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終幕のない殺人 [日本の作家 あ行]


終幕(フィナーレ)のない殺人 (光文社文庫)

終幕(フィナーレ)のない殺人 (光文社文庫)

  • 作者: 内田 康夫
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2010/06/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
浅見光彦は、芸能界の大物・加堂孝次郎が箱根の別荘で毎年開く豪華な晩餐会に招かれていた。そこでは二年連続で不審な死亡事故が起きていた。今年こそ事故を防ぐため呼ばれたのだ。十四人の賓客を迎えてパーティーが始まったが、暴露本を書いた俳優の永井智宏が女優の妻の目前で毒殺された! “密室”と化した豪華別荘で起きる連続殺人の謎に浅見光彦が挑む!


「鐘」 (幻冬舎文庫)(感想ページへのリンクはこちら)に続いて内田康夫の作品の感想です。
内田康夫といえば、やはり旅情ミステリーですが、この「終幕のない殺人」は様子が違います。
なんといっても、屋敷を舞台にした連続殺人もの、だからです。

自作解説によると、
「マニアックなミステリーファンや評論家の中には、かくあらねばミステリーにあらずーーのような思い込みがある。思い込みだけならいいが、他人のその思想を押しつけようとする」
ということを踏まえて、
「本書『終幕のない殺人』を書いた動機は、そういったひとつの『風潮』に対するアンチテーゼのようなものかもしれない。お読みになって、作品全編がパロディになっていることがお分かりいただけると思う。」(303ページ)
と書かれています。
「柄にもない作品を書く」作者なりの言い訳は、
第一の理由:マンネリに対して自ら警鐘を打ち鳴らした意味
第二の理由:こういう作品も書けるということを、いちど示しておかなければならないーーと思った
とも。

「この世のものとは思えない大仕掛けなトリックに象徴されるような、児戯にも似た非現実性、ばかげた動機等々、常識の範疇から逸脱したようなことを書くには、良識と教養が邪魔になっているだけのことだと思うのです。」(305ページ)
というのはかなり強烈な「本格」「新本格」批判です。
ただ、誤解のないように書いておかねばなりませんが、内田康夫は「本格」「新本格」がだめだと言っているわけではなく(「それはそれで尊い」と書いています)、
「思うのは自由で、好みの問題もある。各人各様、いかようにでも思っていいはずである」けれども、「思い込みだけならいいが、他人のその思想を押しつけようとする」のが困る、
という主張ですね。

ということなので、本作はお屋敷もののフォーマットにきわめて忠実なつくりになっています。
内田康夫としては異色作ですね。

出来栄えはというと...
好きこそ物の上手なれ、ということでしょうか。残念ながら「本格」「新本格」作家の作品のほうが、格段に出来はよいようです。
この「終幕のない殺人」は人間配置もトリックも、今一つに感じられました。
「作中の登場人物が、いずれも、どこかで見たり聞いたりしたような人物ばかりなのは、キャラクターや状況設定を理解するという、余計な作業に読者の無駄な労力を浪費させることなく、ただひたすら、謎解きと犯人当てに専念していただきたいがため」(306ページ)
ということらしいですが、タレント、女優、俳優を集めて、簡単にくっついたり別れたりする人たちばかりにしてしまったおかげで、登場人物同士でどういうつながりがあろうとなかろうと、まったく意外感が生まれないということになってしまっており、どんなに意外な(本当はそれほど意外ではありませんが)関係を明かしてみたところで、「あっ、そう」程度で驚きにはつながりません。
毒殺トリックも、密室トリックも、トリックというほどもない。
人物の出し入れ、とかかなり入り組んだかたちに作り上げられているのに、あまり効果が感じられないのが残念です。
内田康夫の本領発揮とはやはり言えない仕上がりではないでしょうか。

それに、浅見光彦じゃなくていいでしょう、これ。
もったいないですよ。
浅見光彦の経歴をこういう作風の作品で汚すのではなく、それこそ奇矯な名探偵みたいなのを出せばよかったのに。
浅見光彦はこういう謎も解ける、ということを示しているといえなくもないですが...
むしろ、こういうものものしい山荘ものではなく、内田康夫的本領を示すような「鐘」 (幻冬舎文庫)の方がミステリ味を感じるのは皮肉な感じがします。

内田康夫はあらかじめプロットを作らないで執筆にかかるタイプの作家、ということですが、この作品は事前にプロットを組み立ててから書かれたんでしょうか?
そこが一番興味があったりして...

さすがは人気作家で、この「終幕のない殺人」には他社文庫版が2つあります。
講談社文庫版は品切れのようですが。
終幕のない殺人 (祥伝社文庫)

終幕のない殺人 (祥伝社文庫)

  • 作者: 内田 康夫
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2017/02/15
  • メディア: 文庫

終幕のない殺人 (講談社文庫)

終幕のない殺人 (講談社文庫)

  • 作者: 内田 康夫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1997/07/14
  • メディア: 文庫




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憂国のモリアーティ 2 [コミック 三好輝]


憂国のモリアーティ 2 (ジャンプコミックス)

憂国のモリアーティ 2 (ジャンプコミックス)

  • 作者: 三好 輝
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2017/03/03
  • メディア: コミック


<裏表紙あらすじ>
死こそが人の心を動かす──
陸軍内で、麻薬組織掃討の気運が高まる中、極秘の特務機関創設の情報を得たアルバート。
直後、ロンドンを訪れたウィリアムが何者かに攫われて──!?
国に巣くう歪みを正すため、モリアーティが仕立てる鮮烈な“犯罪劇"がついに始まる!!


