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死者のための音楽 [日本の作家 や行]


死者のための音楽 (角川文庫)

死者のための音楽 (角川文庫)

  • 作者: 山白朝子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
  • 発売日: 2013/11/22
  • メディア: 単行本


<裏表紙あらすじ>
教わってもいない経を唱え、行ったこともない土地を語る幼い息子。逃げ込んだ井戸の底で出会った美しい女。生き物を黄金に変えてしまう廃液をたれ流す工場。仏師に弟子入りした身元不明の少女。人々を食い荒らす巨大な鬼と、村に暮らす姉弟。父を亡くした少女と巨鳥の奇妙な生活。耳の悪い母が魅せられた、死の間際に聞こえてくる美しい音楽。人との絆を描いた、怪しくも切ない7篇を収録。怪談作家、山白朝子が描く愛の物語。


作者山白朝子はいわゆる覆面作家で、東雅夫の解説での正体は伏せられていますが、もう世間ではすっかり知れ渡っていますね。乙一の別名です。
「一切の予断を排して、作品そのものと虚心に向き合ってもらいたいという並々ならぬ思い入れ」(232ページ)から別名義にした、とのことですが、乙一名義でもよかった気がしますけどねぇ。作風、あんまり変わっていませんし。
その点は「百瀬、こっちを向いて。」 (祥伝社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)などの中田永一名義も同様ですね。
もっとも、こちらは名義はどうあれ、乙一の作品が読めれば幸せなので、オッケーです。

「長い旅のはじまり」
「井戸を下りる」
「黄金工場」
「未完の像」
「鬼物語」
「鳥とファフロッキーズ現象について」
「死者のための音楽」
の7編収録の短編集です。
すべて怪談専門誌『幽』に掲載されたものです。

実は最初の2編「長い旅のはじまり」「井戸を下りる」は、なぜか読みづらかったんですね。
おそらく怪談というものと向き合う距離感をこちらが測りかねていたのでしょう(あまり読みつけていませんので)。
「黄金工場」からは極めて快調でした!

彫刻(木彫り)に命を吹き込める少女が仏像を作ろうとする「未完の像」。
「私はこれまでに何人もの人を殺してきた。近いうち捕まって縛り首にされるだろう。その前に自分で仏像を彫って残しておきたいんだ」(97ページ)という冒頭の少女のセリフ、読み返してみるとかなり含蓄深いですねぇ。

「鬼物語」は短い作品なのに、年代記のようになっていてびっくりします。
救いのない結末なのですが、それまでの動と一転して静謐な感じが漂ってきます。

「鳥とファフロッキーズ現象について」は、「未完の像」と並んで好きな作品です。
人ならぬもの(まあ、鳥ですから)、この世ならぬものでも、ちゃんと心が通い、切なさを積もらせる。
もっともいつもの乙一らしい作品といえるかもしれません。
望むものを持ってきてくれる鳥、望むように動いてくれる鳥...
蛇足ですが、この作品の「私」って女性なんですね...途中まで男の子かと思って読んでいました...(あらすじにもきちんと少女と書いてありましたが)
さらに蛇足ですが、SEKAI NO OWARI の「RAIN」の歌詞にファフロッキーズが出てきますね...

最後の表題作「死者のための音楽」も乙一らしい作品でしたが、ちょっと苦手。(念のため、申し上げておくときわめて読みやすいです)
死に際に聞こえる音楽というイメージに圧倒されます。

山白朝子名義の作品は続けて出ているので、これからも楽しめます。

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映画:ミッション:インポッシブル/フォールアウト [映画]

ミッション:インポッシブル/フォールアウト 2ad84449631bee6e.jpg

調子に乗って、またまた映画を観ました! 
月曜日に観たんですが、ぼくの行った映画館は月曜日は SUPER MONDAYS とかいって安く映画が観れます。通常料金17.04ポンドのところ、5.74ポンド。1ポンド150円として860円程度でした。
「ミッション:インポッシブル」シリーズの前作「ミッション:インポッシブル ローグ・ネーション」(感想ページへのリンクはこちら)は2015年だったんですね。もう3年も経つんですか...

シネマ・トゥデイから引用します。

見どころ:
イーサン・ハント率いるスパイチームの活躍を描いた人気シリーズの第6弾。複数のプルトニウムを盗んだ犯人をイーサンたちが追う。前作『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』に続いてクリストファー・マッカリーがメガホンを取り、トム・クルーズ、サイモン・ペッグらおなじみの面々が結集。飛行するヘリコプターにしがみついたり、ビルからビルへ跳躍したりするなど、トム渾身のスタントが今作でも見られる。

先日観た「ジュラシック・ワールド/炎の王国」(感想ページへのリンクはこちら)と比べるとセリフの重要性が上がっていて...
もちろん、アクション満載なので楽しむことは楽しみましたが、セリフ聞き取れたらきっともっと面白く感じたことでしょう。ああ...

