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兇天使 [日本の作家 な行]

兇天使 (ハヤカワ文庫JA)

兇天使 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 野阿 梓
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/02
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
美貌の熾天使セラフィの任務は、美神アフロディトの子を殺し地上に逃れた悪竜ジラフを捕らえ、天界の霊的秩序を脅かす危険を除去することだった。ゴビ沙漠横断に挑む1931年のシトロエン探険隊、戦火に包まれた紀元前48年のアレクサンドリア、そしてシェイクスピアが新作悲劇の想を練る1599年のロンドンへ――セラフィの追跡行は、やがて虚実の境界を超え、『ハムレット』を侵犯していく。日本SF屈指の傑作、ついに復刊。

大森望の解説から引用します。
「光瀬龍『百億の昼と千億の夜』 の流れを汲むこの壮大な歴史SFは、奇才・野阿梓の最高作であり、二〇世紀最後の四半世紀に書かれたあまたの日本SFの中でも頂点に立つ長編だが、それだけではない。本書は、地上に舞い降りた美しい天使の道行きを描くきらびやかなファンタジーであり、萩尾望都、竹宮恵子、山岸凉子、青池保子などの少女漫画群にオマージュをささげつ耽美文学であり、ハーラン・エリスンばりの華麗な技巧を駆使しためくるめくワイドスクリーン・バロックであり、魔術師ジョン・ディー博士やロバート・フラッドをフィーチャーする薀蓄と衒学趣味に満ちたオカルト伝奇ロマンであり、独自の視点から再解釈した小説版『ハムレット』 異説であり、エルシノア城連続殺人事件の謎に挑む本格ミステリであり、人類と国家の問題を巨視的に考察する哲学小説でもある」
うーん、なんだかすごいですね。そして、
「ジャンルの境界を軽々と踏み越える、十年に一度のマスターピース。本来なら、山田正紀
『神狩り』や神林長平『戦闘妖精・雪風』、竹本健治『匣の中の失楽』や笠井潔『バイバイ、エンジェル』 、あるいは奥泉光『鳥類学者のファンタジア』 、古川日出男『アラビアの夜の種族』などと並ぶ地位と名声を得て、長く読み継がれているべき作品なのである」
と続きます。ちょっと長く引用しすぎましたが、ただごとならぬ様子が伝わってくると思います。これらの諸作品と並ぶものかどうかは好みもあるでしょうから読者それぞれに判断していただくとしても、堂々とした娯楽大作であることは間違いなし、です。

ついでに(?)帯の飛浩隆のコメントも引用します。
「華麗であること、猥らであること、荘厳であること――見よ! ここに一糸まとわぬ<SF>が、屹立する」
「読みたまえ、この本にはひとつもSFの小道具、設定が出てこない。それだのに読後に残るのは、この上なく骨太なSFを読んだ手応えだ。作者は霊的な追跡行の物語を借りて、全地球をくまなく捜査し、人類の罪業を告発し、また敬虔を弁護する。しかし、その背後に一貫して切々と青く燃えさかる焔はどうだ。これは、あの野阿梓をもってしてもただ一度しか書きえなかった、愛憎と官能、苛烈な思索、精神の自由をめぐる全的闘争の――すなわち青春の記録なのである」
こちらも推薦者の熱が十分に伝わってきます。

SFは本当にたまにしか読まないので、SFとしての評価はわかりませんが、「ハムレット」を下敷きに、壮麗な歴史絵巻(?)を展開してくれます。この世界観というか歴史観というかがSFの醍醐味なのかもしれません。しかし、「一糸まとわぬ<SF>」というのはすごいですね(笑)。

確かに、冒頭いきなり、革ジャン着てバイクで疾走する熾天使っていう衝撃的なシーンで、本当、どうなるかと思い、読みとおせるか不安になりました。出てくる男、出てくる男、ほとんどが美男子で、そういうファンにはたまらないかも。そういうファンでないと、逆の意味でたまらないかも。でも、読みとおせました! そういうのは苦手だなあ、というだけで読み逃すのはもったいない作品だと思います。天使のパートとハムレットのパートと大きく二つの流れで物語は進んでいくのですが、まさに時空を超えた展開で狭苦しいジャンルにとらわれることなく、作者が繰り出すイメージの奔流に押し流されるのも読書の楽しみなんだ、と実感できます。
確かに、ジャンル・ミックスであり、ミステリの側面もあります。本格ミステリかどうかはさておき、名探偵による謎解きも意外な犯人も用意されています。「ハムレット」 の世界でこんなに遊んでしまうなんて、贅沢ですね。
いろいろな楽しみ方のできる作品だと思うので、ぜひ一度手に取ってみてください。


タグ:野阿梓 SF
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