「憂国のモリアーティ」 (ジャンプコミックス)(感想ページへのリンクはこちら)に続く第2巻。
表紙は、シャーロック・ホームズ。品のない姿かたちですが(失礼!)、意外とこんなものだったのかもしれませんね。

#4  伯爵子弟誘拐事件 (The Case of the Noble Kidnapping)
#5,6 ノアティック号事件 第一幕、第二幕 (The "Noahtic" Act 1, Act2)
#7  シャーロック・ホームズの研究 第一幕 (The Study in "S" Act 1)
を収録しています。

「伯爵子弟誘拐事件」は着地が派手ですねぇ。
蔓延しているアヘンを退治しようと陸軍省や政府などでアルバートが頑張るシーンで幕を開けるのですが、そのあと伯爵子弟が誘拐されて...と急展開するんですが、誘拐されるのがジェームズ・モリアーティだというのですから、まあ、仕掛け・舞台裏の見当がつくというもの。
情報部特務機関、のちのMI6誕生秘話、ともいえるストーリーになっているのはかっこいいのですが、最後に
「莫大な資金とアヘンの流通ルートを手にした」
と言っていて、あれ? イギリスに浸透していっているアヘンはそのままにして資金源にするんでしょうか?
それはちょっと困るなぁ...

「ノアティック号事件」の冒頭で、モリアーティの狙いがふたたび明示されます。
国の歪みを正したい。その根幹にある貴族・階級制度を打破したい、というものなのですが、
「犯罪によって街は舞台(ステージ)と化し 市民は犯罪を目撃する観客となるーー」
「そして観客に見せるべき題目(テーマ)は この世界の歪みが最も顕になるような”死”ーー
 僕達が演出し飾り立て意味を持たせた”死”こそが 真に人々の…この国の目を覚まさせ事になる」
制度は直ぐには変えられないが、人の心は変えられるから、というのですが、この手段が正しいのかどうか、ちょっと疑問ですね。ただ、まあ、こうしないと物語が転がっていきませんが。
で、これを受けた最初の事件が、ノアティック号という豪華客船を舞台にした事件です。
雑な部分もありますが、貴族をだましていく手口は楽しいですね。
注目はやはり、シャーロック・ホームズの登場でしょうか。
かなり衝撃的な登場の仕方をします。
「一つ一つ可能性を潰していけばどんな有り得なさそうな事でもそれが真実なんだ」
という有名なセリフもきっちりと登場します。
ホームズは、モリアーティの仕組んだ裏に気づくのですが、(当時の)警察ではわからない、ホームズだからわかる道筋が立ててあるのがいいですね。
もう一つ、この話で気になるのは、138ページで、フレッドが民間人の死を使用したプランだったことを気にしているかのようなシーンがあること。ホームズ登場の陰に隠れたようなエピソードですが、将来の波乱要因かもしれませんね。

「シャーロック・ホームズの研究」はモリアーティたちはあまり出てこず、シャーロック・ホームズに焦点が当たります。
モリアーティによれば、
「僕達が仕立てる犯罪をより多くの民衆に周知するために必要なもの
 民衆がその境遇に賛同できる”犯人”
 そして貴族の腐敗を世間に暴く”探偵”」
ということで、その”探偵”役にホームズを活用しようというのです。
「今回は彼にその適性が有るかどうかを試すオーディションだ」と。
いやあ、完全にホームズを下に置いてますね。正典ファンが聞いたら激怒しそう...僕は楽しんじゃいましたが。
この話でおもしろいのは、ワトソンが登場すること。そしてその見た目が、ホームズと違って正統派というか、すっきり麗しい感じに見受けられること。
ハドソン夫人もお茶目に登場しますが、原作はもっと年配のイメージではなかったかと思うんですが、すごく若いハドソン夫人です。
この2巻収録部分では事件は起きず、ホームズ、ワトソン、ハドソン夫人のお披露目のイメージ。
ラストでレストレード警部が登場し、いよいよホームズ物語はじまりはじまり~かと思ったら、ホームズを逮捕するところで、エンド。
第3巻が楽しみです!


<蛇足>
巻頭の人物紹介のところに、STORY とあって前巻「憂国のモリアーティ 1」のあらすじが紹介されているのですが、ミステリ的にはネタバレを含んでいますので、未読の人は(まあ、そんな人はこの2巻を手に取らないでしょうが)ご用心を。

<蛇足2>
巻末のおまけまんがに出てくる、スターゲイジーパイ
この料理そのものを知らなかったんですが、「パイ生地から魚の頭部や尾部が突き出しているのが主な特徴」って、これは嫌だなぁ。

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死者のあやまち [海外の作家 アガサ・クリスティー]


死者のあやまち (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

死者のあやまち (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 作者: アガサ クリスティー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2003/12/01
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
田舎屋敷で催し物として犯人探しゲームが行なわれることになった。ポアロの良き友で作家のオリヴァがその筋書きを考えたのだが、まもなくゲームの死体役の少女が本当に絞殺されてしまう。さらに主催者の夫人が忽然と姿を消し、事態は混迷してしまうが……名探偵ポアロが卑劣な殺人遊戯を止めるために立ち上がる。


クリスティを読むのは久しぶりですね。
「フランクフルトへの乗客」 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
(感想ページへのリンクはこちら)以来なので、4年以上間が空きましたね。
まあクリスティの作品はもともと翻訳が出そろっていたし、大物はほとんど読み終わっているので、なかなかそこから進むのは時間がかかりますね(←個人的言い訳です)。

冒頭、オリヴァ夫人から電話がかかってきて、ポアロ(クリスティー文庫の表記はポアロですが、個人的にはポワロと書きまい)がはるばるデヴォンシャーまで駆り出されることになるのですが、まずここが可笑しい。
ポアロって、こんなに簡単に他人に手玉に取られましたっけ? 耄碌した(笑)!?