映画のHPからあらすじを引用します。
IMFのエージェント“イーサン・ハント”と彼のチームは、盗まれた3つのプルトニウムの回収を目前にしていた。だが、突如現れた何者かの策略で仲間の命が危険にさらされ、その最中にプルトニウムを奪われてしまう。イーサンとIMFチームは、プルトニウムを再び奪い返し、複数の都市の“同時核爆発を未然に防ぐ新たなミッション”を受ける。この事件の裏側には、シンジケートの生き残り勢力が結成したアポストル(神の使徒)が関連しており、手がかりは“ジョン・ラーク”という正体不明の男の名前と彼が接触する“ホワイト・ウィドウ”と呼ばれる謎めいた女の存在のみ。だが今回のミッションに対しイーサンの動きを不服とするCIAは、敏腕エージェントのウォーカーを監視役に同行させることを条件とした。
イーサンはホワイト・ウィドウの信頼を得るため、やむなく収監中の敵“ソロモン・レーン”の脱走に手を貸すが、その影響で味方の女スパイ“イルサ”と対立してしまう。一方、同行するウォーカーはイーサンへの疑惑を深め、二人はやがて対決の時を迎える。
やがてタイムリミットが刻一刻と迫る絶体絶命の中で、チームの仲間や愛する妻の命まで危険にさらされる等、いくつもの〈フォールアウト(余波)〉がイーサン・ハントに降りかかる・・・。

このあらすじ程度のことはなんとかわかったんですけど、ちゃんとあれこれ予習してから映画観ればよかったなぁ。(予断なく観たいという気持ちもあるんですが、ちゃんと理解できなきゃどうしようもないですしね)
ストーリーはかなり破綻していまして(ちゃんと聞き取れなかったから、というだけではないと思います)、そのあたりは無視して舞台となっている場所とアクションを楽しむ映画かと思います。
(シリーズ第1作なんかだと、セリフが聞き取れないと楽しめなかったと思います)
ロンドンも舞台になっていまして、見た場所、知った場所があちこち登場したのもうれしかったですね。
あとはパリでしょうか。カー・チェイスすごいです。
カシミール(だったかな?)のヘリコプターのアクションも。

最初の頃は頻繁に変わっていたと思いましたが、シリーズが進んできて、イーサンのチームのメンバーもだいぶ固まってきましたね。数が少なすぎる気もしますが。
前作に続いて、アレックス・ボールドウィンがいい役やってますねぇ。

しかしハラハラすることは間違いないんですが、核兵器を止める、というストーリー、だいぶ食傷気味です。
それにシリーズを重ねてきて、核兵器にまでたどり着いてしまったら、今後イーサンは何と戦うのでしょう? いつもいつも核兵器では映画として芸がないですよね... 余計なお世話ですけど。

シリーズの今後といえば...
この「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」には、イーサン・ハントの恋愛(?) みたいな要素があります。これ、このシリーズには不要だと思うんですけど。今後が心配です。
まあ、どうなっても次作が出たらきっと観ちゃうんですが。


<蛇足>
副題にもなっている FALLOUT。引用したHPのあらすじでは「余波」となっていますが、調べてみると「放射性降下物」のようですね。
fall out と2語にすると、外へ落ちる、(…と)仲たがいする、結局…となる、隊列を去る、あたりの意味を持つようです。


英題:MISSION:IMPOSSIBLE - FALLOUT
製作年:2018年
製作国:アメリカ


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木足の猿 [日本の作家 た行]


木足(もくそく)の猿

木足(もくそく)の猿

  • 作者: 戸南 浩平
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/02/16
  • メディア: 単行本


<裏表紙側帯あらすじ>
明治九年、英国人が連続して斬殺され、その生首がさらされるという事件が起きた。
居合の達人にして左足が義足の奥井隆之は、刎頸の友・水口修二郎の仇を追い、江戸から明治とかわる日本を流離っている。水口は藩内での疑獄事件に巻き込まれ、斬殺されていた。奥井は友の形見の刀を仕込み杖に忍ばせ、友の復讐を誓い、藩を出たのだ。英国人殺しで国内が騒然とする中、事件の背後に水口の仇が関わっていることを知り、奥井は「ディテクティヴ」として生首事件の犯人を追うことになるのだが……。


単行本です。
第20回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
日本ミステリー文学大賞新人賞も20年になるんですね...正直、過去の受賞作はあまりぱっとしないというか...
さて、記念すべき20年目の受賞作はどうだったでしょうか。

まず、読みだす前に、木足って何?
辞書に載っていないような...読んでみたところ義足のことでした...こんな日本語あるのかな?
新人賞応募時点でのタイトルは「白骨の首」だったらしいので、それよりははるかにましなタイトルというべきかもしれませんが、うーん、どうだろう?

いくつかの新人賞の受賞作は必ず買いますので、買うときにあらすじも中身も確認しません。表紙も書店ですぐにカバーをかけてもらうので見ていません。
タイトルだけ見て、「木足の猿」か、ハードボイルドだな、と勝手に思い込んでいました。
あらすじをご覧いただくとお分かりのように、明治初期を舞台にした時代物でした...
ただ、時代の変わり目というタイミングを背景に、ハードボイルド的な展開をします。
なかなか面白いところを狙った作品だなぁと思いました。

