SSブログ

悪血 [日本の作家 門井慶喜]


悪血 (文春文庫)

悪血 (文春文庫)

  • 作者: 門井 慶喜
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/11/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
人は己の血にどこまで縛られるのか? 高名な日本画家の家系に生まれながら、ペットの肖像画家に身をやつす時島一雅は、かつてない犬種の開発中というブリーダーの男に出資を申し出る。血の呪縛に悩みながら、血の操作に手を貸す矛盾。純白の支配する邪悪な世界への憧憬。制御不能の感情が、一雅を窮地へと追い込んでゆく。


2022年9月に読んだ5冊目の本です。

巻頭に
動物の愛護及び管理に関する法律 第二条の条文が掲げられています。
「動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。」

主人公時島一雅が自分の血筋悩むペット専門の(?) 肖像画家で、犬のブリーダー森宮利樹が出てきて、本書「悪血」 (文春文庫)の文庫化される前の単行本時のタイトルが「血統(ペディグリー)」ということで、ある程度の予断をもって読み始めました。

冒頭は、一雅が依頼された白い犬の絵について、毛の色の表現について悩みます。
依頼者の過去や心理から、あるべき色を求めていくこの段階で作者の術中にすっかりはまってしまったような気がします。
その後森宮が育てているところを一雅が訪れ、森宮の企てを知ります。

ほうほう。やはり予想した通りの展開だな、と思っていたら、そのあと想定した展開を大きく外れていきます。

森宮の犬舎の近くに作られた祭壇。
そこに飾られた宗教画。
描かれているのは、狩人・山林官などの守護聖人 ST. HUBERTUS(聖フベルトゥス)。
非常に印象的なシーンで、この絵をきっかけに物語が大きく転回します。
勘のいい方、聖フベルトスをご存知の方は予想がつくかもしれませんが、エチケットとしてここでは触れないことにします。

その後も含めて、ちゃんとあからさまな伏線がはられているところがいいですね。
堂々と見過ごしましたが(笑)。
非常によい作品だと思いました。

動物を飼うということがさまざまな観点から取り上げられているのも面白かったですーー巻頭に法律を引用しているくらいですから。
「転勤か結婚か出産か、何らかの身辺の変化に際会した時とき、買主はあっさり使い捨てを思いつくことができたのでしょう。まるでおもちゃを捨てるように。ただし名目だけは『もとの自然にもどしてあげる』と大人っぽく美しく構えた上で。」(336ページ)
放棄されたペットが野生化する、買主のモラルが問われることで、よく指摘されることですね。
森宮の飼育場の近くで野生化したスカンクと犬の争うシーンとか、緊迫感もって読めました。
「流通量の面から見ればスカンクは決して珍獣ではありません。」
「南北アメリカ大陸が原産のイタチ科の小動物は、とりわけシマスカンクは、日本への輸入量がこのところ増加しているのだとか。」(333ページ)
とかいう説明に、少し背筋が寒くなる思いをしました。

直木賞作家門井慶喜からすると、秀でた父親を持つ主人公の苦悩はちょっと平凡な出来かもしれませんが、テーマに寄り添った力強い展開だと思いましたし、なによりサスペンスとしての構図が美しかったです。
埋れないようにしてほしい作品です。




タグ:門井慶喜
nice!(13)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 13

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。