はっきりしないけれど、腑に落ちないおかしな点があって
「明日、犯人捜しの余興の殺人のかわりに、ほんものの殺人があったとしても、あたしは驚かないわ!」(24ページ)
という夫人のおかげで、殺人を未然に防ぐ、というタスクを負ったポアロ。
ポアロが赴いたナス屋敷で、あらすじにもある通り、犯人捜しゲームの途中で本当に殺人事件が発生する、という(ミステリ的には)楽しい設定です。
あれ? なんだか既視感があるなあ、と思ったら、「ハロウィーン・パーティー」 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)と似てるからなんですね。
ただ、殺されたのは少女。
この、殺されそうもない少女が殺される、オリヴァ夫人が感じた腑に落ちないおかしな点と関係がなさそうな少女が殺される、というのがポイントですね。
殺人が起きるのが133ページ。1/3が済んだところですね。

このあとブランド警部がやってきて、延々尋問シーンが続きます。
ひたすら、会話、会話、会話です。
ところがこれに退屈しませんでした。
会話から次々と謎が深まったり、新しい視点、怪しい見方が浮上したりするからです。
なんとなく、古き良き古典ミステリ、という味わいをしっかりと楽しめました。

お屋敷ものとして異色なのは「名探偵皆を集めてさてと言い」というシーンがないことでしょうか。
登場人物をラストで集めにくいというプロット上の要請からかもしれませんし、たどり着く真相の醜悪さからかもしれません。背後に隠されていた動機は、クラシック・ミステリには王道のものなんですが、見事に醜悪なものになっています(変な褒め言葉ですね)。
心躍る謎解きシーンがない代わりなのか、その真相を受けてのラストシーンの厳かさ(と言ってよいと思います)は、本作品の味わいどころかと思います。


<蛇足1>
オリヴァ夫人が最初に登場するときのいでたちがすごいですよ。
「どぎつい卵の黄身の色をした粗いツイードのコートとスカート、それからいかにもいやな感じの芥子色のジャンパーといったいでたちだった。」(19ページ)
コートとジャンパーを同時に着るって、なかなか斬新なコーディネイトですね。

<蛇足2>
「たまげたことにポアロは大きなキューピー人形をあててしまった。」(119ページ)
キューピーってこの頃から、イギリスにもあったんですね。


原題:Dead Man's Folly
著者:Agatha Christie
刊行:1956年
訳者:田村隆一






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悪女パズル [海外の作家 パトリック・クェンティン]


悪女パズル (扶桑社ミステリー)

悪女パズル (扶桑社ミステリー)

  • 作者: パトリック クェンティン
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2005/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
大富豪ロレーヌの邸宅に招待された、離婚の危機を抱える三組の夫婦。仲直りをうながすロレーヌの意図とは裏腹に、屋敷には険悪な雰囲気がたちこめる。翌日、三人の妻の一人が、謎の突然死を遂げたのを皮切りに、一人、また一人と女たちは命を落としていく……。素人探偵ダルース夫妻は、影なき殺人者の正体を暴くことができるのか? 『女郎ぐも』『二人の妻をもつ男』の著書の初期を代表する「パズル」シリーズ第四作、ついに本邦初訳。


「迷走パズル」 (創元推理文庫)(ブログへのリンクはこちら
「俳優パズル」 (創元推理文庫)(ブログへのリンクはこちら
「人形パズル」 (創元推理文庫)(ブログへのリンクはこちら
に続くシリーズ第4作です。
前作「人形パズル」 の感想で、『シリーズ次作「悪女パズル」 (扶桑社ミステリー)は昔読んでいるのですが、忘れちゃっているので読み返した方がいいかな??』と書いたのですが、その通り、再度購入し読み返しました!

「人形パズル」 に続いて、ダルースは海軍の休暇中です。
大富豪ロレーヌの屋敷に招待されて、今度こそゆっくり休暇をアイリスと楽しむはずが...
屋敷にはロレーヌの3人の友人、ドロシー、ジャネット、フルールが既にいたのですが、ロレーヌの迷惑な思いつきで、3人の夫たちも招待されて後からやってきます。この3組の夫婦が離婚寸前、仲が非常に悪くなっている、というのがポイント。
この「悪女パズル」、すっかり内容は忘れてしまっていて、まるで初読のように楽しめたのですが、この3人の夫たちが3人の妻たちとまみえるシーン(27ページ)は読んだら強烈に蘇ってきました。ああ、この話、確かに読んだな、と。

第一部 ドロシー
第二部 ジャネット
第三部 フルール
第四部 ミミ
第五部 ロレーヌ
第六部 アイリス
となっていまして、順に殺されていきます。
おいおい、アイリスまでかよ、と思わせてくれるのがまた楽しい
(この本、目次がないのが残念です。あったほうが絶対おもしろかったのに)

最初の毒殺も、その次の溺死も殺し方としてはちょっと現実的ではないなと思ってしまいますが、複数の夫婦関係を錯綜させて人間関係の緊張を生み出し、ミステリならではの雰囲気が出来上がっているのはさすがですね。
だからこそ動機を軸にしてアイリスとピーターの推理がくるっとまとまっていく流れが光るのだと思います。
突出したトリックとかがあるわけではないですが、かっちり仕上がっていて、再読してよかったですね。

それにしてもこの本、翻訳がひどいです。いくつか挙げておきます。
「ロレーヌは運転そっちのけでゴール人のようなジェスチャーをした。」(50ページ)
ゴール人? 普通日本語ではガリア人といいますね。ちょっとひねってケルト人と訳すこともあるかもしれませんが。
「リノには見るべき何かがある」(50ページ)
中学生の英文和訳を見ているみたいな訳です。
「世界最大の小都市だ」(51ページ)
も言いたいことはわからなくもない気がしますが、苦笑するしかありません。
「アイリスは不正に手に入れた金銭をかき集め」(57ページ)
アイリスがスロット・マシーンでジャック・ポットをとるシーンなんですが、カジノのスロット・マシーンで手に入れたお金は、不正、ではないでしょう。
せいぜい、日本語でいうと、あぶく銭(悪銭)、程度ではないでしょうか。
「襟元が大きくくれた、中世王朝風の袖のついた栗色のロングドレス」(215ページ)
大きくくれた? 辞書を引いても意味がわかりませんでした。くくれる、でしょうか? でも、大きくくくれたでも意味がわかりません。
「しかし私の知るかぎりで、そんな人間はまったくいやしないーー略ーーそんなやつはね」(290ページ)
「そんな」とまず言ってから、その内容を後から説明するなんて使いかた、日本語ではありません。
本当に中学生の和訳みたい...
「厚ぼったい、法定紙幣の束だった」(360ページ)
原語逐語訳なんでしょうねぇ。法定紙幣なんて普通の文章で使いませんね。


<蛇足>
「そのことでミセス・ラッフルズの振りをする必要はないよ」(320ページ)
とアイリスにピーターが言うシーンがあり、ミセス・ラッフルズに「英国の小説家E・W・ホーナングの探偵小説の主人公」と注がついているのですが、なぜミセス・ラッフルズなのでしょうね?
「二人で泥棒を―ラッフルズとバニー」 (論創海外ミステリ)を皮切りに翻訳もありますが、義賊ラッフルズ=男なんですよね。
そもそも、ラッフルズ夫人って、いたかな?


