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煙に消えた男 [海外の作家 マイ・シューヴァル ペール・ヴァール]

刑事マルティン・ベック 煙に消えた男 (角川文庫)

刑事マルティン・ベック 煙に消えた男 (角川文庫)

  • 作者: マイ・シューヴァル
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/03/25
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
夏休みに入った刑事マルティン・ベックにかかってきた一本の電話。「これはきみにしかできない仕事だ」。上司の命で外務大臣側近に接触したベックは、ブダペストで消息を絶った男の捜索依頼を受ける。かつて防諜活動機関の調査対象となったスウェーデン人ジャーナリスト。手がかりのない中、「鉄のカーテンの向こう側」を訪れたベックの前に、現地警察を名乗る男が現れる―。警察小説の金字塔シリーズ・第二作。


「ロセアンナ」(角川文庫)(感想ページへのリンクはこちら)に続く、マイ・シューヴァル ペール・ヴァールーによる、マルティン・ベックシリーズ第2作です。旧訳のタイトルは「蒸発した男」だったようです。
(新訳タイトルの「煙消えた男」というのは、煙の中に消えていったわけではないのだから、「煙消えた男」とすべきなんじゃないかと思います。)

マルティン・ベックシリーズは、ロンドンで読み進めようと船便で送ってきた、はずだったのですが、この「煙に消えた男」が見当たらず、日本に置いて来てしまったようです。仕方ないので、日本から遊びに来るという知人の家宛にネットで買って送って、持ってきてもらいました。

今回の事件は失踪人の捜索なのですが、休暇返上で捜査にあたるマルティン・ベックが可哀そうです。奥様とも険悪になってるみたいだし...
「あなたはわたしと子どものたちのことはぜんぜんかまわないわけね」
「あなた以外に警察官がいないわけじゃあるまいし。なんであなただけがすべての事件を引き受けなければならないの?」(50ページ)と非難されちゃっています。
とはいえこれは、
「最悪なのは、自分が衝動からこの仕事を引き受けたのではないと知っていることだった。それは、彼の言わば警察官としての本能が引き受けさせたものだった」(97ページ)
と説明されていて、この頃から仕事人間としての警察官が印象的に描かれているわけですね!

今回の事件は、ブダペストでの捜査という異色ぶり。
勝手のわからない異国での失踪人捜査など、どうやってやるんだろう。しかも、東西冷戦さなかのブダペストで... このあたりも当時としてはかなりキャッチーな要素だったんでしょうね。
プロの捜査官同士の紐帯、ということでしょうか、首尾よくハンガリーの警察官であるスルカ少佐と親しく(?) なります。なにしろスルカ少佐といっしょにパラティヌス浴場!(ネットで検索しても出てきませんでした)にいくくらいですから。
このブダペストでの捜査行が、ゆったりと時代色をもって描かれているところが読みどころ、なのだと思います。
あまたの後続作品が出たことできわめてありふれたように感じられる展開をたどるわけですが、短い中でも印象的なエピソードが書き込まれているので、退屈はしませんでした。むしろ興味津々で読み進むことができました。

ジャーナリストの失踪、しかも共産主義国で、というとどうしても連想してしまうタイプのストーリーがありますが、そのまま進むのか、それともそらしていくのか、作者の腕の見せどころですね。
登場人物が少ないので真相の見当がつきやすくなってしまっていますが、事件の構図は説得力がありますし、安直に思えるところもあるものの(特に、パスポート[ネタバレにつき文字の色を変えています]の取り扱いは本当かな、と思えてしまいますが、しっかり伏線がはってありますし、時代を考えるとそんなものかもしれません)、スウェーデンとのつながりもしっかり担保されているのがいいなと思えます。

「ロセアンナ」ではヘニング・マンケルが献辞を寄せていましたが、今回はロースルンド&ヘルストルムが献辞を寄せています。
また訳者あとがきで、作者のひとりであるマイ・シューヴァルとの会話が紹介されているのもポイントです。

シリーズ次作は「バルコニーの男」 (角川文庫)で、楽しみです。


<蛇足1>
「部屋にはストーブが一つ、家具らしきものが六個、絵が一つある」(5ページ)
とみすぼらしい部屋の描写が1ページ目にあって、しばらく考え込んでしまいました。
「家具らしきもの」?
このあとテーブルや椅子なども出てくるのですが、テーブルや椅子だと「家具」そのものであって、「家具らしきもの」とは言えないからです。「家具らしきもの」というからには、本来は家具ではないのにどうやら家具として使われていると推察されるもの、とか、使いかたはまったくわからないけれど形状や大きさからして家具としか考えられないもの、であるはずだからです。
でも、そんなものは登場しません。なんだろな?
個人的理解は「家具といえるものが六個」くらいにすべきところじゃないかと思うのですが...

<蛇足2>
「デッキは屋根付きで、うるさいジーゼルエンジン付きの」(96ページ)
という船の説明があります。普通は「ディーゼル」ですよね...

<蛇足3>
被害者の持ち物をあらためているところで
「マウスウォーター Vademecum」(198ページ)
というのが出てきます。Vademecum というのはブランド名だと思われますが(ネットで検索すると出てきます)、マウスウォーター? 普通はマウスウォッシュ、ですよね...
この訳者、本文や ↑ の蛇足でも触れたように、ところどころに変な日本語や表記が出てきます...
一つ一つは大したことがないものですが、重なっていくと作品としてダメージになりうると思うのですが。せっかくのスウェーデン語からの翻訳なのですから、編集者も含めてもっと気を使ってほしいところです。


原題:Mannen som gick upp i rok
作者:Maj Sjowall & Per Wahloo
刊行:1966年
訳者:柳沢由実子







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