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木足の猿 [日本の作家 た行]


木足(もくそく)の猿

木足(もくそく)の猿

  • 作者: 戸南 浩平
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/02/16
  • メディア: 単行本


<裏表紙側帯あらすじ>
明治九年、英国人が連続して斬殺され、その生首がさらされるという事件が起きた。
居合の達人にして左足が義足の奥井隆之は、刎頸の友・水口修二郎の仇を追い、江戸から明治とかわる日本を流離っている。水口は藩内での疑獄事件に巻き込まれ、斬殺されていた。奥井は友の形見の刀を仕込み杖に忍ばせ、友の復讐を誓い、藩を出たのだ。英国人殺しで国内が騒然とする中、事件の背後に水口の仇が関わっていることを知り、奥井は「ディテクティヴ」として生首事件の犯人を追うことになるのだが……。


単行本です。
第20回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
日本ミステリー文学大賞新人賞も20年になるんですね...正直、過去の受賞作はあまりぱっとしないというか...
さて、記念すべき20年目の受賞作はどうだったでしょうか。

まず、読みだす前に、木足って何?
辞書に載っていないような...読んでみたところ義足のことでした...こんな日本語あるのかな?
新人賞応募時点でのタイトルは「白骨の首」だったらしいので、それよりははるかにましなタイトルというべきかもしれませんが、うーん、どうだろう?

いくつかの新人賞の受賞作は必ず買いますので、買うときにあらすじも中身も確認しません。表紙も書店ですぐにカバーをかけてもらうので見ていません。
タイトルだけ見て、「木足の猿」か、ハードボイルドだな、と勝手に思い込んでいました。
あらすじをご覧いただくとお分かりのように、明治初期を舞台にした時代物でした...
ただ、時代の変わり目というタイミングを背景に、ハードボイルド的な展開をします。
なかなか面白いところを狙った作品だなぁと思いました。

ところが、残念なことにすごく読みにくかったです。
文章はさほどまずいと思わないので、相性が合わなかったんでしょうね。
実は冒頭あれれと思うことがありまして。
主人公奥井は、友水口の仇を討とうとしているという設定なんですが、この水口、公金横領をしており、そのことに気づいた同輩矢島に恐喝されたところを、矢島を亡き者にしようと切りかかり、返り討ちにあって命を落とした、というのです。
こんなかたちで死んだ友人の仇など討つ必要ないと思いませんか?
「強請られたあげく返り討ちにあった友の無念さを思うと、いてもたってもいられなかった。たとえ水口が公金横領の大罪を犯したとしても、矢島にも強請りを行ったという非がある。本来なら喧嘩両成敗の定法どおり、矢島は切腹してことを収めるべきであるのに、卑怯にも命が惜しくて逃げたのだ。
 水口が罪人であっても親友であり、おれの命を救ってくれた男だ。その者がたとえどんな人間であろうと、自らの命もかえりみずおれを救ってくれたことに変わりはない。おれが水口の無念をはらさねば義理が立たぬ。天のあいつに顔向けができない。」(31ページ)
と書かれてはいるのですが、なんか無理やりな言い訳にしか見えません。
読みにくかったのは、このあたりのひっかかりが大きくて、物語のリズムに乗り切れなかったのかもしれません。

主人公が義足というハンデを負っていることをはじめとして、ラストのどんでん返しに至るまで、時代背景を別にするときわめてオーソドックスなハードボイルドの1つのパターンに忠実です。
ファム・ファタールが設定されていないのが不思議なくらい。
明治に入り、近代化を急ぐ日本で起こった外国人を狙った連続殺人で、しかも首を切って晒していく...
派手な事件ですが、捜査は地道ですし、人物の出し入れもしっかりしています。
帯に引用してありますが、選考委員・綾辻行人が「ミステリーとしての構図・企みも筋が良い。」というのもなるほどな、というところです。

これで事件に目新しさがあって、もっとちゃんと時代色を感じさせるようにしてくれればよかったのですが。
たとえば、江戸から明治になり、市民平等になることで追い詰められていく侍の様子も、しきりに語られるのですが、こうだああだと地の文で説明したり登場人物の口から説明させたりするのではなく、物語に溶け込ませてくれれば...
でも、これはデビュー作、今後の成長は期待できる作家かな、と思いました。


<蛇足1>
「風呂に入ったり水着にでもならなければわかりようがない。」(48ページ)
目くじらを立てても~、というところですが、~たりの使いかたがなってませんね。
また、この時代”水着”ってあったんでしょうか?
あちこちにこの種の時代考証ミスはあります。
「お前も攘夷派みたくなってきたな」(88ページ)
というのも小説としては困りものですね。
~みたく、というのは日本語の表現としてはいかがなものでしょうか。ほんのここ数十年で広まってきている気がしますが。

<蛇足2>
帯に、「男たちの生き様が熱く、せつない」とあります。
生き様...光文社のレベルの低さが....




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