原題:Puzzle for Wantons
作者:Patrick Quentin
刊行:1945年
訳者:森泉玲子



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ドラマ:コックを捜せ [ドラマ 名探偵ポワロ]

Poirot The Definitive Collection Series1-13 [DVD] [Import]

Poirot The Definitive Collection Series1-13 [DVD] [Import]

  • 出版社/メーカー: ITV Studios
  • 発売日: 2013/11/18
  • メディア: DVD



ドラマ:エンドハウスの怪事件(リンクはこちら)を見た次は、シリーズの1から見てみようと、COLLECTION1 のDISC1の筆頭、「コックを捜せ」。
英語字幕付きで見ました。

全般に雰囲気がとてもいいドラマになっていて、浸れます。
ジャップ警部もミス・レモンとしっかり登場。
時代色を出さないといけないので、全部スタジオのセット収録というわけにはいかないし、どうやって撮影したのかな? と思えるシーンがあちこちに。
ドラマのために通行止めとかいっぱいしたんでしょうねぇ...橋とか Clapham の公園とか貸し切りにしたんでしょうか?

国家的大事件しか取り組まないよ、とうそぶいていたポワロが、料理人の失踪という地味な事件に取り組む羽目になる、というお茶目な段取りの作品なんですが、ドラマシリーズ開幕の作品としてはかなり地味な作品を選びましたねぇ... ひょっとして本国では人気のある作品なんでしょうか?

原作が収録されているのはこちら。

教会で死んだ男(短編集) (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

教会で死んだ男(短編集) (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 作者: アガサ・クリスティー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2003/11/11
  • メディア: 文庫


冒頭、犯行シーン(?) のような感じでスタートしますので、なんとなく視聴者は事件の見当がつきやすく配慮されていますが(倒叙物というわけではないでしょうが)、料理人の失踪から大きな事件(しかもポワロが興味ない、と冒頭ヘイスティングスに愚痴っていた? 事件)へつながっていく、というストーリーになっていまして(そうでなきゃ、ミステリにならないですよね)、どうやってポワロが解明を進めていくかがポイントとなります。
気取った感じの女主人ではなく、お手伝いさん(メイド?)を味方につけるあたりとか常套的ながら映像で見ると楽しいですね。


日本語版だと、↓です。
名探偵ポワロ DVD-SET1

名探偵ポワロ DVD-SET1

  • 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
  • メディア: DVD


名探偵ポワロ 全巻DVD-SET

名探偵ポワロ 全巻DVD-SET

  • 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
  • メディア: DVD


このシリーズに関して、とても素晴らしいサイトがありましたので、リンクをはっておきます。
「名探偵ポワロ」データベース
本作品のページへのリンクはこちら

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屍人荘の殺人 [日本の作家 あ行]


屍人荘の殺人

屍人荘の殺人

  • 作者: 今村 昌弘
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/10/12
  • メディア: 単行本


<表紙袖あらすじ>
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。
合宿一日目の夜、映研のメンバーたちは肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。
緊張と混乱の一夜が明け――。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった……!!
究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?!
奇想と本格ミステリが見事に融合する第27回鮎川哲也賞受賞作!


単行本です。
第27回鮎川哲也賞受賞作で、「このミステリーがすごい! 2018年版」「2018本格ミステリ・ベスト10」、2017年週刊文春ミステリー・ベスト10、すべて1位。三冠王ですね。

ぱっと書名を見て、「屍人荘」ってなんと読むのだろう、と思ったんですよねぇ。
死人ではないので「しにん」とは読まないでしょうし、ネットで調べると「しびと」としてプレイステーション2用のホラーゲーム「SIREN」シリーズに登場する不死の存在と出てきます。
さて、本で確かめてみると、「しじん」とフリガナがふってありました。
作者の造語、ということになるのでしょうか?
でも、こんな名前建物につけないよなぁ、と思っていたら、
「くそったれ。これじゃ紫湛荘というより屍人荘じゃないか。」(116ページ)
という述懐が出てきまして、語り手が勝手につけた名前なんですね。なるほど。

この紫湛荘を舞台に連続殺人の幕が開くわけですが、目次、受賞の言葉の次に見取り図がついていて、お、館ものだな、と期待が募ります。
でも、冒頭は、班目機関とかいう怪しげな組織(?) をしらべた報告書の最初の部分が掲げられ、ん? と思ったところ。
すると第一章で、神紅大学ミステリ愛好会だ、映画研究会だのが出てきて、ああ、また大学サークル内ので事件なのか、と個人的にはすぐに期待度が下がってしまいました。
第二章の冒頭では、それとは違う研究室が舞台となって変な(?) 断章で始まります。この断章、この後の章でも折々出てきます。
ただ、おおむね舞台は紫湛荘であり、登場するのは大学生とその関係者です。

登場人物の造形にはちょっと馴染めないものを感じながらも(なのでシリーズ化はしないでほしいですね...シリーズ化されそうですけど)、まあ、普通の館ものだなぁ、と思って読んでいたら、第三章でまさに「世界は一変」(帯から引用)します。
ここまでで100ページ。全体の1/3が済んで、ようやく館を舞台にした連続殺人劇の幕開きです。