ところが、残念なことにすごく読みにくかったです。
文章はさほどまずいと思わないので、相性が合わなかったんでしょうね。
実は冒頭あれれと思うことがありまして。
主人公奥井は、友水口の仇を討とうとしているという設定なんですが、この水口、公金横領をしており、そのことに気づいた同輩矢島に恐喝されたところを、矢島を亡き者にしようと切りかかり、返り討ちにあって命を落とした、というのです。
こんなかたちで死んだ友人の仇など討つ必要ないと思いませんか?
「強請られたあげく返り討ちにあった友の無念さを思うと、いてもたってもいられなかった。たとえ水口が公金横領の大罪を犯したとしても、矢島にも強請りを行ったという非がある。本来なら喧嘩両成敗の定法どおり、矢島は切腹してことを収めるべきであるのに、卑怯にも命が惜しくて逃げたのだ。
 水口が罪人であっても親友であり、おれの命を救ってくれた男だ。その者がたとえどんな人間であろうと、自らの命もかえりみずおれを救ってくれたことに変わりはない。おれが水口の無念をはらさねば義理が立たぬ。天のあいつに顔向けができない。」(31ページ)
と書かれてはいるのですが、なんか無理やりな言い訳にしか見えません。
読みにくかったのは、このあたりのひっかかりが大きくて、物語のリズムに乗り切れなかったのかもしれません。

主人公が義足というハンデを負っていることをはじめとして、ラストのどんでん返しに至るまで、時代背景を別にするときわめてオーソドックスなハードボイルドの1つのパターンに忠実です。
ファム・ファタールが設定されていないのが不思議なくらい。
明治に入り、近代化を急ぐ日本で起こった外国人を狙った連続殺人で、しかも首を切って晒していく...
派手な事件ですが、捜査は地道ですし、人物の出し入れもしっかりしています。
帯に引用してありますが、選考委員・綾辻行人が「ミステリーとしての構図・企みも筋が良い。」というのもなるほどな、というところです。

これで事件に目新しさがあって、もっとちゃんと時代色を感じさせるようにしてくれればよかったのですが。
たとえば、江戸から明治になり、市民平等になることで追い詰められていく侍の様子も、しきりに語られるのですが、こうだああだと地の文で説明したり登場人物の口から説明させたりするのではなく、物語に溶け込ませてくれれば...
でも、これはデビュー作、今後の成長は期待できる作家かな、と思いました。


<蛇足1>
「風呂に入ったり水着にでもならなければわかりようがない。」(48ページ)
目くじらを立てても~、というところですが、~たりの使いかたがなってませんね。
また、この時代”水着”ってあったんでしょうか?
あちこちにこの種の時代考証ミスはあります。
「お前も攘夷派みたくなってきたな」(88ページ)
というのも小説としては困りものですね。
~みたく、というのは日本語の表現としてはいかがなものでしょうか。ほんのここ数十年で広まってきている気がしますが。

<蛇足2>
帯に、「男たちの生き様が熱く、せつない」とあります。
生き様...光文社のレベルの低さが....




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かくして殺人へ [海外の作家 カーター・ディクスン]

かくして殺人へ (創元推理文庫)

かくして殺人へ (創元推理文庫)

  • 作者: カーター・ディクスン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/01/28
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
牧師の娘モニカ・スタントンは、初めて書いた小説でいきなり大当たり。しかし伯母にやいやい言われ、生まれ育った村を飛び出してロンドン近郊の映画撮影所にやってきた。さあ仕事だと意気込むが、何度も死と隣り合わせの目に遭う。犯人も動機も雲を掴むばかり。見かねた探偵作家がヘンリ・メリヴェール卿に助力を求めて……。灯火管制下の英国を舞台に描かれた、H・M卿活躍譚。


この作品は新樹社ミステリーで単行本として出たときに読んでいます。
文庫化にあたって、全面的に改稿したそうです。
しかしまあ、見事に忘れていますね。

カーお得意の(へたくそだという人も大勢いらっしゃると思いますが、個人的には非常に味わい深いと思っています)ロマンスがフル回転するサスペンスものです。
主人公であるモニカが襲われる危機というのが、硫酸をかけられそうになる、銃撃される、というものなので、かなり深刻な事件なわけですが、どこかしらドタバタ喜劇を見ているような...
それは一つには映画撮影所を舞台にしているから、ということもありますが、やはりモニカとウィリアム・カーマイケルのやりとりが、(少なくとも周りや読者には)ユーモラスだから、かと思います。

探偵役はH・M卿なんですが、すごーく控え目で、なかなか出てきません。
第十四章まである本書で、第八章までは姿を見せず、そのあともなかなか腰をあげません。
しかも、事件については
「いったじゃろう」「わしはなくなったフィルムに興味があるのであって、ほかのことはどうでもいい。」「わしが暇だとでも思うのか? ほしいのはあのフィルムだというのに、水晶球を見て殺人者を占えと?」(177ページ)
なんて冷たいことをいう...
このフィルム消失事件というのが、まあ、脱力ものというか、なんか作者はH・M卿へのいじわるのためだけに考えついたのでしょうか(笑)?

