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海泡 [日本の作家 樋口有介]

海泡 (創元推理文庫)

海泡 (創元推理文庫)

  • 作者: 樋口 有介
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/06/11
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
大学の夏休みに、洋介は2年ぶりに小笠原へ帰省した。難病に苦しむ初恋の女性に会うのに忍びなく、帰りにくかったのだ。竹芝からフェリーで26時間、平和で退屈なはずの島では、かつての同級生がストーキングされていると噂が立ち、島一番の秀才は不可思議な言葉を呟く。やがて続けざまに起こった二つの事件。常夏の島を舞台に、伸びやかに描いた青春ミステリを大幅改稿で贈る。


2019年になりました。本年もよろしくお願いします。

樋口有介のノンシリーズ作品です。
2001年に中央公論新社より単行本で刊行され、2004年に文庫化された作品を大幅に改稿したもの、です。
樋口有介の作品なので、当然(旧バージョンを)既読ですが、大幅改稿とあれば読まねば。
(旧バージョン、まったく忘れちゃっていますが)

解説で千街晶之が
「閉鎖性と開放性の両方が混在し、明るく賑やかな夏の雰囲気とともに、不吉な死の翳りと喪失の予感がじわじわと空気を侵蝕してゆく……そんな矛盾した味わいが、この物語を印象深いものとしている」(360ページ)
と指摘していまして、すごい。うまく作品の雰囲気を伝えています。
夏の小笠原。明るく、明るく、明るい。そんな印象を受けていましたが、この作品は暑さはあっても、どことなく紗がかかっている感じ。
樋口有介の主人公がどことなく「渇いた」「浮いた」感じを漂わせるのもこの傾向に拍車をかけています。
ラストで犯人と洋介が対峙するシーンなんて、その象徴?
「人間なんて、海の泡と同じね。生まれては消えて、生まれては消えて、それで結局、それだけのことね」(257ページ)
これがタイトルの由来(?) かと思いますが、上述千街指摘の雰囲気と合わせて、本作品にぴったりかも。

個人的には、樋口有介の作品を読んでいればそれだけで至福の時間なのですが、この
「海泡」 (創元推理文庫)は、狭い範囲で意外だけれど納得感が強い犯人を描いていてミステリ的にもいいな、と思いました。
改稿(文庫化)された作品で読んでいない作品も読むべし、かもしれません。


<蛇足1>
「胎児の血液型は不安定で、出産後でもしばらくは決まらないの。だから死産の赤ちゃんに血液型はないの」(96ページ)
えっ、そうなんですか...
「本当かよ」
と洋介が答えますが、まったく「本当かよ」と思うくらいびっくりです。


<蛇足2>
「トンネルを抜けると眼下の海に鉄錆色の沈船が見えてくる」(217ページ)
沈船という語を知りませんでした...


<蛇足3>
「だが無理に忘れる必要はないんだぞ。放っておいてもどうせ、時間がおまえから彼女を奪っていく」
「そうだろうね」
「なあ洋介、人生はおまえが思っているより、ずっと短い。小利口な人間に限ってその短い人生を後悔に使ってしまう」(257ページ)
洋介と親父のやりとりですが、うーん、含蓄深いです。

<蛇足4>
解説で千街晶之が「洋介は著者の主人公としてはかなり性的に奔放な部類だが」(359ページ)と指摘していますが、うーん、奔放、ですか...個人的にはあまり奔放という印象は受けませんでした。
確かに、気軽に、というか、あっさりとセックスしてしまうところはありますが、奔放というのとはちょっと違う気がします。ベクトルは違いますが、村上春樹の登場人物たちもあっさりとセックスしますが、そういう感じ? もっとも村上春樹の登場人物たちを奔放と呼ぶのであれば、洋介は奔放というべきかもしれません。



タグ:樋口有介
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