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百年祭の殺人 [海外の作家 あ行]

百年祭の殺人 (論創海外ミステリ)

百年祭の殺人 (論創海外ミステリ)

  • 作者: マックス アフォード
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2013/05/01
  • メディア: 単行本


単行本です。
「2014本格ミステリ・ベスト10」第2位。
論創海外ミステリ105。
この叢書、あらすじがないんですよね......

先日読んだ「闇と静謐」 (論創海外ミステリ)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)がとてもとてもおもしろかったので、この「百年祭の殺人」 をそれほど間を開けずに読むことにしました!

プロローグは、フォン・ラッシュというドイツ人医学生が職を手に入れるシーンです。
でもその後第一部が始まると、舞台も人物もすっかり変わってしまいます。
「メルボルンの礎が築かれてから百年が経過したことを祝う祭典で、一九三四年に催された」(29ページ)百年祭を控えたメルボルンが舞台となります。
新聞記者が堂々と殺人現場に行き、ちゃんと中までたどり着いて普通に警察と話をするというのに驚きますが、当時のオーストラリアはそうだったのでしょうね......すごい。
メルボルンで判事が殺されるという事件なのですが、捜査にあたるのはスコットランドヤードから移ってきたヴィクトリア州警察刑事捜査部のリード首席警部。イギリスからは独立していたはずですが、そういう人材交流もあったんですねぇ。そしてその若い友人ジェフリー・ブラックバーンが捜査に協力する、という構図ですね。この二人は「闇と静謐」にも出て来ました。

リード首席警部、なんかいいんですよね。
「おまえさんは推理で殺しが解決すると思っとるのかもしれん。たしかにそういう場合もある。だが、たいていは骨の折れる地道な作業の積み重ねが実を結ぶんだ。ほんのわずかでも脈がありそうな手がかりは片端からたどって--」(116ページ)
というセリフなど、名探偵と対峙する刑事さんが言いそうなセリフですが、
「たしかにそういう場合もある。」
という部分、光っていますよね。

謎解きの方ですが、帯には「巧妙なトリックと鮮烈なロジック」とあるのですが、トリック自体はそれほど驚くようなものではありません。
そういう観点でみるよりは、解説で大山誠一郎が書いているように、密室であることによって、あるいは密室の謎が解かれることによって、一種のミスディレクションとなることにポイントがあると思います。
「闇と静謐」に続く大山誠一郎の解説(正しくは、続くではありませんね。「百年祭の殺人」 の方が「闇と静謐」より先に訳出されていますので)が今回もとても素晴らしく感動ものです。

「闇と静謐」があまりにおもしろかったので、それと比べると期待しすぎという感じがしますが、それでもこの「百年祭の殺人」 、本格ものの醍醐味を味わえました。
マックス・アフォードの作品まだ残っていますので、ぜひ訳してください。
「魔法人形」もいつか読み返してみなければ。



<蛇足1>
「前にエドガー・ウォーレスの『血染の鍵』という作品を読んだのですがね。」(50ページ)
と出てきて、続けてトリックが明かされちゃっています。もうっ! 未読なのに!!
ちなみに、「血染めの鍵」 (論創海外ミステリ)も2018年に論創海外ミステリから訳出されています(タイトルの字面は「血染」から「血染め」になっていますが)。
読もうかどうしようか、迷っちゃいますね。

<蛇足2>
「だんまりを決めこむつもりなら、本部の連中に引き渡してやる。白状するまで水道のホースでしばかれるような目に遭いたいか!」(67ページ)
ここでちょっとあれっと思いました。
「しばく」って関西弁だと思っていたので......

<蛇足3>
「たとえば、ある人が希少な絵画や高価な陶器、あるいは何かの発明の設計図でもいいのだけれど、要するに創造の産物--数万人に一人の頭脳にしか生み出せない何か--を盗んだとしたら、その人は罰せられるべきだと思う。だって、ほかに交換のきかないものを奪い去ったんだから。それに引き換え、人間の命なんて、何よりも安く、しかもいちばん簡単に代えのきくものでしょう? それを奪ったからといって罰するなんて、わたしには蜘蛛を踏みつぶした人を罰するくらい馬鹿げたことに思えるわ」(92ページ)
なかなか大胆な発想、大胆な発言をする女性が出て来ます。しかも推理作家......

<蛇足4>
「『ブラウン神父のお伽噺』をご存じ?」(101ページ)
そんなタイトルの作品あったかな? と一瞬思いましたが、ポイントが続けて語られていまして、それからわかりましたが、「ブラウン神父の知恵」 (創元推理文庫)に収録されている短編ですね。
「ブラウン神父の知恵」 (ちくま文庫)での訳題は「ブラウン神父の御伽話」のようです。

<蛇足5>
「そしてこれは、意気消沈している捜査員がすべからく拳拳服膺すべき金言です。」(185ページ)
文脈から意味はわかりますが、「拳拳服膺」! この四字熟語知りませんでした......
「《「礼記」中庸から。「服膺」は胸につけて離さない意》心に銘記し、常に忘れないでいること。」らしいです。
かと思えば、
「ここがまさに、狂瀾を既倒にめぐらすことができるかどうかの分かれ目でしょう。」(309ページ)
という文章も出て来ます。
これまた難しい。こちらも知りませんでした。
「《韓愈「進学解」から》崩れかけた大波を、もと来た方へ押し返す。形勢がすっかり悪くなったのを、再びもとに返すたとえ。」らしいです。
あえて難しい語を訳に使うのがふさわしいような、凝った英語表現になっているのでしょうね、きっと。

<蛇足6>
「茅葺き屋根の茶房(ティーハウス)は、川沿いに建つよく知られた陸標(ランドマーク)だったし、」(320ページ)
ランドマークに陸標という訳語が当ててありますが、陸標という語を知らなかったので検索してみると、たしかに陸標はランドマークの一つではありますが、ここでいうランドマークは陸標ではないように思いました。それにティーハウスは陸標ではないでしょう......
ランドマークとは「陸標、灯台、鉄塔のような土地における方向感覚の目印になる建物、国、地域を象徴するシンボル的なモニュメント、建物、空間を意味する。また、広い地域の中で目印となる特徴的な自然物、建物や事象も含まれる。ニューヨークの自由の女神、パリのエッフェル塔などは都市、国家を象徴するランドマークで木、山、高層ビル等は町や都市のランドマークである。」(Wikipedia)ということですから。こちらは一般的に理解しやすいランドマークですね。これらを陸標と呼ぶのは無理がありますよね。
それと、引用した部分では、ティーハウスに茶房という語が当ててあります。これはこれで結構なのですが、本書 の場合、その後すぐに「ティーハウスと芝生を含む相当広い一帯」とか「ティーハウスの裏手へ」(ともに321ページ)と書かれていて、だったら茶房なんて当てずに、初めからティーハウスとだけ書けばいいのにと思ってしまいます。
リボルバーにも「輪胴式拳銃」といういかめしい訳語がついていますし、なにかこだわりがあるのかもしれませんね。


原題:Blood on His Hands!
作者:Max Afford
刊行:1936年
訳者:定木大介



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