事件のほうは、ドタバタに埋もれてしまっていますが、よく考えられた仕掛けが抛りこまれていまして(そのあたりはSAKATAMさんの黄金の羊毛亭をご覧ください)、面白い狙いが込められています。
解説では霞流一がベスト10級の古典作品(リンクをはっています。ネタバレになるのでクリックする際はお気をつけください)へのチャレンジだと指摘していますが、正直ピンときません。というか、この「かくして殺人へ 」某作品へのチャレンジだというのなら、数多の作品も同様にチャレンジとなってしまいますし、取り立てて「かくして殺人へ 」を指摘することもないかな、と。
それに本書の狙いは、ベスト10級の古典作品と同じ方向ではないように思います。SAKATAMAさんはクリスティ「ABC殺人事件」 (ハヤカワ文庫)をあげておられますが(鋭い!)、ぼくは個人的に同じ作者の「葬儀を終えて」 (ハヤカワ文庫)を連想しました。まったく手つきは違うんですが。

ということで、カー(カーター・ディクスン)にしては軽量級であまり高く評価はされていませんが、そこそこイケてる作品なのでは、と思いました。


<蛇足1>
70ページに
「じゃあ、わたしはほんの十九にしか見えなかったっていうの?」
「十九歳に見られただなんて、本当は二十二で、自分では二十八には見えると思っていたのに。」
というのが出てきます。
若く見えればいい、というわけではないんですね。
日本だと喜ぶ人が結構いるような気がしますが。

<蛇足2>
「なあ、若きソーンダイク博士、本物の刑事なら、それを最初に訊くんじゃないんか?」(103ページ)
シャーロック・ホームズではなくて、ソーンダイク博士が出てくるところがおもしろいですね。

<蛇足3>
「少なくとも彼には、比べるまでもなくこの手紙の筆跡が黒板の文字と同じだとわかった。」(127ぺージ)
とあるのですが、紙に書く筆跡と、黒板の筆跡ってそんな簡単に比べられるものでしょうか?
まあ、それくらい似ていた、ということかもしれませんが...素人的にはずいぶん違う気がします。

<蛇足4>
貴族院に行かされるのをいやがるH・M卿というのが一つのフォーマットとなっているのですが、ケンに
「貴族の称号をやれといわれても、謹んで断ればいいでしょう?」(181ページ)
と言われて
「おやおや!おまえさんとて結婚しておるじゃろう?」(同)
と返すH・M卿がおかしい...しかも
「加えて、適齢期の娘がふたりおる。ケン、貴族の称号を断ったら家でどんな目に遭うか、考えるのも耐えがたい。夢に見て、冷や汗をかいて目を覚ます始末だ」(同)
と続きます。
H・M卿って、こういうキャラだったんですね...


原題:And So to Murder
著者:Carter Dickson
刊行:1940年
訳者:白須清美







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夏をなくした少年たち [日本の作家 あ行]


夏をなくした少年たち

夏をなくした少年たち

  • 作者: 生馬 直樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/01/20
  • メディア: 単行本


<裏表紙側帯あらすじ>
僕たちの夏の大冒険は、
あまりにも哀しかった――。
拓海と啓、雪丸と国実は新潟の田舎町に住むお騒がせ4人組。小学校最後の夏、花火大会の夜に、僕たちは想像を絶するほどの後悔を知った――。それから20年余り。惨めな遺体が発見され、あの悲劇の夜に封印された謎に、決着をつける時がきた。


奥付が2017年1月の単行本です。
第3回新潮ミステリー大賞受賞作。
新潮ミステリー大賞というと、
第1回受賞作が「サナキの森」 (新潮文庫)(感想ページへのリンクはこちら)、
第2回受賞作が「レプリカたちの夜」(新潮社)(感想ページへのリンクはこちら
と、ミステリ的には控えめに言っても今一つな作品が続いていたので、第3回はどうかなぁ、と余計なお世話ながら少し心配して読み出しました。

プロローグで死体が発見され、その死体は刑事の一人の知り合いのようで...
すると場面が切り替わって、第一部は少年時代(小学6年生)の回想となります。
そして第二部で現在に戻ってプロローグで発見された死の謎が解かれる。
ミステリーらしい結構を備えた作品ではありますが、正直ミステリとしては薄味でしたね。
プロローグはともかくとして、第一部はちょっと不自然なところもありますが、それでも回想は楽しく読めました。

しかしねぇ、第二部に入ると...
プロローグの書き方からすると、殺されたのは誰か、そして殺したのは誰か、この2つが焦点となるミステリーだ、と読者は思います。
ところがところが、この2つとも簡単にわかってしまいます。これで作者が隠しているつもりだとしたら読者のレベルをあまりにも低く見積もりすぎでしょう。
また過去の事件の動機もちょっとなぁ。これと似たような動機は、ずっとずっと昔に東野圭吾がもっともっと効果的に、納得できるように書いていましたが(ネタバレになるので署名はここにはかかず、amazon へのリンクをはるだけにしておきます)、その作品すら動機がだめだと当時言われちゃってしましたからねぇ... それに動機の原因も、ちょっとありえないんじゃないですか? 作者は男性のようですが計算違いだと思います。
最後に出てくる誘拐話も、正直蛇足ですね。ないほうがすっきりしたと思います。

ということで、この作品はミステリとしてではなく、第一部とそれから20年以上たった現在とを結ぶ元少年たちを味わう作品、ということになりそうです。
大人になってから振り返る少年時代、という彩りは、しっかりと味わえます。(少年の目から見た少年時代ではない点にはご留意ください)
この作者、ミステリからさっさと離れていくような気がします...

