雲雀 [日本の作家 さ行]
<裏表紙あらすじ>
オーストリア軍の兵士、オットーとカールの兄弟は、膠着状態の戦線で、ロシア兵達の虐殺を目撃したことをきっかけにジェルジュと呼ばれる若者に出会う…。第一次大戦の裏舞台で暗躍する、特殊な“感覚”を持つ工作員たちの闘いと青春を描いた連作短篇集。芸術選奨新人賞を受賞した『天使』の姉妹篇。
「天使」 (文春文庫)の姉妹編とありますが、続編という趣ではなく、外伝といった感じでしょうか?
「王国」
「花嫁」
「猟犬」
「雲雀」
4編収録の中編集。
手元の記録を見ると「天使」 を読んだのは2009年12月。ずいぶん久しぶりに姉妹篇を読むことになりました。
それでも、さすが佐藤亜紀、すっと物語世界に入っていけます。
佐藤亜紀の作品は、いつ読んでも荘厳なゴシック建築のような堅牢さを感じます。
それでいて、決して、長大ではない。
文章もそうです。
かなり切りつめられた、むしろ、そっけないといってもいいような、それでいて密度が濃い、というのか、ぎっしり詰まった印象。持ち重りがする文章、とでも言いましょうか。それでいて、リズミカルで、テンポを感じさせてくれます。
プロット、構成、文章、いずれもがきちっとあるべきところにある美しさをたたえています。
いつも、"彫琢”という語を思い出します。
さらっと読み飛ばしてしまっても、流麗なプロットと感性豊かな登場人物と、それはそれなりに楽しめます。
一方、じっくり読みこめば、簡潔な文章と構造から、どんどん拡がっていく世界に浸れます。
読者に不親切、といっては語弊があるでしょうが、最近はやりのなんでもかんでも詳細に述べ尽くしてしまう長い小説から比べると、設定も人物も細かくは書き込まれていません。
あらすじに「特殊な“感覚”を持つ」と書かれている“感覚”自体、説明されるわけではないのです。
異能というか超能力になるんだと思いますが、物語の基本設定ともいえるこのことすら、読者はエピソードなどから読み取って、膨らませていくのです。
これが、スリリングでもあり、楽しくもある。
二十世紀初頭のヨーロッパの戦乱を舞台にした流麗な世界をお楽しみください。
いつかまた、「天使」 と「雲雀」 を読み返したいです。できれば続けて。
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