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叛徒 [日本の作家 下村敦史]


叛徒 (講談社文庫)

叛徒 (講談社文庫)

  • 作者: 下村 敦史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/01/16
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
通訳捜査官の七崎隆一は、正義感から同職の義父の不正を告発、自殺に追い込んだことで、職場でも家庭でも居場所がない。歌舞伎町での殺人事件の捜査直後、息子の部屋で血まみれの衣服を発見した七崎は、息子が犯人である可能性に戦慄し、孤独な捜査を始めるが……。“正義”のあり方を問う警察ミステリー。


「闇に香る嘘」 (講談社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)で 第60回江戸川乱歩賞を受賞した下村敦史の長編第2作です。
講談社文庫には、長編第3作の「生還者」 (講談社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)が先に文庫化されていますね。

いままで3作読んだだけですが、下村敦史、もうすっかり安心印の作家になりました。
この「叛徒」 (講談社文庫)でも、まず主人公七崎の設定がおもしろい。
通訳捜査官。
解説の西上心太によると現実に存在する職種とのことですが、とてもリアル感があります。
正義感から同職の義父の不正を告発、自殺に追い込んだことで、職場でも家庭でも居場所がない状況や、事件に自分の息子・健太が関わっているのではないかと苦悩するのも、ありがちな設定といえばありがちな設定ですが、七崎の職業では切実さが伝わってきます。
事件の進展(解決?)に従って、これらの点が収斂していくのも読んでいて気持ちがいい。
事件の背後に、外国人技能実習制度の問題が取り上げられているのも、この問題が知られてからかなり時間が経っているわりにはミステリで取り上げられることが少なかったような気がしますので、いい着眼点ですよね。

ということでとてもおもしろく読んだのですが、どうしても気になる点があります。
七崎が義父を告発するエピソードなのですが、義父がやったことというのが通訳捜査官であるということを利用して窮地に陥っている同期のために、通訳しているふりをして被疑者を騙し、嘘の自白を引き出した、ということです。(92ページ~) 
でも、
①義父はこのようなことをする人物として描かれていない
②一歩譲って、こういうことをするとしても、七崎が立ち会うようなタイミングでやるとは思えない
という問題があると思われます。
また七崎が告発する際、誰が告発したのかばれるのを覚悟のうえで匿名の手紙を出すのですが、正義のためにと迷わず告発したのではなく、実父同然の恩人を売る(102ページ)ことになるので苦悩の末出すのです。
ここも気になります。正義のためとためらわず告発したのならそうは思わないのですが、かなり悩むのです。七崎と義父の性格、関係性からすると、悩むのは当然かと思いますが、であれば、実際に告発の手紙を出す前に、直接対話をもつのではなかろうかと思うのです。
これらの点は、作品のプロットの根幹にかかわる部分なので見過ごすことはできないのではないでしょうか?
それと、これらと比べると程度は軽いものですが、正義を貫いてきた七崎も、今度の事件で息子をかばうため、信念を曲げてわざと偽りの通訳に手を染めるのですが(40ページ~)、そして追い詰められる気持ちは少しはわからないでもないですが(*)、それでもすぐにばれてしまいそうな偽りの通訳はちょっといただけないな、と思いました。

(*)たとえばこういう家族がらみの理由とかが義父の場合にも盛り込まれていれば、上述の問題点も少しは気にならなかったのではないかと思うのです。そうすれば、立ち会う七崎を巻き込んでしまう理由にもなりますよね。もっとも、そうすると更に七崎が告発しづらくなりますが。



タグ:下村敦史
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