これだけミステリとして薄味な作品が続くと、新潮ミステリー大賞ってどうなるのかなぁと思っていたら、第4回は受賞作なしだったんですね。


<2020年2月追加>
2019年7月に文庫化されていたので、書影を。

夏をなくした少年たち (新潮文庫)

夏をなくした少年たち (新潮文庫)

  • 作者: 直樹, 生馬
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/07/26
  • メディア: 文庫



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映画:ジュラシック・ワールド/炎の王国 [映画]

ジュラシック・ワールド/炎の王国 T0022681p.jpg

映画を観ました! ロンドンで。
といっても、セリフが聞き取れなくても問題なさそうな「ジュラシック・ワールド/炎の王国」です。
セリフがかなり聞き取れていない人間の感想なので、その点は考慮して読んでくだされば幸いです。

シネマ・トゥデイから引用します。
見どころ:恐竜が放たれたテーマパークが舞台のアドベンチャー『ジュラシック・ワールド』の続編。火山噴火が迫る島から恐竜を救い出そうとする者たちの冒険を活写する。監督は『インポッシブル』などのJ・A・バヨナ。前作にも出演した『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズなどのクリス・プラット、『レディ・イン・ザ・ウォーター』などのブライス・ダラス・ハワードをはじめ、『インデペンデンス・デイ』などのジェフ・ゴールドブラムらが出演する。

あらすじ:ハイブリッド恐竜インドミナス・レックスとT-REXの激しいバトルで崩壊した「ジュラシック・ワールド」があるイスラ・ヌブラル島の火山に、噴火の予兆が見られた。恐竜たちを見殺しにするのか、彼らを救うべきか。テーマパークの運営責任者だったクレア(ブライス・ダラス・ハワード)と恐竜行動学の専門家であるオーウェン(クリス・プラット)は、悩みながらも恐竜救出を決意し島へ向かうが、火山が噴火してしまい……。

セリフ聞き取れなくても、十分に楽しめる内容でした。
なにしろ次から次へと話が展開していきますから、ついていくだけであっという間にエンディングへ!
ジェットコースター・ムービーの面目躍如です。

火山が噴火して危険な島から恐竜を救出する? と思っていたら、その恐竜をアメリカのお屋敷へ。
(若干ネタバレですが...)そのお屋敷では遺伝子操作した新種の恐竜(しかも武器として使うのだそうだ)ができていて... また恐竜のオークションまで...

お屋敷の中で暴れまわる恐竜というのは、恐ろしいことは恐ろしいのですが、狭苦しいところをどう暴れるのかな、と変な興味のほうが強くて不思議な観心地でした。
悪者がきっちり殺戮されていくのも、お約束通りで期待通り!

足音などで恐竜が近づいてきていることがわかるシーンって、いつもドキドキしますね。
ロンドンの映画館は音響がすごいのか、低音が響くときにはなんだか席まで震えたような(4Dではありません)。迫力ありました。
実際、お屋敷なんかで恐竜が近づいてくる際には、ほぼ野生に近い恐竜なので、匂いがすごいんじゃないかな、と思ったりもしますが(もっとも、体験したくないにおいですが...)。

うれしかったのは、前作「ジュラシック・ワールド」(ブログの感想へのリンクはこちら)に出てきたブルーと名付けられたラプトル(ヴェロキラプトル)が今度も大活躍することです。
まあ、主人公たち(特にクリス・プラット演じるオーウェン)はブルーを救い出すために島へ行くといってもいいくらいなんですけどね。

ラストシーンについていえば、前作は前作で、ブルーを島へ残そうとするオーウェンとブルーの別れが印象的だったのですが、今回は今回で、最後のブルーの姿は印象に強く残ります。
「ジュラシック・ワールド」シリーズはもう1作作られるようなんですが、そこでもきっとブルーの活躍が見られることと信じています。楽しみ。

ロンドンの映画館では(街の中心レスター・スクエアにある映画館で観たんですが)、観客はエンドロールの前にさっさと立って帰ってしまって、エンドロールまで観続けていたのは10人もいませんでした。
たいした内容ではありませんが、エンドロールのあとにも映像が出てきたので、最後まで座り続けてみてよかったと思いました。
この映像見ると、続編のスペクタクルぶりをどうしても予想してしまいますね。
なんかディザスターものに近くなるかも、と思わせてくれます。楽しみ。


英題:JURASSIC WORLD: FALLEN KINGDOM
製作年:2018年
製作国:アメリカ


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あなたに贈るX(キス) [日本の作家 近藤史恵]

あなたに贈るX(キス) (PHP文芸文庫)

あなたに贈るX(キス) (PHP文芸文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2015/03/09
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
感染から数週間で確実に死に至る病。そのウイルスの感染ルートはただひとつ、唇を合わせること。かつては愛情を示すとされたその行為は、国際的に禁じられ、封印されている。しかし、ある全寮制の学園で一人の女生徒が亡くなり、「彼女の死は、“あの病”によるものらしい」と不穏な噂が駆け巡った。真相を探る後輩の美詩が辿り着いた、あまりに甘く残酷な事実とは。鮮烈な印象を残す青春ミステリー。


