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そして医師も死す [海外の作家 た行]


そして医師も死す (創元推理文庫)

そして医師も死す (創元推理文庫)

  • 作者: D・M・ディヴァイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/01/22
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
診療所の共同経営者を襲った不慮の死は、じつは計画殺人ではないか――市長ハケットからそう言われた医師ターナーは、二ヵ月前に起きた事故の状況を回想する。その夜、故人の妻エリザベスから、何者かに命を狙われていると打ち明けられたこともあり、ターナーは個人的に事件を洗い直そうと試みるが……。英国本格黄金期の妙味を現代に甦らせた技巧派、ディヴァイン初期の意欲作。


ディヴァインを読むのは、「三本の緑の小壜」 (創元推理文庫)(感想ページへのリンクはこちら)以来で、1年半以上間があきました。
「2016本格ミステリ・ベスト10」第1位です。

「兄の殺人者」 (創元推理文庫)に続く作者の第2作をようやく読むことができました。
翻訳される順が遅かったのは、やはりディヴァインの中では出来が落ちるからかな、とちょっと気にしていたのですが、いやいや、無茶苦茶よくできていて、面白いではないですか!!

主人公が語り手でアラン・ターナーという青年医師なわけですが、いわゆる「信頼できない語り手」ではなさそうなのに、どうもはっきりとは言ってくれない感じ。読者に何か隠している感じが強くて、不安になります。
アランの共同経営者で被害者である医師ギルバート・ヘンダーソンの妻エリザベスとアランの間に関係があるのかどうか...それすら、アランは読者に明かしてくれない。
それでも、舞台となっているシルブリッジという地方都市(というか、町レベルかもしれませんね)で、故人の妻エリザベスと主人公アランが孤立していく様子に、引き込まれてしまいました。
婚約者ジョアンとの関係がどうなるかにも、はらはら。

濃密な地方都市の人間関係の中でミステリが展開されるのですが、素晴らしい謎解きです。
解説で大矢博子が
「トリックらしいトリックなどない。あざとさもない。奇を衒う仕掛けもない。」
「本書の謎解きそのものは、決して派手ではない。手堅さでは一流だが、六〇年代にあっても新味は薄いと言わざるを得ない」
と書いていますが、それでも本書は一流の本格ミステリですし、非常に意外な犯人を演出していると思います。
ちょっとクリスティっぽいなぁ、と思ってしまいました。
考えてみれば、クリスティの作品でも、犯人そのものは派手なトリックは使っていませんね。クリスティのまるで魔法のようなミスディレクションで、読者はラストの謎解きであっと驚かされてしまう。
本格ミステリの作者の腕の冴えを堪能できる作品だと思います。

ディヴァインには未読の本がまだ積読状態なので、読むのが楽しみです!

<蛇足>
「アラン、警部補も、あれで一所懸命やってるのよ。」(290ページ)
とあって、とてもうれしくなりました。
最近、一生懸命という無知無蒙の表れとしか思えない無神経な語が使われることが多く「一所懸命」ときちんとした日本語を使っていない本が多くなってきたので。
がんばれ、東京創元社!


<おまけ>
HP「黄金の羊毛亭」の解説(?)は、今回も素晴らしいです。


原題:Doctors Also Die
著者:Dominic Devine (D・M・Devine)
刊行:1962年
訳者:山田蘭








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