SSブログ

スイッチ 悪意の実験 [日本の作家 さ行]

スイッチ 悪意の実験 (講談社文庫)

スイッチ 悪意の実験 (講談社文庫)

  • 作者: 潮谷 験
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/09/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
私立大学狼谷(ろうこく)大学に通う箱川小雪は友人たちとアルバイトに参加した。1ヵ月、何もしなくても百万円。ただし──《押せば幸せな華族が破滅するスイッチ》を持って暮らすこと。誰も押さないはずだった。だが、小雪は思い知らされる。想像を超えた純粋な悪の存在を。第63回メフィスト賞受賞の本格ミステリー長編!


2023年5月に読んだ4冊目の本です。
潮谷験のメフィスト賞受賞作「スイッチ 悪意の実験」 (講談社文庫)
上で引用したあらすじ、微妙に違和感があります。
むしろネット通販のページ上に書かれている下のものの方がしっくり。

夏休み、お金がなくて暇を持て余している大学生達に風変わりなアルバイトが持ちかけられた。スポンサーは売れっ子心理コンサルタント。彼は「純粋な悪」を研究課題にしており、アルバイトは実験の協力だという。集まった大学生達のスマホには、自分達とはなんの関わりもなく幸せに暮らしている家族を破滅させるスイッチのアプリがインストールされる。スイッチ押しても押さなくても1ヵ月後に100万円が手に入り、押すメリットはない。「誰も押すわけがない」皆がそう思っていた。しかし……。
第63回メフィスト賞を受賞した思考実験ミステリが文庫化!

主人公であり視点人物である箱川小雪の考え方や行動についていけず、個人的には物語に乗りそびれた感が強いのですが、それでも最後まで興味深く読みました。
予想外の展開に持ち込んで見せる技を堪能したと言えます。

あらすじに書いてある設定ですが「自分達とはなんの関わりもなく幸せに暮らしている家族を破滅させるスイッチ」(具体的にはそのスイッチが押されると、金銭的な援助が打ち切られてしまう)を押すかどうかという実験に主人公たちが参加するという物語になっているのですが、この出だしから、どうミステリに持ち込むのだろう、と思っていました。
押すにせよ、押さないにせよ、ミステリにはなりにくいな、と。
ところが物語半ばのあるページに来て、なるほど、その手があったか、と。

謎そのものは平凡というかありふれた設定ではありましたが(ここで提示される謎の絵解きに期待してはいけません)、ここですっと謎解き物語に転化するのは見事だなぁ、と思いました。

作者はさらに手が込んでいて、その後さらに物語は形を変えます。
謎解きが具現化するのですが、こういう展開になろうとは予想していませんでした。
ただ、それよりも物語の比重は、宗教観、あるいは主人公たちの人生観に重きが置かれるようになってしまいます。

「純粋な悪」研究のための実験だった、ということですから、もとより宗教観のようなものが打ち出されてもおかしくはなく、力の入れ方からして作者もここが書きたかったのだろうなと思われるのですが(各登場人物の設定も、このテーマに沿う形となっています)、ミステリ好きのこちらからすると、ここはあまりしつこくせずに、ミステリとしての側面をがんばってほしかったところ。
考え方や行動に違和感を覚えているだけに、余計そう感じてしまいました。

とはいえ、物語を転換させていくのは面白いなと感じましたので、またまた注目の作家ができてしまいました。

ちなみに「純粋な悪」というのは
「ようするに僕の考える悪とは、他者を傷付ける行為、という単純なもの。その衝動を解放させる状況によって評価が異なってくる。戦争のような、ルールで許されている他害行為は純度が低い。あいつが憎いとかあいつが持っているアレが欲しいという理由で振り降ろされる暴力は、それに比べるとマシだけどまだまだ濁っている。そして悪行機械のように、理由も躊躇もなく実行される他害行為こそが」「僕の求める、純粋な悪だったのさ。」(156ページ)
と実験を主宰する心理コンサルタントに説明されます。


<蛇足1>
「音楽とは、基本的に情景を呼び起こすものだと私は思う。歌詞の存在を問わず、激しい楽曲は嵐を、柔らかい音楽は優しい花園のような形を聞く者の頭に浮かび上がらせる。」(100ページ)
主人公のコメントです。
音楽というものに対するイメージは人それぞれかと思いますが、この受け止め方は面白いですね。
歌詞の効用についても聞いてみたくなります。

<蛇足2>
「僕に限らず社会学とか心理学系の研究者って、論証を疎かにすることも多いしねえ」(156ページ)
心理コンサルタントのコメントです。
個人的に大学のジャンル的には文系出身となりますが、ここで述べられていることは、社会学、心理学に限らずいわゆる文系一般に当てはまるように思いますね(こんなことを言うと叱られるかもしれませんが)。そもそもそれ以前として、使う用語の定義が定まっていないことも多いように思います。




nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 11

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。