと思わせるような状況を遺族に設定しているので、事故と認定されればいいな、と願いながら読者は読むことになると思います。
タイトルにもなっている「一応の推定」とは「保険の契約者が遺書を残さないで自殺したとき、典型的な自殺の状況が説明されれば裁判官に認定されるという理論」のことだと作中でも説明されていて、自殺の動機となる事実の有無、自殺の意思が判断できる事実の有無、事故当時の精神状況、死亡状況の四点から明白で納得が得られるなら、自殺と認定されるようです。これは、かなり分が悪い。自殺(の認定)が濃厚な気配...
探偵役の村越は、納得いくまで調査しようと、滋賀、京都、大阪、鳥取とあちこち調査を進めていきます。このあたりの丁寧さが本書の見どころだと思います。
自殺だったのかどうかという謎は、そもそもミステリとして取り上げるのが難しいタイプの事案だと思います。手掛かりらしい手掛かりを準備しにくいですから。そんな謎をあえて取り上げ、遺族側の事情と「一応の推定」論を物語のBGMとして底に響かせることで読者の興味をつなぎつつ、ミステリとしてまとめた手腕はすごいなーと感心しました。肝心要の手掛かりも、相応に納得のいくものが提示されていて、高いハードルもクリアしているのではないでしょうか。
最初の方で、地味と書きましたが、その地味さが心地よくなる作品かなぁ、と感じました。
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