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アンダーリポート [日本の作家 さ行]


アンダーリポート (集英社文庫)

アンダーリポート (集英社文庫)

  • 作者: 佐藤 正午
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2011/01/20
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
単調な毎日を過ごしていた検察事務官・古堀徹のもとに突然・かつての隣人の娘・村里ちあきが現れた。彼女の父親は15年前に何者かによって殺され、死体の第一発見者だった古堀に事件のことを訊ねにきたのだ。古堀はちあきとの再会をきっかけに、この未解決の事件を調べ始める。古い記憶をひとつずつ辿るようにして、ついに行き着いた真相とは――。秘められた過去をめぐる衝撃の物語。


2022年10月に読んだ最後の本です。6冊。
佐藤正午はミステリ作家ではないのですが、ジャンル的に隣接するような小説を書かれていまして、何作か読んでいます。


あらすじではなだらかに書かれていますが、この小説の叙述の順番は少々異なります。
冒頭の第一章「旗の台」で主人公はカフェを訪れ、そこの女主人と過去をめぐって会話を交わします。
この第一章の最後の不穏です。
「彼女に視線をとらえられたまま、それをひといきに飲む。自ら殺人を認めた女に、十五年前、人ひとり撲殺した女に、自分よりもずっと背の高いひとりの男を金属バットで殴り殺した女に、目を見つめられたまま」
というのですから。
そして第二章「大森海岸」では、主人公が想像する十五年前の光景が描かれます。若い母娘と若い女性が遭遇するシーン。
第三章があらすじにも書かれている、元隣人の娘が主人公のもとを訪れるシーン。

いったいどういう物語が展開されるのだろう、と想像するのがいつも佐藤正午の小説を読む楽しみなのですが、この作品はいわゆる「真相」の見当が簡単についてしまいます。
第一章、第二章の書き方、配置からして、読者に「真相」の見当をつきやすくしたのも、作者の手の内のはずです。

最終的に時効が成立する事件が起こったことは明らかで、その「真相」へ向けて主人公はゆっくりと過去を回想していきます。
読者もそれとともに当時の状況、事件を追体験します。

この手法、ミステリでいうとルース・レンデルの「ロウフィールド館の惨劇」 (角川文庫)を連想しました。
連想しましたが、違いが結構あります(当たり前ですが)。
なにより、事件や登場人物に対する作者のまなざしが違いますね。
佐藤正午のまなざしには、レンデルのような意地の悪さは感じられません。
といって、温かい目を注いでいるというわけでもない。

実は語り手である主人公に共感できなかったんですよね。
一つには、この小説が何人かの女性を軸にした物語であるということが影響しているでしょう。
そして重要なのは、作者のまなざしの正体を未だに見抜けていないことにあると感じています。

ぼくにとっては、何年か後に読み返してみる必要がある小説なのかもしれません。

最後に、この小説、手に取った集英社文庫版は品切れ状態で、今は小学館文庫で手に入るようです。
こちらには後日譚の短編「ブルー」も収録されているようで、こちらも読んでみる必要があるのでしょうか。


アンダーリポート/ブルー (小学館文庫)

アンダーリポート/ブルー (小学館文庫)

  • 作者: 佐藤 正午
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2015/09/08
  • メディア: 文庫





タグ:佐藤正午
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