あちこちの書評でばらされちゃっていますが、この作品のポイントはやはりこのゾンビの登場ですよねぇ。(伏字にしています)
いやあ、ゾンビが出てくる本格ミステリって...
ゾンビのおかげで、吹雪の山荘が成立するってのがすごい。
ゾンビが不可能興味をかきたて、ゾンビが謎解きに生きてくる。
この発想だけで、鮎川哲也賞あげてもいいんじゃないでしょうか(受賞してますって...)。

これ以外にもおもしろい発想があちこちに。
特に終盤で語り手の俺の歯切れが悪くなってくるあたりは、ミステリの仕掛けとしておもしろく感心しました。

問題点は、上記で触れたキャラクター設定以外では、動機、でしょうか。この動機はちょっとないなぁ。
あとは感心しておいてなんだい、と言われそうですが、語り手の俺の歯切れが悪くなってくることに関連する事項(原因?)はかなり違和感があります。
また折々挿入される断章も、付け足し感満載でしたね。ポイントとなるゾンビを登場させるための支えとして挿入されたんだな、と推察しますが、結局きちんとしたケリはつけずにほったらかし気味で、どうやって収束したのか今一つわからない。紫湛荘のパートといかにもバランスが悪いんですよね。こんなことなら断章のような背景説明は一切なく、いきなりゾンビを登場させてしまってもよかったのではないでしょうか?

なので、問題点もそれなりに大きく、三冠王になるほどの作品か? と聞かれると素直にはYESと言えませんが、なによりゾンビの活用をはじめとした発想のきらめきはとても魅力的なので、この「やりやがったな感」「してやられた感」(褒め言葉です)はかけがえないように思いました。
次作への期待は非常に大きいです!


<蛇足>
「俺はホワイダニットに加え、フーダニット、ハウダニットの意味も合わせて説明した。
 それぞれなぜ、誰が、どうやってそれをやったかということだ。フーダニットが犯人、ハウダニットがその手法を示すのに対し、ホワイダニットはそうせざるを得なかった理由を指す」(140ページ)
とありますが、通常、ミステリでいうホワイダニットというのは犯行の動機を探るタイプのものを指すので、この作品でのように
「犯人がなぜこの方法を選んだのか、なぜ今でなければならないのか」(140ページ)
ということを指す語ではないように思います。
もっとも、why には違いないですが...
このあたり、「実は本格ミステリに傾倒していたわけではなく、良き本格ファンなどとは口が裂けても名乗れない身なのです。」と受賞の言葉でいう作者らしい、ということでしょうか...


<2024.4追記>
2019年9月に文庫化されています。書影はこちら。

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 今村 昌弘
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/09/11
  • メディア: 文庫



タグ:今村昌弘
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モリアーティ [海外の作家 アンソニー・ホロヴィッツ]

モリアーティ (角川文庫)

モリアーティ (角川文庫)

  • 作者: アンソニー・ホロヴィッツ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/04/25
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
『最後の事件』と呼ばれるホームズとモリアーティの対決から5日後、現場を訪れた2人の男――ピンカートン探偵社調査員のチェイスとスコットランド・ヤードのジョーンズ警部。彼らは情報交換の末、モリアーティへの接触を試みていたアメリカ裏社会の首領を共に追うことに。ライヘンバッハ川から上がった死体が隠し持っていた奇妙な紙を手がかりに、捜査が始まる! ドイル財団公認、再読必至のミステリ大作!


長編「モリアーティ」と短編「三つのヴィクトリア女王像」が収録されています。
「シャーロック・ホームズ 絹の家」 (角川文庫)(感想ページへのリンクはこちら)に続く、コナン・ドイル財団公認のシリーズ第2弾!
なんですが、表題作である長編「モリアーティ」には、なんとシャーロック・ホームズは出てきません。タイトル通り、ホームズの宿敵・モリアーティを題材にしています。
捜査にあたるのは、スコットランド・ヤードのジョーンズ警部とピンカートン探偵社調査員チェイス。
いや、面白い組み合わせなんだと思いますし、楽しく読みはしましたが、コナン・ドイル財団公認のシリーズはやはりホームズの活躍を描くべきではなかろうか、という気がしてなりません。
さらに、モリアーティもライヘンバッハの滝で死んでいるわけで、そのモリアーティの後を襲ってロンドンに君臨しようとしているアメリカから渡ってきた犯罪組織の首領を捕まえるという話です。
だいぶ、ホームズから遠くなっていますよね(苦笑)

その点をおいておくと、快調です。
スコットランド・ヤードの警部とピンカートン探偵社の調査員という組み合わせにも、チェイスが語り手をつとめていることにも、最初のうちあれれと思っていましたが、これが意外といける。
ホームズに学んだ、としてジョーンズ警部が推理を披露していくところとか、楽しいんですよ、とても。(暗号がしょぼいのはご愛嬌でしょうね)
「あなたはピンカートン探偵社を辞め、わたしはスコットランド・ヤードを辞める。そうしたら一緒に組もうじゃありませんか」「ベイカー街の部屋にはわれわれ二人が住めばいい。どうですか、この案?」(222ページ)
なんてセリフまでジョーンズ警部から出てきて笑ってしまいました。役どころとして、ジョーンズ警部がホームズで、チェイスがワトスンなんですね。
語り手がチェイスであることへの違和感もこのあたりですっかり解消。
なんとなくバディ物みたいな風情も漂ってきます。
治外法権を無視して、アメリカ公使館に乗り込んでいくシーンなんか、わくわくします。

以下、ネタバレになりますので、途中から色を変えておきます。
帯には有栖川有栖の解説のタイトル「期待に応え、予想を裏切る」と書いた上に、「驚愕の結末が待ち受ける、スリル満点のミステリ大作!」という煽りが。
上で引用したあらすじにも、再読必死のミステリ大作! と。
とこう書いてあると、ミステリを読みなれた方は一定のパターン=叙述トリックかそれに類するもの、を連想してしまい、本書の肝ともいうべきポイントにあっさり気づいてしまうように思います。

