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星を撃ち落とす [日本の作家 た行]


星を撃ち落とす (創元推理文庫)

星を撃ち落とす (創元推理文庫)

  • 作者: 友桐 夏
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/09/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
世界に憧れる有騎、いつも一緒の鮎子と茉歩。三人の女子高生の友情は、問題児の美雲と関わったことで変化していく。四人の間に緊張が高まる中、悲劇が……。後日、罪悪感に囚われ思い悩む有騎がたどり着いたのは、天体観測会が行われる廃園の館だった。館の主にまつわる謎を追ううちに知った、彼女たちの身に起きた悲劇の驚愕の真相とは。多感な少女たちの心を描く青春ミステリ。


友桐夏、懐かしい。
この「星を撃ち落とす」 (創元推理文庫)の巻末の解説に著作リストがあります。
1. 「白い花の舞い散る時間」 (コバルト文庫)
2. 「春待ちの姫君たち」 (創元推理文庫)
3. 「盤上の四重奏」 (コバルト文庫)
4. 「楽園ヴァイオリン―クラシックノート」 (コバルト文庫)
5. 「星を撃ち落とす」 (創元推理文庫)
6. 「裏窓クロニクル」(東京創元社)

1.~3.まで、コバルト文庫で読んでいます。
4.は、完全に見逃していましたね。惜しいことをしました。もう絶版状態で手に入りませんね。残念。気づいていれば絶対買って読んでいたのに。

女子高校生(か、中学生。記憶が......)を主人公に据えていて、いずれも「黒い」たくらみを秘めた少女たちの群像を描いていたもので、こういう作品を好きだというと、性格を疑われそうな内容だったのですが、好きでした(笑)。
いわゆる爽やかな青春小説とは対極にある物語群ではありますが、一方で、少女たちに確かにある一面を、誇張されてはいるものの、抉り出した作品だったと思っています。

そのあと出ていないな、と思っていたら、「春待ちの姫君たち」 が創元推理文庫に収録されて、「星を撃ち落とす」 が2012年に出版されて...活動再開? うれしいですね。
2015年に文庫化されたので購入していました。

今回の「星を撃ち落とす」 も同様の作風です。
解説で冒頭、福井健太が書いています。
「偶然や必然から生まれる小さなコミュニティは、各々の意識が乱反射する心理戦の場にほかならない。自負や悪意はどこまでも深化し、嘘と嘘が絡まることで真実は埋もれていく。その皮膜を一枚ずつ剥ぎ取り、容赦のない筆致で少女たちの本性を抉り出す--本書『星を撃ち落とす』 はそんな物語だ。」

タイトル「星を撃ち落とす」 にしてから、見かけと違い、爽やかなものではありません。
「どうしたって勝ち目がない。だから目障りで仕方がない。だから引きずり下ろしてやりたくなって。つまりそういうことなんじゃないの。」(244ページ)
とありますが、星を撃ち落とすというのは、そういうこと、なのです。
(最後の方で、ある人物が「一目で敗北を悟らせるほどの輝きに満ちた一等星」(269ページ)と喩えられ、「あえて言うなら〇〇という少女を見る〇〇の目と心にこそ、破滅を招くような何かが存在したのだろう。星を撃ち落としてやりたいと望む、尊大な何かが。」(269ページ)と結ばれます)

心理戦、とありますが、少女たちの繰り広げる心理戦は、息が詰まりそうです。
たとえば、割と早い段階で出てくる、空気清浄機のリモコンをめぐるエピソードがわかりやすいかもしれません。
「一晩のうちに屋内から郵便受けに移動していたリモコンの話」(47ページ)なのですが、日常の謎っぽいですね。訪ねてきていた友達を疑っていた津上有騎に、さっと葉原美雲が別の解釈を提示して見せる。
すごいね、そうだったんだ、となれば、普通のミステリのエピソードとしておしまい。ある意味めでたし、めでたしなのですが、「星を撃ち落とす」 では、そうはなりません。
そういう推理、解釈を提示した美雲の隠された意図(?) が班長会議(!) で明かされます(56ページ~)。そのあと、班長会議で多数決がとられるわけですが、その多数決に持ち込んだ有騎の思惑というのが、これまた企みなんですね。

こういうの現実に身近で起こるとうっとうしいのでしょうが、小説の中であれば、安心してその世界に浸っていられます。
このリモコンのエピソードの後も、登城人物たちの熾烈な(?) 駆け引きが溢れています。

今回おやっと思ったのは、若干ネタバレ気味なので、気になる方は次の段落まで飛ばしていただきたいのですが、
登場人物のひとり、茉歩はかなり重要な位置を占める人物なのですが、彼女の意図が、自己中心的で確かに歪で醜いものではあるのですが、この作品では、悪意によるものではない、という設定になっている、ということです。
悪意も含まれているのでしょうが、根っこにあるのは、悪意ではない。
過去の作品が記憶から消えてしまっているので定かではありませんが、過去の作品では、悪意や希望(というか野望?)が根幹に据えられていたように思います。

ここまでネタバレでした。
だからか、
「誰か一人でももっと早く〇〇さんの本当の状態に気付いていれば防げたはずでしょう」
「誰がどんな問題をかかえているかなんて聞かなければわからないことだけど、何も打ち明けてもらえなかったからといって何もしなかったことが赦されるわけじゃないと思うわ。心を開いてくれなかった相手を責めるのは簡単だけど、心を開いてもらえるような自分ではなかったことを反省して改善しなければ、同じことを繰り返すだけよね。私たちは〇〇さんに信頼されなかった。それはこの先もずっと心にとめておかなきゃいけないことだわ」(257ページ)
という美雲のセリフが生まれるのですよね。(一部、ネタバレ部分伏字にしています)

物語の建付けがこういうものであるので、証拠だとか事実に基づく論証には欠けていますが、企みに満ちた登場人物のやりとりを、推察、推測で塗り固めていくさまは、スリリングです。
推測なので、本当はどうだったのか分かったものではありませんが、こういう作品だとこれでよいような気がします。
作風や傾向は全然違うのですが、人の気持ち、意図をあれこれひっくり返していくあたり、以前は思っていなかったのですが、今回「星を撃ち落とす」 を読んで、連城三紀彦を連想しました。連城ファンに叱られるかも、ですが。







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