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まっすぐ進め [日本の作家 石持浅海]


まっすぐ進め (河出文庫)

まっすぐ進め (河出文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2014/05/08
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
僕が書店で一目惚れした美しい女性・高野秋。彼女は左手首にいつもふたつの時計をはめている。そして僕は気づいてしまった。彼女にきざす孤独の影に……。ふたつの時計に隠された、重大な秘密。恋人たちを襲う衝撃の真実とは? 日常の謎から人の心の綾をロジカルに解き明かす、異色の恋愛ミステリー。東川篤哉によるショートショート「鵜飼と朱美のまっすぐ進まない解説」収録。


「ふたつの時計」
「ワイン合戦」
「いるべき場所」
「晴れた日の傘」
「まっすぐ進め」
の5つの話が収録された連作長編です。
タイトル「まっすぐ進め」 というのはどこから来たものかな、と思ったら、主人公のひとり川端直幸の名前が、幸せに向ってまっすぐ進め、ということで付けられた、というエピソードから来ています。
いやあ、石持浅海らしくなくて(笑)いいではないですか。

中身は石持浅海らしいものです。
冒頭の「ふたつの時計」。
もうひとりの主人公高野秋がふたつの腕時計をしている理由を、直幸が推測するというストーリーで、物語の着地はいいんですけれど、肝心のその理由が、石持浅海らしく、普通と違う。
こういう考え方、行動パターンを取る人、たぶんいないんじゃないかな。近いところまではあり得ると思うんですけどね。
それを直幸は当ててしまうんだから、似た者同士、ですね。

ふたつめの「ワイン合戦」も、そうです。居酒屋でおいしくもないワインの飲み残したボトルをひとり一本ずつ持って帰る男女、という謎の回答、あり得ませんよ。直幸が推測するようなこと、こういうことを考えてワインを持ち帰る人、いないと思うなぁ。
みっつめの「いるべき場所」も強烈です。ショッピングモールで迷子(?)になっている女の子をめぐる推理、というか憶測は、常軌を逸している....
娘が結婚するときに相手に渡してやってくれ、と言って母親に渡されていた父親の遺品の黒い傘に込められた思いを推測する「晴れた日の傘」も、どうかなぁ。きっと、ないなぁ。
で、秋の秘密をつきとめるラストの「まっすぐ進め」も、かなり入りくんだ、ひねくれた発想。

と、こう書いていくと、奇矯な論理(?)をこねくり回しただけの変な作品で、つまらないダメな作品なんじゃないかと思われるかもしれませんが、まったく違います。
ラストの「まっすぐ進め」で、直幸は秋から「そんな解釈ができる人は、世界中探しても、あなたしかいないわ」といわれるのですが、これがポイントなのだと思います。
秋自身の謎に迫る、冒頭とラストの「ふたつの時計」と「まっすぐ進め」を除く間の3編は、直幸の考えたことが正解なのかどうか示されません。「晴れた日の傘」はかなり正解に近いのだろうと思わせる着地点ですが、確かなことはわかりません。
つまり、直幸の推理というか推測は、真相をつきとめるためのものではなく、直幸と秋の距離を縮めていくことにこそ主眼があるのです。いっそ、真相かどうかなんてどうでもいい、と言い切ってもいいのかも。
恋愛小説の道具として、推理をつかっているわけです。
直幸の推理は、推測、憶測だろうと、こじつけだろうと、無茶苦茶だろうと構わないのです。直幸の気持ち、心持ちが、秋に届きさえすれば。
だから、無理筋だよなぁ、と各話で思わされても、ラストまで読むと、なんだかすっきりした感じがしてしまうのだと思います。

石持浅海のなかでは、かなり好きな方に入る作品です。




タグ:石持浅海
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