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フィデリティ・ダヴの大仕事 [海外の作家 あ行]


フィデリティ・ダヴの大仕事

フィデリティ・ダヴの大仕事

  • 作者: ロイ・ヴィカーズ
  • 出版社/メーカー: 国書刊行会
  • 発売日: 2011/12/26
  • メディア: 単行本


<帯あらすじ>
何でも盗んでさしあげますわ
天使のように関連な淑女怪盗が次に狙うのは--?
手下を操り、完全無欠な計画で大胆不敵にあらゆるものを盗む、フィデリティ・ダヴの冒険譚!
〈どうやって盗むか〉(ハウダニット)のおもしろさを心ゆくまで味わえる傑作短編全12編。


新年を迎えたというのに、感想の方はこの「フィデリティ・ダヴの大仕事」でようやく8月に読んだ本に入りました。

単行本です。
ロイ・ヴィカーズといえば、「迷宮課事件簿 」で、倒叙ものの名手というイメージですが、この「フィデリティ・ダヴの大仕事」は、タイトルからしていわゆる義賊もののようです。

12話収録の短編集で、タイトルは順に
「顔が命」
「宙吊り(サスペンス)」
「本物の名作」
「偽造の定番」
「ガルヴァーバリー侯爵のダイヤモンド」
「貴顕淑商」
「一四〇〇パーセント」
「評判第一」
「笑う妖精」
「ことわざと利潤」
「ヨーロッパで一番ケチな男」
「グレート・カブール・ダイヤモンド」
です。

新保博久の解説からの孫引きになりますが、都筑道夫のコメントがすばらしく要点を突いています。
「ひとつひとつの短篇で、女賊ファイデリティ・ダヴは、誰かに義憤を感じ、そいつの大事にしているなにかを盗もうと計画する。つまり加害者と被害者は、さいしょからわかっていて、どうやって盗むか、に興味が集中されるのだ。ダヴは計画を立てると、多勢の手下にいいつけて、準備をさせる。その準備が読者にはなんの関連性もないように思われるのだが、最後になると、盗みにぜんぶ必要だったことがわかる。そのおもしろさである」
ここで都筑道夫は「盗む」と言っていますが、おそらくは物を(物理的に)とる、という狭い意味ではなく、広く「騙し取る」趣旨の「盗む」だと思われます。
解説で、新保博久がワンパターンの連作ではないと指摘していますが、むしろ、詐欺的な、いまでいうコンゲームのような作品がほとんどです。そこがまたよろしい。
なんといっても、主役のフィデリティ・ダヴの存在感がポイントの作品ですね。
冒頭の「顔が命」では、レーソン警部補も可憐さにあっさり騙されてしまいます。この第1作目から、窃盗というよりは、詐欺ですしね。
このあと、レーソン警部補はすっかり狂言回しの役どころですね、かわいそうに。次の「宙吊り(サスペンス)」では、文字通りクレーンによって自動車とともに宙吊りにされます。
「本物の名作」では、単純ながらもトリッキーな騙しを見せ、レーソン警部補もしっかり一役買ってしまいます。単純だし、似たような作品が後で書かれているので、今の読者から見ると想定の範囲内の手口なんですが、いいんです、そんなことは。もうこの作品を読む頃には、すっかりフィデリティ・ダヴに騙されたい、とこちらが思うようになっていますから。
「偽造の定番」は、「フィデリティ・ダヴは、歴史上唯一、風景を盗んだ泥棒である--彼女を泥棒と言っていいものなら」という魅力的な書き出しで始まります。風景を盗む!? 実際は、風景を盗んだとは言い難い仕上がりですが、ぬけぬけとしたフィデリティ・ダヴの手口には感嘆します。
誰が見ても、レーソン警部補が見ても、被害者が見ても、フィデリティ・ダヴが仕組んだことがわかっているのに、ちゃんともくろみ通りになる。この展開こそが、このシリーズの大きな特徴で、特長です。フィデリティ・ダヴなら、そうでなくては。
フィデリティ・ダヴに魅力があるからこそ、続く「ガルヴァーバリー侯爵のダイヤモンド」でのラストが印象に残ります。義賊という由縁ですね。
とまあ、12編全部にコメントをつけると長くなりすぎるので、このあたりにしておきますが、フィデリティ・ダヴのキャラクターと騙しの手口、二つのおいしさの好短編集だと思いました。
こういう人を喰ったような作品、大好きです。


<蛇足>
「貴顕淑商」の手口は、現在では違法です。
まあ、フィデリティ・ダヴのお仕事はどれも違法ではありますが、フィデリティ・ダヴが仕組んだことがわかっていても捕まらない、首尾よく目的を達成する、ことがポイントなわけで、「貴顕淑商」の場合はこの手口を使うことだけで(現代では)捕まってしまうので、よくないですね。言ってみれば、教科書的な犯罪なわけですが、当時としては、これはアリ、だったのでしょう(本文中にも、そのような記載があります)。


原題:The Exploits of Fidelity Dove
作者:Roy Vichers
刊行:1924年
翻訳:平山雄一


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