ソムノスフォビア(唾液感染性睡眠恐怖症)。
2013年11月にはじめて発見されたという設定の架空の病気が蔓延した後の世界を舞台にした作品です。
発症してから早い者で一週間、遅い患者でも二ヶ月以内に死に至る致死率百パーセントの病気。
で、唾液に潜んだウィルスらしきものが病を引き起こし、ウィルスは強い嫌気性を持っているので、飛沫感染はなく、唯一唾液が直接触れ合う、キスにより感染する、と。
そして、このウィルスにはキャリア(ウィルス保持者)が存在し、キャリアは発症しない。キャリアは母子感染の例も多い。キャリアかどうか判定する検査法は見つかっていない。
おもしろい設定ですね。
この病気のお蔭で、キスが違法行為として禁じられた世界。
全寮制の高等学校リセ・アルビュスを舞台にしています。
こういう舞台、映画や小説で多く見かけますが、なかなかいいですよね。
憧れだった先輩織恵が死に、死因がソムノスフォビアだった、と。せっかく仲良くなれたのに...
織恵が残した謎のメール
「真のSeptember、三十一日に会いましょう」
とはどういうことか?
この段階で、実はひょっとして真相はこういうことじゃないかなぁ、という1つの推理(?) ができました。9月31日の謎も見当がつきました(これはわかりやすいですよね)。
そしてその通りでした。(←自慢です)
病気の設定を前提にあれこれ考えたら、いちばんナチュラルに思えたところへ物語は進んでいきます。
ちょっと斜に構えた砂川少年と数学教師竹内(男)との禁断の恋(!?)のエピソードも、無理なく解決にたどり着くためにちゃんと貢献しているところも素晴らしいですね。

「夕映えの向こうに」という短編が収録されていますが、こちらはボーナストラックとでも呼びたくなるようなスピンオフでして、砂川と竹内の物語になっています。

この作品、舞台化されたんですね。
確かに、舞台映えしそう...


<蛇足>
うわっ、これまるで「ニュー・シネマ・パラダイス」 [DVD]だよね、というシーン(102ページ~)があって、楽しくなりました!


<蛇足2>
ずいぶん下劣な内容、かつネタバレになるので、字の色を変えておきます。
この病気ソムノスフォビアですが、唾液に含まれたウィルスにより感染する。強い嫌気性のため飛沫感染はせずキスのみで感染する。
という設定ですが、「唇をふれただけ」のキスだと唾液の出番はあんまりないと思うので(もちろん注意はしなければいけませんが)、いわゆるディープキスが対象ですね。
とすると、この作品のとても印象的な終盤の205ページのシーンでは感染しない可能性が大のような気がします...

この部分を離れて、病気そのものを考えると...(ここからお下劣炸裂です)
感染させる人と感染させられる人を考えると、感染させる人からウィルスを渡すのは唾液が介在としても、感染させられる人は何を通してウィルスを受け取るのでしょうか?
体内に吸収するシステムとしてキスならば直接口の中へ感染させる人の唾液が侵入してきますから感染する=感染させる人の唾液が外気に触れないで感染させられる人の体内に入れば感染するという仕組みだとすると、感染する可能性があるのはキスだけとは限らないと思います。
いわゆるオーラル・セックスの類はすべて感染する可能性が大なのではなかろうか、とそんなことを考えました。とすると性行為すればかなりの確率で感染してしまうんじゃないかなぁ??
作中ではキス以外で発症したことはなさそうに扱われていますから、とすると唾液が口に入ってきたときだけ感染する、ということになります。
考えられるのは、ウィルスは唾液 to 唾液でしか感染しない!!...かなり限定的な感染ですね。
いくら仮定の病気でもちょっと無理がないかなぁ...この作品にずいぶん都合のよい病気ですね。
もっともこんなことは、この作品の価値を微塵も損ないません。ゲスの勝手推量です...(笑)

<蛇足3>
「一生懸命勉強しなければならないのに」(124ページ)
という記述があって、がっかり。
一生懸命は間違いだ、というのはもはや無駄な抵抗なのでしょうねぇ...






タグ:近藤史恵
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きみのため青く光る [日本の作家 似鳥鶏]

きみのために青く光る (角川文庫)

きみのために青く光る (角川文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/07/25
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
青藍病。それは心の不安に根ざして発症するとされる異能力だ。力が発動すると身体が青く光る共通点以外、能力はバラバラ。たとえば動物から攻撃される能力や、念じるだけで生き物を殺せる能力、はたまた人の死期を悟る能力など――。思わぬ力を手に入れた男女が選ぶ運命とは。もしも不思議な力を手に入れたなら、あなたは何のために使いますか? 愛おしく切ない青春ファンタジック・ミステリ! 『青藍病治療マニュアル』改題。

いつもお世話になっているHPによりますと、似鳥鶏15作目の作品です。
単行本のときのタイトルは、「青藍病治療マニュアル」
あらすじにも帯にも「青春ファンタジック・ミステリ」と書いてありまして、その表現がぴったりの作品です。改題後のタイトルのほうが内容を連想しやすいかもしれませんね。
「犬が光る」
「この世界に二人だけ」
「年収の魔法使い」
「嘘をつく。そして決して離さない」
4編収録の連作といったほうがよいですかね?

