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名探偵誕生 [日本の作家 似鳥鶏]


名探偵誕生 (実業之日本社文庫)

名探偵誕生 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2021/12/03
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
神様、どうか彼女に幸福を。
直球の”初恋”青春ミステリ!

小学4年だった僕は、となり町の幽霊団地へささやかな冒険に出た。その冒険に不穏な影が差したとき助けてくれたのが、近所に住む名探偵の「お姉ちゃん」だった。彼女のとなりで成長していく日々のなかで、日本中を騒がせることになるあの事件が起きる──。ミステリとしての精緻さと、青春小説としての瑞々しさが高純度で美しく結晶した傑作。


2024年1月に読んだ10冊目の本です。
お気に入り作家似鳥鶏の作品。「名探偵誕生」(実業之日本社文庫)

目次を見ると、
第一話 となり町は別の国
第二話 恋するドトール
第三話 海王星を割る
第四話 愛していると言えるのか
第五話 初恋の終わる日
となっていて、連作短篇という体裁です。
ただ、第四話と第五話はつながっているので、純粋な短編集ではありませんね。

通勤の電車の中で読んでいたのですが、第三話でこらえきれず笑いそうになりました。必死にこらえたのですが、周りの人、変な奴がいると思っただろうな......
主人公である僕星川瑞人の饒舌な語り口、というのは似鳥鶏ならではながらいつものことで、楽しく読んでもそれだけでは電車の中で笑いだしそうになる羽目には陥らないのですが、この第三話は僕の周りがバカすぎる......(笑)。
166ページからしばらくは、人目のあるところでは読まない方がいいです。

主人公瑞人の隣の家に住む千歳おねえちゃん、彼女が初恋の人、という位置づけ。
で、瑞人が小学四年生の頃から各話で謎解きを重ねていきますので、彼女が名探偵。
千歳おねえちゃんは最初から名探偵なわけなので、タイトルの「名探偵誕生」とは? と考えると、物語全体の道筋というか枠組みはおよその見当がつきますね。
しかも、最終話のタイトルが「初恋の終わる日」ですし。

第三話まではわりと普通のいわゆる「日常の謎」です。
小学生、中学生、高校生が遭遇する事件(というほどのこともないものもあります)ですので、それぞれの謎解き自体は深くはないですが、主人公の心象(いうまでもなく、おねえちゃんに対する恋ごころです)と重ね合わせるようにでてきているのがポイント。

そして第四話、第五話となります。
この時点で主人公は大学生になっています。おねえちゃんには恋人がいる、という状況。
いよいよ、というわけではないですが、殺人事件が発生します。

第四話でおねえちゃんがいつものように名探偵ぶりを発揮し、それを受けて主人公がどうするか、というのが第五話。
ちょっと作りすぎかな、特におねえちゃんの恋人である米田さんの言動についてのリアリティが気になるな、というところなのですが、「名探偵誕生」という着地へ向けての展開には、とても楽しませてもらいました。

せっかく名探偵が誕生したので、「また殺人事件に巻き込まれるのは御免だけど」(367ページ)ということですが、その後の彼らの活躍も読んでみたいです。



<蛇足1>
もう最近では指摘をやめてしまった「一生懸命」ですが、似鳥鶏は
「何か、世界のピントが急に合ったような気がした。これまでずっとピントが合っていないことに気付かないまま、一所懸命に双眼鏡を覗いていたような。」(51ページ)
と、きちんと「一所懸命」です。
さすが。

<蛇足2>
「家に持って帰ってきてしまってから泥棒になるのではないかと不安になり、」(107ページ)
という箇所に、
「泥棒になるためには『持ち主を排除して自分のものにしてやろうという意思』が必要とされているので、この場合はあまり心配しなくていい。」
と似鳥鶏お得意の注がついています。
そうであっても、疑われそうだし、なんだかイヤですよね。
一般的には「意志」であるところ、法律用語の「意思」が使われているのも注目点ですね。

<蛇足3>
主人公が突然「相沢」と呼ばれる195ページに
相沢謙吉。『舞姫』の主人公太田某の友人。『山月記』の袁傪(えんさん)、『走れメロス』のセリヌンティウスと並ぶ「国語教科書三大ありがたい友人」の一人
という注があります。
「国語教科書三大ありがたい友人」って、知らなかったなぁ。





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