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時空旅行者の砂時計 [日本の作家 は行]


時空旅行者の砂時計

時空旅行者の砂時計

  • 作者: 方丈 貴恵
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/10/11
  • メディア: 単行本


<カバー袖あらすじ>
瀕死の妻のために謎の声に従い、二〇一八年から一九六〇年にタイムトラベルした主人公・加茂。妻の先祖・竜泉家の人々が殺害され、後に起こった土砂崩れで一族のほとんどが亡くなった「死野の惨劇」の真相の解明が、彼女の命を救うことに繋がるという。タイムリミットは、土砂崩れがすべてを呑み込むまでの四日間。閉ざされた館の中で起こる不可能犯罪の真犯人を暴き、加茂は二〇一八年に戻ることができるのか!?
“令和のアルフレッド・ベスター”による、SF設定を本格ミステリに盛り込んだ、第二十九回鮎川哲也賞受賞作。


単行本です。
今回の鮎川哲也賞受賞作は、タイムトラベルを組み入れた本格ミステリです。
そう、あくまで本格ミステリ。SFを期待してはいけません、と言ってしまってよいのではないでしょうか。
「竜泉家の呪い」などという、カーか横溝正史か、というフレーズが盛り込まれています。
タイムトラベルには制約が多く、作中でも折に触れ説明されていますが、その前提で読者への挑戦が241ページに掲げられています。

①殺人者はだれか?
②その人物はどのように一連の不可能犯罪を生み出したのか?

この2つが挑戦の中身です。

不可能犯罪のトリックの方は、単純、と言っては叱られると思いますが、ミステリを読み慣れた方なら見当がついてしまうのではないかと思いました。
というのも、同じ原理を使った作品は多いとは言わないまでも、それなりの数の先例があるからです。
ではつまらないのかというと全くそんなことはなく、この作品ならではのアレンジが加えられていて、とてもおもしろい。
特に真相解明のため、トリック解明のための手がかりは、おもしろい使われ方だなぁと思いました。
「こういう頭の働きは、まさに本格の魅力に繋がる」と選評で北村薫が評していますが、その通りかと。

冒頭に家系図が掲げられていますが、それくらい登場人物は物故者も含めて多いため、最初とっつきにくいのですが、主要人物は絞られているので謎ときには支障ないと思います(とはいえ読んでいる途中何度も家系図を確認しましたが)。むしろ、読者への挑戦に応えようと考えると、登場人物が少なくて、犯人の見当がつきやすくなってしまっているかもしれません。
ミステリ的には、真犯人像がちょっと手垢のついた感じがして残念ではあったのですが(こういうのが受ける時代なのでしょうか?)、いろいろと細かいところにもおやっと思えるところ(いい意味です)があって、楽しい読書でした。

後味よくエンディングを迎えるのも(というと、ある意味ネタバレではあるのですが)高ポイントかと思います。(タイムトラベルもので気をつけないといけないタイムパラドックスについてはあまり深く考えずに読みました。)

この作品いかにも続編が構想されているかのようなラストシーンになっていまして、とても楽しみです。
なにしろ加納朋子の評する通り「何が飛び出すかわからないびっくり箱的な魅力がこの方にはある」のですから。

ちなみにこの作品、「2020 本格ミステリ・ベスト10」第7位です。

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