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映画:否定と肯定 [映画]

否定と肯定 T0022371p.jpg


実話を基にした映画です。
うーん、こんな裁判が2000年にイギリスで行われていたんですね。当時イギリスにいましたが、知りませんでした。
新聞は見ていたつもりなんですが...
ホロコーストがなかったなんて主張はばかばかしいから、裁判の記事があってもスルーしちゃったんでしょうか。

映画のHPのあらすじを引用します。
1994年、アメリカのジョージア州アトランタにあるエモリー大学でユダヤ人女性の歴史学者デボラ・E・リップシュタット(レイチェル・ワイズ)の講演が行われていた。彼女は自著「ホロコーストの真実」でイギリスの歴史家デイヴィッド・アーヴィングが訴える大量虐殺はなかったとする“ホロコースト否定論”の主張を看過できず、真っ向から否定していた。 アーヴィングはその講演に突如乗り込み彼女を攻め立て、その後名誉毀損で提訴という行動に出る。異例の法廷対決を行うことになり、訴えられた側に立証責任がある英国の司法制度の中でリップシュタットは〝ホロコースト否定論“を崩す必要があった。彼女のために、英国人による大弁護団が組織され、アウシュビッツの現地調査に繰り出すなど、歴史の真実の追求が始まった。 そして2000年1月、多くのマスコミが注目する中、王立裁判所で裁判が始まる。このかつてない歴史的裁判の行方は…

あらすじや予告編等もミスリーディングな部分がありますが、厳密にはホロコーストがあったかどうかが争われた裁判ではありません。ただ、相手の主張を突き崩すのに(ある程度)ホロコーストがあったことを立証せねばならなかっただけです。
映画の中でも言っていますが、歴史の真実を判定するのに、裁判がいい場所とは思えません。
思えませんが、訴えられてしまえば仕方がない。ホロコーストをめぐる議論を避けて通れない。

このことを端的に示しているのが、クライマックスとなる判決の直前に、裁判長から投げかけられる質問ではなかろうかと思うのです。
その質問は、この種の裁判では常識的な質問であり、誰もが抱いておかしくない質問なのですが、ずっとこの映画では(おそらく実際の裁判でも)ほったらかしにされていた質問です。
むしろリップシュタットの弁護団は、この質問を避けるために奮闘していたといってもよいのかもしれませんが。
裁判の帰趨については、史実ですからわかっているものの、日本ではあまり知られていない裁判だと思うので、勝訴、敗訴は触れておかないことにします。

この点を含め、映画を観た感想は、あぶなっかしいなぁ、というものでした。
弁護団の闘いぶりはすばらしいな、と感じましたが(たとえば、アウシュビッツを扱った裁判シーンはとても見応えがあります)、扱われているテーマがテーマであるだけに戦略、戦術を含め、すごく不安になります。

「否定と肯定」というタイトルは、映画の原題が「Denial」であることから考えて、適切かどうか気になっています。
「肯定」は原題にはありません。
ホロコーストというテーマを考えた場合、否定と肯定を並列させてしまうことがはたして正しいのかどうか、それこそ否定派の思うつぼではなかろうかと思うのです。
映画の冒頭で、レイチェル・ワイズ演じるリップシュタットが、否定派とは議論しない、と切り捨てていますが、こういう態度も重要な気がします。
原作(というのでしょうか。リップシュタットの著作です)の「否定と肯定 ホロコーストの真実をめぐる闘い」 (ハーパーBOOKS)も同様です。もっともこちらは映画の公開に合わせて邦訳出版されたのでしょうから映画のタイトルに引きずられたんだと思われますが、ほかならぬリップシュタットの意見にそぐわない邦題なのは残念ではないかと思います。

最後に、いつも引用するシネマ・トゥデイから。

見どころ:ナチスドイツによるホロコーストをめぐり、欧米で論争を巻き起こした裁判を基に描かれた法廷劇。ユダヤ人歴史学者をオスカー女優のレイチェル・ワイズ、ホロコースト否定論を唱える歴史学者を『ターナー、光に愛を求めて』などのティモシー・スポールが演じるほか、名優トム・ウィルキンソン、『007 スペクター』などのアンドリュー・スコットらが共演。『ボルケーノ』などのミック・ジャクソンがメガホンを取った。

あらすじ:1994年、イギリスの歴史家デイヴィッド・アーヴィング(ティモシー・スポール)が唱えるホロコースト否定論を自著「ホロコーストの真実」で否定していたユダヤ人の女性歴史学者デボラ・E・リップシュタット(レイチェル・ワイズ)は、アーヴィングから名誉毀損(きそん)で提訴される。やがて、法廷で対決することになった彼女のサポートのためイギリス人による大弁護団が結成され、歴史の真実の追求が始まり……。

こういう、いろいろと考えながら観る映画、ときどき観るのもいいですよね。

<蛇足>
「訴えられた側に立証責任がある英国の司法制度」とあらすじにあり、映画の中でも同種の発言がありますが、この捉え方は間違いではないものの、正確性を欠くのではないかと思います。
立証責任の立証の範囲が、われわれ(やアメリカの司法制度)の感覚とずれている、ということではないでしょうか?


原題:DENIAL
製作年:2016年
製作国:イギリス/アメリカ
日本公開:2017年12月8日

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