この作品における青藍病(異能症とも呼ばれています)は、要するところ特殊能力を有するようになる疾病でして、その内容が人それぞれというのがポイントですね。
このような特殊能力を持ってしまった人の物語、特に哀しみに焦点をあてたものは、日本作家お得意のジャンルですね。
ただ、これまではホラー系の作品が多かったような印象で、この「きみのために青く光る」 (角川文庫)のような扱いは新しいかもしれません。青少年期にふさわしいテーマかも、とも思いました。
(もっとも、ラノベにたくさんありそうな気がしますが)

「犬が光る」は、動物から攻撃されることができる能力、というもので、こんな能力どうやって使うねん!? という感じですが、有効活用したとき、「おおっ」と膝を打つような感じ。かなり特殊だけどね。それにつれて、僕の成長物語となると当時に、ボーイ・ミーツ・ガールが深まっていくのがよかったですね。

「この世界に二人だけ」は、かなり物騒ですが、念じるだけで生き物を殺せる能力。
同じ能力を持つものが二人いるというのがポイントですね。
この作品には、「なぜ人を殺してはいけないか?」という問いも扱われていまして、興味深いです。
「なぜ皆は『人を殺してはいけない』と言うのか?」に言い換えるところがミソとなっています。

「年収の魔法使い」は、他人の年収、しかも手取りベースがわかるという能力。こんなもんミステリ、あるいはサスペンス的にどう使うんじゃ? と思いますが、さすが似鳥鶏うまいもんですねぇ。ちょっとうまくいくかな? と懸念するところはありますが...。
それよりもこの作品で一番興味を惹いたのは、若干ネタバレですが、誤振込の取り扱いですね。
不法利得返還請求権、不当原因給付と組み合わせてとてもおもしろい中身になっています。これを利用した前例(となるようなミステリ作品)なかったでしょうか? 思いつきませんが。

最後の「嘘をつく。そして決して離さない」は、あらすじによると「人の死期を悟る能力」。ラストを飾るにふさわしい能力と思われますし、一冊の中で一番長い作品で、「犬が光る」の主人公がチョイ役で友情出演(?) しています。

このパターン、シリーズ化可能ですが、続編書かれているのでしょうか?

<蛇足>
「札幌の高校生は北大のことを『そこの大学』って言うんだね」(323ページ)
というセリフがあります。おもしろいですね。
知り合いの北大出身者に聞いてみましたが、高校が札幌ではなかったからかもしれませんが、聞いたことない、と。時代が違うのかも...


タグ:似鳥鶏
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その可能性はすでに考えた [日本の作家 あ行]

その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

  • 作者: 井上 真偽
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/02/15
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
山村で起きたカルト宗教団体の斬首集団自殺。唯一生き残った少女には、首を斬られた少年が自分を抱えて運ぶ不可解な記憶があった。首無し聖人伝説の如き事件の真相とは? 探偵・上苙(うえおろ)丞はその謎が奇蹟であることを証明しようとする。論理の面白さと奇蹟の存在を信じる斬新な探偵にミステリ界激賞の話題作。


「2016本格ミステリ・ベスト10」第5位です。
帯に「本格ミステリにまだこんな発想があったのか!?」とありまして、おそらくそれは事件・謎が奇蹟であることを証明しようとするという探偵の設定を指していると思われ、そして確かにそういう狙いを持った探偵は新しいとは思うんですが、これ、成功していますか?
「人知の及ぶあらゆる可能性を全て否定できれば、それはもう人知を超えた現象と言えませんか?」(86ページ)
といって、あらゆる可能性をつぶしていく...

そもそも奇蹟を調べる探偵というのは過去に数多例があり、それを裏返しただけだといえばそれだけの気もしますが(なぜなら奇蹟を奇蹟でないとして謎を探ろうと、奇蹟を奇蹟だとするために可能性をつぶしていこうと、合理的な解決を探すという点でやることは同じです...)、それは「コロンブスの卵」だとして認めるとしても、奇蹟だと証明してしまってはミステリにはなりませんから、謎を解き事件を解決してしまうわけですが、奇蹟を追い求めるという点では失敗が宿命づけられているわけですよね。
どうなんでしょうか、この構図は。
シリーズ第2作の「聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた」 (講談社文庫)はもっと好評のようですので、そちらを読めばこの疑念が解消することを期待します。

いろいろな読み方・楽しみ方のできる作品になっていると思いましたが、個人的にポイントは大きく分けて2つだと思いました。

1つ目は、事件そのものですね。
奇蹟と思わせるだけあって、かなりの不可能味あふれた事件になっています。
首を斬られた少年に抱えられて運ばれた記憶...ほかにも舞台をかなり特殊な設定にしてあって、密室状況とか不可能状況てんこ盛りです!
こんなもんどうやって合理的に解決するんかいな、と思いますが、かなりの剛腕でやり遂げてくれています。
こういうの好きです。