登場人物はそんなにいませんし。
レストレイド警部を犯人にするわけないしなー。
ジョーンズ警部も正典では印象に残っていませんが(失礼)、正典から出演している。
もちろん、公認なので正典に出てきた人物を犯人にしても文句を言われることはないと思うんですが、まあ、控えますよねぇ。
となると、犯人になりそうな人って、チェイスしかいないではないですか。これでサプライズと言われましても...
ただ、おそらく帯なんかのリーディングがなくても、結論たどり着く読者多いと思うんですよね。
ホームズものの続編という位置づけなのに、ホームズもワトスンも出てこない。タイトルのモリアーティも死んでいるという設定。
「シャーロック・ホームズ 絹の家」 (角川文庫)と語り手変わっちゃってるし、このあたりいかにもくさいではないですか。
書きぶりも気をつけているようですが、どうもアンフェアな記述があちこちに...
ちょっと残念でした。

とはいえ、全体としては凝りに凝った本格ミステリといえると思います。

同時収録の短編「三つのヴィクトリア女王像」にはちゃんとホームズが登場し、語り手はワトスン!
ストランド誌に掲載されたという体裁の挿絵(表紙絵)まで入っているという手の込みよう。
他愛もないと言ってしまえばそれまでですが、短い中にすっきりとまとめられた本格ミステリです。
ジョーンズ警部も登場します。でもなぁ、ここでは道化扱いですよ、可哀そうに。
「モリアーティ」のほうに
「いまだに不思議でならないのは、ワトスン博士はなぜ小説の中で彼をああも間抜けな人物に描いたのだろうということだ。『四つの署名』 を読んで以来、私はこう確信している。あの冒険譚のなかのアセルニー・ジョーンズは私が実際に知っている男とは似ても似つかないと。断言しよう、スコットランド・ヤードでは彼の右に出る者はいない」(89ページ)
とチェイスが書いてせっかく持ち上げていたのに...
こちらの短編はワトスンが書いた、という設定なので、ジョーンズが馬鹿にされても仕方がないということなんでしょうけどねぇ。アンソニー・ホロヴィッツも意地悪ですよねぇ...

<蛇足1>
チェイスの宿泊するホテルがノーサンヴァーランド・アヴェニューにあるという設定なんですが(89ページ)、ノーサンヴァーランド・アヴェニューの近くには、現在パブ「シャーロック・ホームズ」があります(パブ「シャーロック・ホームズ」のある通りは、ノーサンヴァーランド・ストリートです)。
トラファルガー・スクエアの近くです。
18082018 DSC_0253.jpg
ちょっとニヤリとしてしまいました。

<蛇足2>
「いまの状況を鑑みれば、それほど先の話ではないと思いますし」(276ページ)
という訳があって、がっかりしました。校閲に引っかからないものなんでしょうか?
訳者も校閲者も「鑑みる」を一度辞書で引いてみてはいかがでしょうか?

<蛇足3>
「ストランド街の馬車乗り場はロンドンで一番混んでいますからね。主要な鉄道駅に近いうえ~」(226ページ)
という訳があり、ちょっとひっかかりました。「主要な鉄道駅」というのがこなれてないなぁ、と思ったからです。
原語がわからないのですが、main とか major が使われているんでしょうね。
ひっかかったことはひっかかったのですが、これ日本語で言い換えるの難しいな、とも感じました。なんというのが自然でしょうね? 「大きな駅に近い」くらいにしておくのがいいのかもしれませんね。
(もっとも、原語が terminal だったらずっこけますが。さすがに terminal を主要な鉄道駅と訳すことはないでしょう)
ちなみに場所的には、チャリング・クロス駅ですね。きっと。

<蛇足4>
「リージェント・ストリートに面したカフェ・ロワイヤルの前でジョーンズと待ち合わせていた」(89ページ)
とありますが、カフェ・ロワイヤルは今もあります。ホテルですね。ピカデリー・サーカスの近くです。携帯で撮った雑な写真でも、ピカデリー・サーカスの電飾がご覧いただけるかと。
18082018 DSC_0263.jpg



原題:Moriarty
作者:Anthony Horowitz
刊行:2014年
訳者:駒月雅子








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リケコイ。 [日本の作家 喜多喜久]

リケコイ。 (集英社文庫)

リケコイ。 (集英社文庫)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2016/10/20
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
恋愛経験ゼロ。冴えない理系大学院生の森は、ある日突然恋に落ちた。相手は、卒業研究をするためにきた、黒髪メガネの年下リケジョ・羽生さん。ところが、好みド直球な彼女にはある重大な秘密が! 妄想と現実に身悶えながら、あの手この手でアプローチを仕掛けるが、ひたすら空回り。それでも諦めきれない……。どこまでも不器用で、思わず応援したくなる、歯がゆさ満載の青春ストーリー!


喜多喜久の本の感想を書くのは2017年6月3日の「化学探偵Mr.キュリー4」 (中公文庫)(感想ページへのリンクはこちら)以来となります。
この間、
「化学探偵Mr.キュリー5」 (中公文庫)
「研究公正局・二神冴希の査問 幻の論文と消えた研究者」 (宝島社文庫)
「アルパカ探偵、街を行く」 (幻冬舎文庫)
を読んでいるのですが、感想を書けませんでした。

さて、この「リケコイ。」 (集英社文庫)ですが、これまでの喜多喜久作品の中では最もミステリ味が薄い作品です。
そして個人的にはいちばんつまらなかった...

