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その可能性はすでに考えた [日本の作家 あ行]

その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

  • 作者: 井上 真偽
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/02/15
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
山村で起きたカルト宗教団体の斬首集団自殺。唯一生き残った少女には、首を斬られた少年が自分を抱えて運ぶ不可解な記憶があった。首無し聖人伝説の如き事件の真相とは? 探偵・上苙(うえおろ)丞はその謎が奇蹟であることを証明しようとする。論理の面白さと奇蹟の存在を信じる斬新な探偵にミステリ界激賞の話題作。


「2016本格ミステリ・ベスト10」第5位です。
帯に「本格ミステリにまだこんな発想があったのか!?」とありまして、おそらくそれは事件・謎が奇蹟であることを証明しようとするという探偵の設定を指していると思われ、そして確かにそういう狙いを持った探偵は新しいとは思うんですが、これ、成功していますか?
「人知の及ぶあらゆる可能性を全て否定できれば、それはもう人知を超えた現象と言えませんか?」(86ページ)
といって、あらゆる可能性をつぶしていく...

そもそも奇蹟を調べる探偵というのは過去に数多例があり、それを裏返しただけだといえばそれだけの気もしますが(なぜなら奇蹟を奇蹟でないとして謎を探ろうと、奇蹟を奇蹟だとするために可能性をつぶしていこうと、合理的な解決を探すという点でやることは同じです...)、それは「コロンブスの卵」だとして認めるとしても、奇蹟だと証明してしまってはミステリにはなりませんから、謎を解き事件を解決してしまうわけですが、奇蹟を追い求めるという点では失敗が宿命づけられているわけですよね。
どうなんでしょうか、この構図は。
シリーズ第2作の「聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた」 (講談社文庫)はもっと好評のようですので、そちらを読めばこの疑念が解消することを期待します。

いろいろな読み方・楽しみ方のできる作品になっていると思いましたが、個人的にポイントは大きく分けて2つだと思いました。

1つ目は、事件そのものですね。
奇蹟と思わせるだけあって、かなりの不可能味あふれた事件になっています。
首を斬られた少年に抱えられて運ばれた記憶...ほかにも舞台をかなり特殊な設定にしてあって、密室状況とか不可能状況てんこ盛りです!
こんなもんどうやって合理的に解決するんかいな、と思いますが、かなりの剛腕でやり遂げてくれています。
こういうの好きです。

2つ目は、探偵とライバルたちとの推理対決、というか論理対決ですね。
多重解決ものには違いないですが、多重解決ものというには「ちょっとどうかなぁ」と思える怪しい解決案だったりするのですが、奇蹟を証明しようとする探偵とその失敗を狙うライバルという構図だとこういうのも、あり、なんですよね。
バカトリックを惜しげもなく投入できますね!
ただ、この部分の最大の読みどころは、仮説3つを探偵が首尾よくつぶしたあとに訪れる反撃のところ(第5章)にあるんだと思うんですが、ここがどうもね。
確かに、発想の逆転というのか、あるいは、視点のずらしというのか、うまく考えられているように思えるんですが...
高校の時数学で習った論理で、
『「AならばB」という命題があったとき「Aが偽ならば、Bが真であっても偽であっても、命題そのものは真となる」』
と聞いたときに、なんだか騙されたような気がしたのを思い出しました。これ、論理的には正しいのでしょうが、インチキくさいですよね。わかりにくいたとえですみませんが...
もっともここを輝かせるために、事件なりそれまでの仮説なりが周到に組み立てられていますし、そこからさらに本当の真相に至る道筋が開けるように構成されていると思うので、感服はするんですけどね。

というわけで、結局のところ、楽しく読みはしたし、結構好きな作品だな、と思ったんですが、出来栄えというと狙いほどには成功していない、まだまだ実験作の段階、という気がしてなりません。
でも、「聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた」 (講談社文庫)がすごく楽しみです。


最後に、この本については、SAKATAMさんのHP「黄金の羊毛亭」に素晴らしい解説とネタバレ解説(ネタバレ解説は、普通の解説のページからのリンクでご訪問ください)がありますので、ぜひご参照ください。(勝手リンクですみません)


<蛇足1>
「有名な古刹(古寺)」(103ページ)という無神経極まりない記述があり、思わず力が抜けてしまいました...なんじゃ、これ? 笑うしかないですね...

<蛇足2>
「不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる(When you have eliminated the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth.)」(261ページ)
とホームズの台詞が英語付きで引用されています。
最近、このセリフが引用された別の作品(ハーラン・コーベン「偽りの銃弾」 (小学館文庫)。感想ページへのリンクはこちら)を読んだばっかりだったので、なんだか変な気分でした。


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