2つ目は、探偵とライバルたちとの推理対決、というか論理対決ですね。
多重解決ものには違いないですが、多重解決ものというには「ちょっとどうかなぁ」と思える怪しい解決案だったりするのですが、奇蹟を証明しようとする探偵とその失敗を狙うライバルという構図だとこういうのも、あり、なんですよね。
バカトリックを惜しげもなく投入できますね!
ただ、この部分の最大の読みどころは、仮説3つを探偵が首尾よくつぶしたあとに訪れる反撃のところ(第5章)にあるんだと思うんですが、ここがどうもね。
確かに、発想の逆転というのか、あるいは、視点のずらしというのか、うまく考えられているように思えるんですが...
高校の時数学で習った論理で、
『「AならばB」という命題があったとき「Aが偽ならば、Bが真であっても偽であっても、命題そのものは真となる」』
と聞いたときに、なんだか騙されたような気がしたのを思い出しました。これ、論理的には正しいのでしょうが、インチキくさいですよね。わかりにくいたとえですみませんが...
もっともここを輝かせるために、事件なりそれまでの仮説なりが周到に組み立てられていますし、そこからさらに本当の真相に至る道筋が開けるように構成されていると思うので、感服はするんですけどね。

というわけで、結局のところ、楽しく読みはしたし、結構好きな作品だな、と思ったんですが、出来栄えというと狙いほどには成功していない、まだまだ実験作の段階、という気がしてなりません。
でも、「聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた」 (講談社文庫)がすごく楽しみです。


最後に、この本については、SAKATAMさんのHP「黄金の羊毛亭」に素晴らしい解説とネタバレ解説(ネタバレ解説は、普通の解説のページからのリンクでご訪問ください)がありますので、ぜひご参照ください。(勝手リンクですみません)


<蛇足1>
「有名な古刹(古寺)」(103ページ)という無神経極まりない記述があり、思わず力が抜けてしまいました...なんじゃ、これ? 笑うしかないですね...

<蛇足2>
「不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる(When you have eliminated the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth.)」(261ページ)
とホームズの台詞が英語付きで引用されています。
最近、このセリフが引用された別の作品(ハーラン・コーベン「偽りの銃弾」 (小学館文庫)。感想ページへのリンクはこちら)を読んだばっかりだったので、なんだか変な気分でした。


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三毛猫ホームズの復活祭 [日本の作家 赤川次郎]

三毛猫ホームズの復活祭 (カッパノベルス)

三毛猫ホームズの復活祭 (カッパノベルス)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/05/17
  • メディア: 新書

<裏表紙あらすじ>
凶悪な詐欺事件の裏にひそむ哀しき秘密とは……?
運命を狂わせる難事件に片山&ホームズが挑戦する!
高畠和人の母は、〈オレオレ詐欺〉に引っ掛かり、さらにトラックに歩を進めて重体に。一方、片山と妹の晴美は、別件の〈オレオレ詐欺〉の犯行を阻止するも、用済みとなった受け渡し役の男は殺されてしまった。事件の捜査過程で得た手がかりを頼りに片山は、“K学院”の寄宿舎で暮らす三輪山和美という女性徒を訪ねる。彼女と詐欺犯の意外な関係とは? さらに寄宿舎には和美の祖父や高畠の娘、おなじみの石津もやって来るのだが……。片山とホームズの推理が冴える、国民的シリーズ第52弾!


三毛猫ホームズシリーズも52冊目ですか...すごいですねぇ。
と前作「三毛猫ホームズの証言台」 (カッパ・ノベルス)の感想(リンクはこちら)と同じ書き出しで始めてしまいました。
あらすじにも、帯にも「国民的シリーズ」と書いてあって、確かにこれだけ冊数が重なるとそういってもいいのかもしれませんね。
とはいえ一時期の勢いはなくなっていますので、赤川次郎の読者って今どのくらいいるんでしょうね?

今回取り上げたのは〈オレオレ詐欺〉。義憤にぴったりのテーマです。
それと舞台になるのが、山奥の学校。寄宿学校だけど、春休みでみんな帰省してしまっているという設定。
この寄宿学校がすごいですね。学校だけでなくて、ヘリコプターで迎えに来る親たちとかも。
赤川次郎らしい設定といえば設定ですが。

ただ、プロットはかなり荒いですね。
こういう作風の作品にご都合主義と言っても詮無いことかもしれませんが、もうちょっと工夫してもらってもいいかな?
人間関係を錯綜させるため、というのはわかるんですけど...

またこれはあらすじの問題であって(なのでおそらく編集者の問題であって)作者の問題ではありませんが、「凶悪な詐欺事件の裏にひそむ哀しき秘密」というほど「哀しい」秘密には思えませんでした。
むしろ単に凶悪なだけ!?

最後が希望がうかがえるエンディングになっているところは、さすがの安心印ではありました。


<蛇足1>
学校に生徒で残るただ一人となった和美が、寄宿舎のおばさんと
「生徒はいないけど、この私がいるわ」(46ページ)
と会話して、読者ともどもすごい状況だなぁ、と思うところなんですが、次の章で、先生も一人残っていることがわかります。
当然その先生の食事も寄宿舎で用意されるんでしょうし(実際に一緒にご飯を食べるシーンがありますし、さらに後には片山刑事たちもごちそうに?なります)、46ページの会話はちょっと???ですね...


<蛇足2>
タイトルの復活祭、あんまりよくわかりませんでした。
舞台となった時期的なものでしょうか?
イースターは年によって移動しますが、春休みごろのことが多い気がします。


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