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イングリッシュネス [イギリス・ロンドンの話題]

イングリッシュネス

イングリッシュネス

  • 作者: ケイト・フォックス
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2017/12/09
  • メディア: 単行本

<裏表紙あらすじ>
名乗りながら笑顔でイギリス人に手を差し出したとき、鼻に皺をよせてあいまいな笑みが返ってきても、肩すかしをくった気分になることはない。どんな仕事をしているのか、結婚はしているか……知りたくても、尋ねてはいけない。「推理ゲーム」「相互情報開示計画」に参加して外側からじわりじわりと正解にたどりつくのがルール。
パブで、いつ果てるともしれぬ客同士の応酬――自慢し合い、罵り合いを目の当たりにしても、はらはらするにはおよばない。カウンターに群がる客の中で、注文をとってもらおうと手をあげてウェイターを呼んだら顰蹙をかう。そこには「パブでの会話」の、「見えない列」の、「パントマイム」のルールが存在している。
晴れていようが吹雪こうが会えばまず天気の話。感情をあらわにすることを避け、ひとこと話すにも独特のユーモアとアイロニー。これを使ったが最後「下の階級」の烙印を押されてしまう7つの言葉とは…… 
男性・女性を問わず、あらゆる年代、階級の英国人のふるまいと会話を人類学の手法によって観察し、隠れたコードを導き出す。リアルなイギリス文化をかろやかな筆致で描いた本書は、第一版刊行より10年来のベストセラー。本書はその前半を収める。


いつもの読書傾向とは極端に違う本です。
なにしろ小説じゃない!

社会人類学者(作者自身の言葉によれば、ポップ人類学だそうです)によるイギリス人の特性を書いた本です。
ここでいうイギリス人とは、グレート・ブリテン全体を指すのではなく、England です(このことは作者も序章の最後のところで述べています)。
対象としているのはイングランド人であって、British ではないのですね。スコットランド人、ウェールズ人、アイルランド人は含まれていません(ちなみに、作者は『確かに厳密には、北アイルランドは「グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国」の一部で、ブリテンの一部ではない。だがわたしが北アイルランドの人びとから受け取った手紙には、彼らが自分たちをブリティッシュとみなし、「連合王国」という枠の中に入れられることをよしとしない旨が述べられている』(31ページ注)と注意深く書き加えています。)。
この訳書は原書の前半部分だけを訳したものだそうですが、うーん、正直もうおなか一杯です。この種の本、読みつけてないからなぁ。
(2017年12月に出たもののようなので、おそらくいずれ後半も訳されるのでしょう。ひょっとしたらこの「イングリッシュネス」の売れ行き次第だったりして...)

端的にいうと訳者はあとがきで、「むきになる」ことをよしとしない、と美しくまとめられています。
ここでいうむきになるという原語は、earnest。
どんどん繰り出される事例はそれぞれ興味深いですが、このある意味醒めた部分こそイングランド人の肝ということでしょうか。
身も蓋もない言い方をすると、面倒くさい人たち(笑)。
でも、これ日本人にも共通するところが多々あって、苦笑します。
第5章「パブの作法」の結びで、「唯一日本人が似ている。おそらく慎みや形式、社会的立場の違いにひどく敏感な文化を持つ、狭く密集した島国社会だからだろう」(171ページ)と書いてありますが、このパブの作法のみならず、あちこちで共通点が見つかります。

ちなみに、パブについては、
『パブはイギリス文化の重要な一部だが、同時に「社会的限定区域」であり、ある意味で「識閾」である。つまり、両義的、周辺的、境界的な場所で、そこではある程度の「文化的寛解」ーー通常の社会的ルールの、構造化された一時的緩和ないし停止ーーが見られる(「正当化された逸脱」「タイムアウト中の行動」と呼ばれることもある)』(147ページ)
とされています。大層な...

興味深い点は多々ある本ですが、やっぱり第4章にあたる「言語と階級」がいちばんおもしろく感じましたね。作者のいう「七つの大罪」は、勉強になるのを通り越していっそ笑えます。
・パードン
上流階級と上層中産階級は使わない。上層中産階級がソーリー? で、上流階級(と労働者階級)はホワット? というそうです。
・トイレット
上層中産/上流階級は、ルーかラバトリー。労働者階級もトイレット。
・セルヴィエット
上層はナプキン。
「これもお上品ことばのひとつで、普通の英語ではなく気取ったフランス語を使うことでステイタスを上げようとする、見当違いの例である」(132ページ)と痛烈な記載があります。
・ディナー
昼食を指す場合、労働者階級。夕食をティーと呼ぶのも労働者階級とのこと。
上流階級は夕食をディナーまたはサパーと呼ぶ、と。
興味深いのは『高い階級の人たちにとって「ティー」は、四時ごろにとるお茶とケーキ、スコン(「スコーン」と伸ばさない)、または軽いサンウィッジュ(「サンドウィッチ」とは発音しない)のことである。低い階級の人たちはこれを「アフタヌーン・ティー」と言い、「ティー」は夕食を指す』(134ページ)と書かれていること。こんなの知らないや!
・セティ
セティやカウチと呼ぶのはせいぜい中層中産階級で、上層中産階級かそれ以上はソファと呼ぶそうです。
・ラウンジ
これはソファを置く部屋の呼び方です。
セティは「ラウンジ」か「リビングルーム」に、ソファは「シッティングルーム」か「ドローイングルーム」に置かれるそうです。
そういえば「ドローイングルーム」の語源を知らなかったのですが、「ディナーの後、食堂から下がって(ウィズドロー)女性たちがくつろぐ部屋」(135ページ)から来ているのですね。
・スイーツ
これは料理のコースの最後に供されるもののことで、上層中産/上流階級は「プディング」。決して「スイーツ」「アフターズ」「デザート」とは言わないらしいです。

「ポッシュに(上流階級のように)」という語は上流階級は使わず、スマートだとか(スマートに対する語は、コモンやチャヴ)、「マム」「ダッド」がコモンで、「マミー」「ダディー」がスマートだとか...
こういう話の種はつきないのでしょうね。

あとは、『イギリスの「国家記念日」ともいうべき聖ジョージの祝日は四月二三日」』(100ページ)という記載があって、この日を意識したことがなかったので勉強になりました。
でもこれ、お休みになる日ではないような気がします...それくらい祝われていない!?





原題:Watching The English
   The Hidden Rules of English Behaviour Second Edition
作者:Kete Fox
刊行:2004年、2014年
訳者:北條文緒・香川由紀子



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