女性との接点の少ない理系男子に向けた恋愛指南、いや指南ではないですね、反面教師となるようなストーリー、という内容です。
卒業研究のために研究室にやってきた別の大学の眼鏡女子・羽生さんに恋に落ちた院生森。
森の造形はともかくとして、この羽生さんの造形がなかなかおもしろいです。こちらも恋愛経験のない(あるいは少ない)理系の女の子、とせずに、見かけと違ってわりと恋愛に手慣れた感じの設定。(ラストあたりでは、かなり強烈なことをやってくれてしまいます)
ということは、羽生さんにいろいろと森が手ほどきしてもらう話なのかな、と思いきや、まったく違う方向に進みます、というか、進みません。
同時に、不思議なことに羽生さん、魅力的に感じませんでした。
森が羽生さんの気を惹こう、思いを遂げたい、と思っていることはわかっても、森の目を通してさえ、さほど羽生さんが素晴らしいようには思えないんですよね...

また、森のやること、結構無茶苦茶です。いくら恋愛経験なくて、女性と話すのが苦手にしても、これはないなぁ。羽生さんがある程度手慣れている、あるいはこなれているおかげで、一気に破綻とまではいかないのですが...
一方で、森は高校の同窓会で再会した元同級生と、なんだかよくわからないけど、なんとなくいい感じっぽくなってきて...
はい、おそろしくウダウダ、ウダウダする話になります。しかも森のひとり芝居というか、空回り。

これ、応援したくなりますかねぇ?
個人的にはいつもほぼ無条件に主人公に肩入れする傾向があるんですが、この森くんに対しては最初のうちだけで愛想が尽きたというか、あまりのずれについていけなくなってしまいました。
しかも、この状況下、森が視点人物で「私」として語られるのは、かなりきついですね。

ミステリ色が薄いといいましたが、実際のところまったくミステリではありません。
全体的には森の視点で物語がつづられていくのですが、章の間に「原作者より、~~~なあなたへ」と題する断章(?)が挟み込まれていて、その原作者とは誰か(作中人物のうちの誰かであることは明かされています)というのがかろうじてミステリ的趣向を匂わせてくれるといえるかもしれません。
でも、ミステリ的趣向というほどのこともない。
これ、一発で誰かわかりますよねぇ...(作者=喜多喜久も隠す気はないでしょうが)

この原作者が書き記す「理系男子(あるいは女子も)が心に留めておくべき、非常に重要な恋愛の注意事項」というのをここに転記しておきます。
①外見で内面を推察し、それだけで相手を知った気になってはならない。
②恋愛への幻想は、なるべく早く捨てた方がよい。大抵の場合、それはあまりに幼稚すぎるからだ。
③告白の前に、相手に恋人がいるかどうかを確認すべし。
④あなたに優しくしてくれる、人当たりのいい異性には、ほぼ間違いなく恋人がいる。あるいは、いたことがある。
⑤精神の衝撃を和らげるために、いついかなる時も最悪を想定すべし。


<蛇足>
「そこは八帖ほどの広さで、長方形のテーブルの周りに~」(112ページ)
とあるのですが、これは八畳の間違いですよね。




タグ:喜多喜久
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デボラ、眠っているのか? [日本の作家 森博嗣]

デボラ、眠っているのか? Deborah, Are You Sleeping? (講談社タイガ)

デボラ、眠っているのか? Deborah, Are You Sleeping? (講談社タイガ)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/10/19
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
祈りの場。フランス西海岸にある古い修道院で生殖可能な一族とスーパ・コンピュータが発見された。施設構造は、ナクチュのものと相似。ヴォッシュ博士は調査に参加し、ハギリを呼び寄せる。一方、ナクチュの頭脳が再起動。失われていたネットワークの再構築が開始され、新たにトランスファの存在が明らかになる。拡大と縮小が織りなす無限。知性が挑発する閃きの物語。


Wシリーズの第4作です。
このシリーズは、ロンドンでもしっかりフォローしたいと思っておりまして、中身が中身だけに読み返す必要も出てくるだろうと、既読の分も持ってきています。
この「デボラ、眠っているのか?」 (講談社タイガ)は、2017年8月に読んでいるのですが感想を書けずじまい(書かずじまい?)でした。
だいぶ忘れているので、読み返しました!

前作「風は青海を渡るのか? 」 (講談社タイガ)(感想ページへのリンクはこちら)で百三十年前のコンピュータが再稼働したのちのお話です。

今回、トランスファという存在(?) が大きく取り上げられています。
最初にハギリたちが見つけたトランスファは、デボラと名づけられますが、サリノというウォーカロンを操ってハギリたちと接触を試みます。
「デボラの実体は、単なるコードです。ソフトなんです。」(25ページ)
「ネットワークを介して、あらゆる制御系に高速でアクセスすることができます。」(25ページ)
「人間であっても、そういった機能を体内に装備していれば、そこを狙われます」「ここの警備隊は、全員が人間です。」「しかし例外なく通信が可能なチップを装備しています」(27ページ)
「ようするに、デボラは放てば、あとは学習し、増殖し、目的を達する、というもので、夢のような話だ」(136ページ)
なんだか、すごいですよね。

ここからもお分かりかと思いますが、激しい戦闘シーンが何度かあります。
このシーンが楽しい。
後半の、モンサンミッシェルと思しき(*) 修道院での戦闘シーンなんか、映画を観ているよう。
力でねじ伏せる、という以外に、どうやって切り抜けるか、という点もよくできています。将来ハリウッドで映画化されてもいいですねぇ。(ただ、ハリウッドが作るには、全体のテーマが深すぎるとは思いますが)

人間とウォーカロンの違い、人間とは何か、という点は引き続き取り扱われています。
「発想という行為は、能力なのだろうか。力のように、いつでもすぐ発揮できるものではない。ただ、平均すると、優れた発想を多く取り出せる頭脳とそうでない頭脳があって、そこに明らかな能力差が観察される。そして、僕の知っている範囲では、その発想力を持っているのは、ウォーカロンではなく人間が多い。」(62ページ)
この辺りの考え方は、シリーズを通して慣れ親しんできたものですが、
「ということは逆に、デボラの発想には、どこか人間的なものを感じてしまう。気のせいだろうか。」(168ページ)
なんて感慨を持つシーンに接すると、デボラは人間になりつつあるのか! と警戒(?) してしまいます。
でも未だ
「デボラの発想ではない。
 僕が考えた。
 今思いついたのだ。
 人間しか、思いつかない。」
「単なるインスピレーションだ。
 人間しか、それをしない。
 人間は演算しない。
 偶然。
 そう、偶然だ。
 そんなものに頼るのは、人間だけだ。」(218ページ)
というところもありますので、ちょっと安心(?)。

人間とウォーカロンの違い、人間とは何か、という点は、さらに境地が進んでもおりまして、
「そもそも、この躰というものが、いつまで必要でしょうね」「エネルギィ効率から考えて、すべてをバーチャルにする選択は、けっこう早い段階で訪れる気がします。なにしろ、みんな歳を重ねて、自分の躰に厭き厭きしてしまうんじゃないですか?」(266ページ)
「ただ、それは、僕の躰が実行しているわけではない。僕の頭脳が考えているだけだ。ということは躰はなくても良い。むしろない方が良いともいえる。コーヒーが飲めなくなるとか、散歩ができなくなるとか、諸々考えたけれど、バーチャルの世界においても、きっとコーヒーや散歩が存在し、それを体験し、その感覚を楽しむことが可能だろう。であれば、なにも変わりはないではないか。」(266ページ)
というところまで!!

ウォーカロンの少女サリノの目が赤いのは、きっと「赤目姫の潮解」 (講談社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)とつながるんですよね。
「赤目姫の潮解」はいま手元にないので読み返せていませんが、あちらは「意識と身体の分離、というテーマ」ですからね。

シリーズの今後がますます楽しみです。
しかし、真賀田四季、すごすぎ。


英語タイトルと章題も記録しておきます。
Deborah, Are You Sleeping?
第1章 夢の人々 Dreaming people
第2章 夢の判断 Dreaming estimation
第3章 夢の反転 Dreaming reversal
第4章 夢の結末 Dreaming conclusion
引用されているのは、J・G・バラード「沈んだ世界」 (創元SF文庫)です。

(*)
モンサンミッシェルとは書いてありませんが、きっとそうです。
「パリの西方の海岸」(96ページ)
(パリから)「車で三時間以上かかります」(109ページ)
「本来は島だったらしい。潮の満ち引きによって海水に囲まれたり、陸地とつながることがあったという。道路が作られたことで、その堤防の両側に砂が溜まり、現在では島には見えない」(157ページ)
ということですから。


<蛇足1>
「気分転換という意味の分からない古い言葉があるが、おそらくそれだと思われる」(11ページ)
こんなことを言うなんて、ハギリはすでに人間じゃなくなっていますね(笑)!

<蛇足2>
「何ですか、きっちりって」
「ちょっきりとか、ぴったりとか、そんな感じじゃないかな」(34ページ)
というセリフが出てくるんですが、きっちりのほうが一般的な表現ではないでしょうか(笑)?

<蛇足3>
ペィシェンス、という表記があります。
これ、どう発音するのでしょうか? 「ペィ」?
Patience という人名だと思われますが、これ、ペイシェンス、と普通書きますよね? 「ペィ」?

<蛇足4>
「若いときには、新しいものを食べる機会が多く、そのたびにどんなものも美味く感じられたように思う。年齢を重ねると、珍しさも新しさも、どうしても弱くなってしまう。心を動かされるようなことがなくなってしまうのだ」(180ページ)
なるほど...



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秘密 season 0 1 [コミック 清水玲子]

秘密 season 0 1 (花とゆめCOMICSスペシャル)

秘密 season 0 1 (花とゆめCOMICSスペシャル)

  • 作者: 清水玲子
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 2013/08/28
  • メディア: コミック



先日、「憂国のモリアーティ 1」 (ジャンプコミックス)の感想で(リンクはこちら)、「コミックも2シリーズだけ持ってきていまして」と書きましたが、そのとき触れたもう一つのシリーズがこの「秘密 Season 0」 です。
6巻まで持ってきましたが、先月(2018年7月)7巻が出たようです(買わなきゃ...)。

秘密のスピンオフで、この巻は、薪と鈴木克洋との出会いが描かれます。
二人は大学生です。

出会いが最悪で、そのあと仲良くなる(?) というのは王道中の王道、定番中の定番の展開ですが、きちんとその流れに棹差しています。素晴らしい。
合コンを「親睦会とは名ばかりの下らない性交目的の異性品定め物色の場」とは、言い得て妙ですね(こらっ)。

薪の両親が死んだ火災事件の謎を解こうというのが薪の(当時の)ライフワークだったわけですが、そこに出てくるのが、選び抜かれたエリート候補しか入れない謎の結社「プレミアム」。
いやあ、いいですねぇ、こういう怪しげなの。
薪の法定後見人(要するに育ての親、みたいなもんですね)である澤村敏が、薪の両親が死んだ火事の際顔と全身に火傷を負い、怪しげな外見(大変失礼な言い方になっていてすみません。でも、絵が怪しげなんです...)になっているというのも、思わせぶりでいいです。
(ちなみに、火災の真相は、おそらく読者の想定の範囲内です)

鈴木と薪の関係性は、この「秘密 season 0 1」を読んでもぴんと来ないままだったりするのですが、
『俺はおまえの「澤村さん」にはなれない
 お前の「両親」にも「家族」にもなれない
 「恋人」にも「伴侶」にもなれない
 --なれないけど
 でも「親」からはいつか独立して必ずいつかは死別する時が来る
 「恋人」や「夫婦」だってどっちかが浮気したらお終いだ
 でも「友人」なら
 「友人」ならずっと一緒にいられる』
というのは、なんにせよすごいですねぇ...

シリーズ2巻はどんなストーリーを見せてくれるのでしょうか?

<蛇足>
「履歴・家系 宗教の有無等から 鑑みると」というセリフが出てきます。
会話なので構わないという考えもありましょうが、プレミアムの会員がこんなでたらめな日本語を話すとは思えません。
これも間違った使いかたがかなり広まっているので、無駄な抵抗だとは思うんですが、指摘しておきます。


タグ:清水玲子
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